Dust
短文乱文でSSSやボツネタ等 いきなりブツギリで終わっている場合も有
2009-03-21(土)
優しさを弱虫と誹るか(剣+刀)





ポタッ、ポタポタポロポロリっ

畳に染みる水滴は留まる事を知らないかの如く溢れ続ける。
しゃくり上げる度に竦み上がる狭い肩幅は未だ子供の其れであり頼りない。


「刀也君、刀也君、一体如何したんだい?」

 
学校から帰ってきたら、弟弟子が声を殺して泣いている所だった。
また師範に怒られたのかい。
それとも何処か怪我でもしたのかい。
何某か口にして問いた処で弟弟子は首を左右に振るばかり。
ねぇそれでは一体如何したと言うんだい。
ほとほと困り果てた声を幼いながらに感じたのだろうか、弟弟子は小さな小さな掠れ声を零した。


「…よ、弱虫…と……」


殴られて詰られて、それでも殴り返さなかったのだと。
弱虫なのだと嘲笑われたのだと。
殴り返す度胸もないのか女みたいな奴だなと。
学校の同級生に喧嘩を売られた彼は、常日頃、彼と自身の師範である方の言葉を守ったのだろう。
それが相手からすれば逃げたように見えたのかもしれない。
しかし武術の心得がない者を相手に己が力を振ってはならないと、我らが師範はそう仰ったのだ。
結果的に、其の教えが弟子らを傷つけると解ってもいたのだろうけれど。
自身はともかく、幼い弟弟子に処世術などという高等技術はなかった。
そして彼は色々な意味で人目を惹いた。


「刀也君、刀也君、顔を上げなさい」


泣き顔を見られまいと幼い弟弟子は顔を伏せたまま首を振って此方の要求を断った。
しかしそれでも尚、顔を上げなさいと諭せば、恐る恐る窺う目と、そして小さな頬は赤くなってしまっている。


「刀也君」


嗚呼可哀相に、とは口にせず思うのみ。
流れる雫を親指で擦る。
頬は痛いだろうから触れないでおいた。


「何故犬が吠えるのか知っているかい?」

「ぇ……」


突如湧きあがった問いに、弟弟子は一体何を突然とばかりに目を丸くした。
目尻からまた新たな雫が零れ落ちたので其れも拭いとる。


「犬が吠えるのはね、他人が恐ろしいからなのだよ。あれは彼らなりの威嚇であって、自分はお前よりも強いのだという見栄を相手に見せ付ける為のものなのさ」


弱い犬ほどよく吠えるとは、そういう意味なのだよと言いながら赤くなった目尻を撫でる。
ならば吠えない犬とは一体如何して吠えないのだろうね?と賢い弟弟子に問いかける。
問いの真意を理解していないにせよ、弟弟子は考えに考えたのだろう。
不安げに眉を寄せて、けれども今度は顔を伏せずに此方を見上げた。


「…強いから、ですか」

「その通り。手を出されても怖くない、自身は強いのだと絶対的に信じている。だからこそ威嚇の意味がなく、吠えないのさ」

「……信じ、て…」

「さて、刀也君。渦中のご学友は強いと思うかね?」

「……思わ、ないです」

「成程。殴り返さなかった君は如何だい?」

「……つよ、い…?」


恐らくは。
弟弟子も、全ての真意を解した訳ではないのだろう。
それでも、己の望んでいた言葉が出た事は素直に喜ばしい事だと思える。
弟弟子の小さな頭を撫でると、その美しく輝いた瞳が此方を見上げた。




「そうとも。刀也君はね、強く、そして優しい子なのだよ」




微笑めば、安堵したように笑う弟弟子の其の素直さを愛しいと思う。

この先の将来、其の素直さが命取りにならなければいいとも。















あの時そう思いながら、結局彼を傷つけたのは他でもない己だったのだけれども。











どの位年が離れているのかは知りませんが。
いい兄弟みたいなのだったら凄く萌えるよねって自己満足満載話です(貴様)
憲兵も20で良いんじゃね?と思いつつあります。
短すぎるのと分類できないのとでこっちに突っ込みます。


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