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鬼畜劇場
2007-04-07(土)
驚異の新人

僕はガソリンスタンドでバイトをしている。

と言っても、まだ始めて2ヶ月たらずだ。





そして今日、我がガソリンスタンドに新メンバーが投入された。

僕は前々から新人の噂を耳にしていた……。

その新人は新品のスポンジの様な吸収力で仕事を覚えているとか、根っからの電車オタクで、新幹線の写真を見ながら『のぞみちゃ〜ん』とか言いつつ自身の新幹線をシゴいているとか、とにかく噂の絶えない男だった。

しかし現れたその姿は、現代の平和の象徴の如く太った肥満体質のおっさんだった。

余談だが、僕はこれまで幾多の引っ越しを繰り返してきた。それによって自然に培われた人とのコミュニケーション能力は多少なりとも通常より抜きん出ていると思っていた。しかし、その僕がこれ程までに第一声に困ったのは後にも先にもコレが初めてだろう。まさか新人というカモフラージュを使っておっさんが飛び出してくるとは思わなかった……

その男、名を高橋と名乗る現役高校生だった。

まさかのハプニング。おっさんと思われたその男はなんと現役高校生、しかも2個下だった。世界は広い。
とにかく年下となればこっちのもの。とりあえず軽い挨拶を交わす。

おっさんのルックスとは似つかわしく高橋くんは、僕の事を『並川先輩』とか呼んできた。おっさんに先輩とか言われるのはあまり気持ちの良い事じゃない。

だが僕はそんな事はあまり気にしない。仕事が出来ればおっさんだろうが何だっていいじゃないか。……ところがそんな僕の暖かい気持ちをぶち壊す様に高橋くんの仕事ッぷりはまるでダメッとさんだった。というかトロ過ぎた。高橋くんが1つの窓を拭いてる間に5回は殺せる。

まさか……これが…あの噂の…まるで話が違うじゃないか!僕は心の奥でそう叫び続けた。

しかし驚いてばかりはいられない、こうしている間にもお客様はガソリンを求めてやってくるんだ。その熱い想いを胸に抱き、僕はまだ仕事のなんたるかを知らない高橋くんに弾丸の様な指示を飛ばした。

しかし、今になって思えばそれがかえって彼の逆鱗に触れてしまったのかもしれない……。

5時頃の車の激しいラッシュが終わり、僕は肩が凝ったので1人ストレッチをしていた。すると後ろから、『何ウキウキ気分なってんスカ?』と一声。間違いなく高橋くんの声だ。僕はその瞬間、世界の終わりを悟った。僕がストレッチしていたのをウキウキ気分になっていると勘違いし、『チョーシ乗ってをじゃねぇぞ』ともとれる言葉を放つとは……

しかし僕は彼に何も言い返せなかった。ついに正体を現した化け物に僕はただやられるがままだった…。

そしてその後、高橋くんは上がる時間を間違えていたらしく、早々にバイトを切り上げ、夜の闇へと姿を消した。



これがタチの悪い夢なら早く覚めて欲しい。僕はもぉ2度とあの暖かい仕事場へは帰れない様な気がした。
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