Dust
短文乱文でSSSやボツネタ等 いきなりブツギリで終わっている場合も有
2009-12-21(月)
偽りの星に夢を託し(秋山)



■中学生時代から原作に至るまでの長編物での第一話にしようと思っていたもの。
■これ以降が進んでいないのでとりあえず腐る前にうp
■秋山以外はオリキャラですよぃ






















愛なんて言葉は枷でしかない。好意を示す事で相手を雁字搦めにするだけ。
笑顔のその裏にあるものが例え純真なる善意だとしてもそれは変わらない。
何故なら善意は与える側ではなく与えられる側が感じるものであり、与える側が思う善意とは与えられる側にとっては施しでしかないのだから。
優しげに微笑む人間は時に残酷なまでの純真さで善意を重ねようとするからタチが悪い。
与える事で満足する、与えた後の事は知らんぷり。
手を差し伸べておきながら、自身の都合に副えなくなればあっさりと切り捨てる。
しかもそれは手を差し伸べてきた時と同じ、微笑みと共にやってくるのだ。
自身の都合をそうとは知られぬように理屈を並べて正論に置き換えどうしようもない事だと言ってはこちらの追随を許さぬその断りの言葉を形容するに、鮮やかという一言で尽きる。
そうして己の純真さに満足した人間は取り残された者の事など省みない。
どうだお前の望むものは与えてやったぞ満足だろう自分はなんていい人間なのだろう。
これ以上を望む訳がないだろうそれこそ身分不相応だお前は満足したと言うべきなんだ。
腹の中ではそう思いながら、笑ってさよならと言ってのける。
その優しさは、その善意は、決して対象の為のものではなく、ただただ自己というものを肯定する為の道具でしかなく。
他者の優しさを素直に享受できなくなったのは、偽善という言葉を思い知った日からだった。















ぼんやりと沈んでいた意識の中、鼓膜を震わせた鐘の音に僅か視線をあげた。
ガタガタと音をたてて一斉に立ち上がる人、人、人。
楽しげに笑い合いながら今日の部活動について語り、教室を出ていく男子生徒。
鞄を肩にかけながらも今日の寄道について花を咲かせる女子生徒。
そんな一般的な光景を眺めながら、ふと今日が日直であった事に思い至り黒板の右隅に自分の名前ともう一人の日直の名を確認すると、天野と書かれていた。
自分のクラスには相川という男子が居るから、当の『天野さん』は教室の右端列、前から二番目の席だ。
そう判断してその席に目を走らせると、良くも悪くも目立たない女子生徒が、生真面目そうなレンズの厚い眼鏡のずれを指先でつい、と直しながら席を立つ所だった。
今日が日直であるという事に思い至ったのは今が初めてなのだから、朝方に職員室まで日誌を受け取りに行き、尚且つ教室で飼っている金魚に餌をあげたのは彼女だったのだろう。
流石にこれ以上仕事を怠けるというのも後味が悪い所だったものだから、小さな背でも一生懸命上の方を消そうとしている彼女の隣へ予備の黒板消しを手にして並んだ。


「ぇ…」

「上、やるから」


彼女の目がレンズ越しに此方を見る。あんまりにも不躾な目線に、おもわず素っ気ない言葉を返してしまったが大して親しくもない学友に対し必要以上に気を使う事もないだろうと判断した。
ならばこれがもしも自分がお近づきになりたいと思っている学年のアイドルだとしたらと考えてみるが、生憎今のところ異性に対し興味というものは皆無だったのでどちらにしても結果は変わらなかっただろうと思う。
ただ、これがもし後者だったならば、すぐに学年中に話が広まり徒党を組んだ女子に怒りを買うだろう事は明白だったが。
彼女の背では届かない上の部分へ、適当に黒板消しをかける。呆れる程丁寧に黒板を消している彼女と違って、白い淀みが残った。傍から見ると、真ん中から上下に分かれて違った成分が混ぜ込まれたかのようで面白いかもしれない。
隣の彼女は何も言わないが、それをどこか物言いたげに見ていた。大方もっとしっかりやれとでも思っているのだろう。もしくは今更になって日直らしい事をするだなんてどういう神経だ、とか。


「日誌も書くよ。朝の仕事全部やって貰ったし」


だから忘れていた事をチャラにしろとは言わないが、執拗に責められるのだけは勘弁願いたい。
大体、言わなかった彼女にも非があるんじゃないかと責任転嫁を試みれば、自分の中に罪悪感など欠片もなかった。


「……ぁ、…」

「…何?」


一通り消し終えて、道具を置いて机に戻ろうとした途端、それまでダンマリを決め込んでいた女子生徒の小さな小さな声が漏れる。
肩越しに振り返る。
わざわざ真っ向から向かい合うのは面倒臭い。
そんな考えを見抜いた訳でもないだろう。
元々がそういう気質なのかもしれない。
彼女はとても言いづらそうに口をもごつかせて、それから眼鏡のフレームを忙しなく指で押し上げた。


「あ…ありがとう、秋山君」

「……別に日直だからやってるだけだし、このクラスの男子って皆手伝わない奴ばかりでもないだろ」

「そう、だけど」


わざわざお礼を言うだなんて変わっているなと思う。
責めてくれるなと思っていた先程から言うなれば矛盾はするけれど、彼女は怒っても許されるべき立場なのだ。
それに、そもそも果たすべき義務を行っただけでもある。
ただ後者に関して言わせて貰えるのなら、やはり可愛い女子生徒の方が手伝い甲斐があると思う男子生徒が多いのかもしれない。
そうなると、今眼前でコミュニケーションスキルに些か難色のある彼女は不利なのだろう。
そう思うとほんの少しだけ可哀相だという感情が芽生えた。


「日誌、貸してくれる?書くから」

「ぁ、うんっ…名前と、四時間目までは書いてあるから…」


補足をしながら彼女は自らの机の中から僅かに傷んだ日誌を取り出すと、ご丁寧にも書き込むべき頁を開いて差し出してくる。
言葉の通り、日直の名前、天気、欠席者に遅刻者の名前、そして昼休み前までの授業内容が小さな字で書かれていた。
恐らくは、自分が暢気に昼食を食べ終え、友人と談笑していた時、彼女は一生懸命書いていたのだろう。


「ありがとう」

「ぇ、ぇっ、ぁ、うんっ、それほどでも…」


此方の場合は当然のお礼。むしろ謝罪も付け加えるべき所だろうけれど、そこまでの罪の意識はない。
だというのに彼女の方こそが悪い事をしたとでも言わんばかりの畏まりようで、違和感に僅かながらの瞠目をしながらそれ以上の言及は不要と判断してそのまま自分の席に向かった。
椅子を引いて腰を落ち着けると、後ろから背中を叩かれる。
叩いた奴が誰かなどとは振り返らずとも解っているので、声だけで応答した。目は日誌に、そして手はシャーペンを握っている。
手詰まりだと無言で訴えるが、それもどこまで伝わるものか。


「何だよ、市村」

「やっさしーの。秋山君」

「…気色悪いから君付けしないでくれるかな、市村君」

「うっげ!気色悪いからやめろ!」


仕返しに君付けで呼んでやった。
盛大に嫌がられたのでざまあみろと舌先を出す。
見えてもいないだろうに、むかつく奴、と理不尽な呟きが軽い打撃と共に背中へ落ちた。
その衝撃で利き腕がずれて、ぐしゃりと紙の上に黒い線を残す。
面倒臭いなと思いながら消しゴムを出していると、後ろで市村がまだ何か言っていた。
自分自身は省くとして、市村やクラスの男子生徒はお年頃というやつなのか、勉強よりも部活動、そして部活動よりも女子生徒の話をしたがると重々承知していた身としては、これから展開される話題には溜息を吐きたくなる。


「女の子に興味ないって言ってるクセに、天野には優しいじゃん。どういう事か気になっちゃうだろ」

「どうもこうも、たまたま日直が一緒だったから。大体、これが普通だぞ?」


暗に、お前はサボってばかりで駄目な男だと揶揄しているのだが、市村と同じような男子生徒はどれくらいの比率を占めているのか解らない以上効果はあまり期待できない。
やはりと思いながら、恋愛の話題を振られた以上は適当に満足させてやらないとこういった手合いは都合よく言葉を解釈して面白おかしく話を脚色させるのだから執拗に否定するのもよろしくない、加減が難しい話題なのだ、色々な意味で。


「お前にその気がなくても、天野は意識しちゃったんでないの」

「…好きな奴が居たら可哀相だから止めとけよ、そういう事言うの」


どうでもいいけど、と心中でのみ付け足すのは忘れない。
心中を吐露するのであれば、別段女子に興味はないし恋愛にも興味はない、それに今現在話題にあがっている彼女に対しても同級生という肩書でしか認識は成されていないのだ。
それを冷たいと言われる事は自分でも解っているので、そこまでは言わない。
彼女を尊重するような事を言いながらも、結局は自分に火の粉がかからぬようにと祈っているだけだ。


「あーあ、秋山ってそういうトコ鈍感だよなー。意外と人気あるのにもったいねーよなー」


あてつけがましい溜息混じりの言葉は聞かなかったフリ。
市村のいう通り、何故か自分は度々女子生徒から呼び出されたり声をかけられたりする。
他の男子とは違って落ち着いている所が大人っぽくて素敵、だとか。
勉強もスポーツも涼しい顔で済ませている所がかっこいい、だとか。
基本的には外面的な要素ばかり。
でもそう言われる度、思うのは、もう少し待てばいいのにって事だけ。
大人っぽい男がいいなら大人に恋をするか、好きな男が大人になるのを待てば良い。
勉強だって何もしないで出来る訳じゃない。
施設になるたけ迷惑をかけたくないから、奨学金の制度のある高校を受けようというなら今の内から頑張らなければならないと思っているだけだ。
スポーツは先天性の運動神経というものもあるかもしれないが、軟弱では役立たずになってしまうからと身体を鍛えているだけである。
結局の所、彼女達が欲しているのは飾りなのだ。
他者が所有するものよりもずっと勝ったものを所有する事で優越感を抱く。
そして羨望の眼差しを得られなくなれば、あっさりと見限るのだろう。
そんな生物に何故同じ男達が興味を持つのかは解らない。
ただ自分にとって、それは酷く醜く汚らわしいものでしかなかった。
けれども内面を見て欲しいとは思わない。ただそっとしておいて欲しい。関わり合いたくない。
好意を嬉しいとすら思えないのは、自分が屈折した目線で物事を見ているからでしかないのだろう。
天野という女子生徒にしたって、もしも先程の事で自分に好意を抱いたと言うのならそれは優しくされたからでしかない。
彼女は男子生徒に対しての免疫が無いだろうから、余計にそれを特別な事に感じるのかもしれなかった。


「何だったら、市村に譲ろうか」


誰をとは言わない。
ただ、純粋に好意を好意として受け取れるのなら、そういった相手の方が恋をする女子達も幸せだろうと思うのだ。
少なくとも自分は、彼女達の事を真っ向から認める事はできないだろう。それどころか、むしろ率先して卑下するかもしれない。
そんな男が相手では、些か可哀相だ。
それに、不幸にした事で責任をとるなどという事もできないのだから、安易にそれを受け取る訳にもいかなかった。


「あのなー、そういう事言ってると、その内刺されるぞ、お前」

「男に?女に?」


書き終えた日誌を閉じて、振り向きざま挑発的に笑むと、市村は大仰に肩を竦めながら「どっちにも刺されちまえ」と笑った。












とりあえずここまで。
いつか機会があれば挑戦してみたいです。



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