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名前変換無極短小説 ※狂・グロ・微裏…含有※ shortの小ネタになるので内容が被ることがあります
2014-09-10(水)
月と路地とタバコ(アカギ)

月が満ちた晩は明るい。
満月に近い、月が地球に近い、雲がない。

いつもは真っ暗で自分の体すら見えないくらいだった路上で、私はカツカツと足音を鳴らして家路に急いでいた。


不意に視界に入った黒い影に視線を上げると、思いもよらない人物が立っていて私は小さな悲鳴を上げた。


「あ、アカギ…くん…?」


ニヤリと笑う彼の後ろには丸い月。
ポケットに左手を突っ込み、右手はタバコを持っている。
どうしてこんな時間にこんな所に、と口にしかけて止めた。
恐らく出勤……稼ぎに行くのだろうと思い当たったからだ。
朝出勤して夕方、長くて夜には家路に着く私。
夜雀荘に現れて、朝方にはコンビニの買い物袋に札束を入れて寝床に戻るアカギくん。


かつての同級生は、堅気とは離れた生活を送っている。
高校を卒業し、就職した頃にふと不思議な同級生のことを思い出していた。
そういえばアカギくんはどうしているのかな、と考えていた時、ふらっとアカギくんが現れたのだ。
向こうはあまり私を覚えていなかったようで、中学の時同じクラスだったよと話すと別段興味なさげに「へぇ、そうだっけ」と言ったのは記憶に新しい。


そんな薄い、友人というよりは知ってる人に近い私たちだったけど、アカギくんは度々こうして私の前に現れる。
それが大抵こんな風に残業して帰りが遅くなった時だったし、彼の生活リズムも何となく察した私はこの時間だと私の退勤時間とアカギくんの活動時間がちょうど合うのだと納得していた。


「ずっと思ってたけど、アンタ、不用心だ」


こんな時間にこんな路上を通ってさ、とアカギくんは皮肉っぽい笑みを浮かべてタバコをポイッと投げ捨てた。


「ポイ捨てはダメだよ」


アカギくんが捨てたタバコを拾って携帯灰皿にしまう。
その光景を変わらない表情のまま見て、またタバコを吸い出すアカギくん。


「それ、俺のため?」


ふーっと煙を吐きながら携帯灰皿を指すアカギくんに私は無言で頷いた。


だっていくら止めてと注意してもアカギくんはタバコを止めないしポイ捨ても止めない。
だからせめて吸い殻くらいは片づけようとアカギくん専用で買ったのだ。


「あげる。だからポイ捨ては止めてね」


携帯灰皿を差し出すけど、アカギくんはそれを見たまま手はタバコを吸う動作から変わらない。
月明かりに照らされて淡く光るアカギくんの髪に、私は目を細めた。


「今夜は月が綺麗だな…」


「うん…」


受けとってもらえないか、と手を引っ込めるとアカギくんがぽつりと呟いた。


「アンタもそう思う?」


「うん。今夜は月がとっても綺麗だよ」


アカギくんの肩越しに丸い月を見上げた。


「ソレ、アンタが持ってていいよ」


クククッと低く笑ったアカギくんが私の横を通り過ぎた。


「え?」


「灰皿。俺が捨てたら拾ってくれるんでしょ?」


振り返った時にはアカギくんはもう会話は終わりだ、という風に路地を真っ直ぐ歩いていた。
月明かりにぼんやりと浮かぶアカギくんの後ろ姿に、私は今のは何だったんだろうと首を傾げた。







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