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小話
2012-08-23(木)
空洞

※宍戸さんがビッチです。

















今日は宍戸さんが用事があるから部活に遅れると聞いていたので俺も先生に頼まれていた楽器の片付けを引き受けて、放課後の人気のない棟を歩いていた。
すると背後から物音が聞こえ、誰もいないと油断していた俺はあまりにも驚いてとっさに物陰に隠れる。
何も悪いことしてないのに隠れてしまった弱虫な自分に苦笑しつつ、その音が気になってそっと廊下を覗き込んだ。
すると使われていない教室から三年生だと思われる男子生徒が気だるそうに出てきたのが見えた。

あそこの教室はもう何年も開かずの間とか日吉から聞いたことがある。
不思議に思わないはずがない。

怖さもあったが興味の方が勝って、俺は生徒がいなくなったのを確認してから忍び足で近寄り、音を立てないようにドアを開けた。
たぶん誰もいないだろう、いや絶対何もないだろう、そう願いつつ恐る恐る教室の中を覗く。

無音の教室に独特のホコリ臭さが鼻についた。
眉を潜めながら見渡すと、ここにはいない筈の人が壁にもたれ掛かってこっちを見ていた。
シャツをはだけさせ、ズボンのファスナーもだらしなく開けた姿でだるそうに無表情でこっちを見る彼は俺の知っている彼ではない。

「…宍戸、さん?」

確認するように口から出た彼の名前はびっくりするくらい震えていて、思った以上に動揺していることに気付く。
そういえば手のひらは汗でびっしょりだ。

「よお…」

「な、なにしてたんですか?…用事があるって…」

「ん?なにって…ナニしてたんだけど」

「…えっ?」

「セックス」

宍戸さんが放った言葉を理解して飲み込むまで俺は動くことが出来なかった。
だってあの宍戸さんが、あの宍戸さんが、あの宍戸さんが…。

俺が初めて恋というものを自覚した相手が、まさか、そんな。

宍戸さんは俺を見ながら薄く笑っている。
その表情は少し寂しさを含んでいるように見えた。
俺はそんな宍戸さんを見たくなくてドアを閉め足早に近づき、はだけた胸元を隠すようにシャツを合わせる。

「なんだよ…。てっきりお前もヤりてぇのかと思ったのに」

その言葉に一瞬身体が熱くなる。

「はは、動揺してんなあ。さては長太郎…童貞だろ?」

宍戸さんのシャツをギュッと握ったまま俯くしか出来ない。
耳まで真っ赤になっているのが自分でもわかる。

「俺がお前を男にしてやってもいいぜ?」

「……っ…」

宍戸さんの指がシャツを掴んでる手に触れた。
ただそれだけの刺激でビクついてしまう。

「まだローションで濡れてるし、童貞君でも入りやすいんじゃね?」

「宍戸さん…」

違和感がありすぎる。
宍戸さん、そんな寂しい顔して言うなんて本心じゃないでしょう?
俺も本当の気持ちを吐き出すから、お願い、宍戸さんも、俺だけには、本当のことを、言って下さい。
真っ赤な顔を包み隠さず晒して、至近距離で宍戸さんを見据える。
心臓は今にも破裂しそうだ。

「長太郎…?」

「俺は…宍戸さんが好きです」

「…はっ?」

「好きなんです…」

「…まさか…」

「だから、こういうこと…してほしくない、です」

宍戸さんへの想いを告げたはいいが、その後どうしていいかわからず宍戸さんから視線を外して唇を噛んだ。
宍戸さんは何も言ってくれない。
沈黙が痛い。

「…俺さ、長太郎の言う『好き』って感情、よくわからねぇんだ」

「えっ?」

「でも…初めて告られてみると…嬉しいもんだな」

「ホントに?」

「あー…うん、嬉しい」

宍戸さんは俺のことが好きじゃない。
告白しても片想い。
だけど最低なことをしてても返事が貰えなくても、嫌いになれないし、諦めたくない。

その寂しそうな表情をなんとかしてあげたい。

「こんな俺でもまだ好き?」

「…はい」

「そっか…。じゃあ長太郎に頼もうかな」

「…な、何をですか?」

「その『好き』って感情、俺に教えてくれよ」

「えっ!?」

「なあ、時間掛かってもいいから教えてくれ」

ねえ宍戸さん。
それって俺の努力次第で俺のこと好きになってくれるってこと?
本人は気付いてないだろうけど、そういうことだよね?

「わ、わかりました、教えます。…でも!その代わり、もう他の人とこういうことしないで下さい」

「こういうことって…セックス?」

「そ、そうです」

「んー、わかった。しねぇよ」

その言葉を聞いて押し寄せる安堵に深いため息で応えた。
宍戸さんはからかうように『つまり長太郎とだけヤりゃあいいんだろ?』とか突拍子もないことを言い出して、それにかなり狼狽えた俺を宍戸さんは声をあげて笑った。

俺は膨れっ面で宍戸さんのシャツのボタンをとめる。
宍戸さんはまだ笑っていて、俺の頭をぽんぽんと叩いた。

その笑顔にさえ漂う寂しさを俺は取り除くことが出来るだろうか?
宍戸さんを本当の笑顔に出来たとき、それが俺たちの始まりなのかもしれない。





















童貞鳳×ビッチ宍戸

小話にしては長くなりましたが、表に置くには微妙な内容+即席文なのでこっちに投下!
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