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*黄瀬


教室のドアを開けると中にいたのは大好きな恋人一人だけだった。
確か昼休みに「部活終わるまで勉強でもしながら待ってるね」と言っていたはずだがノートも出さずに細い腕を折り畳んで枕代わりにして眠っている。
俺は着ていたジャケットを脱いで、彼女を起こさないようにかつジャケットが落ちないように肩にかけた。
風邪をひくということはないだろうが彼女自身のジャケットを膝に掛けてるということはそれなりに寒いのだろう。
彼女が少し眉を寄せて身動ぎした。

(やべっ……起こした?)

思わず固まったが彼女はそのまますやすやと眠ったままだ。でも心なしかさっきよりも微笑んでいるように見える。

(あ、そうだ、)

俺はズボンのポケットから携帯を出すとカメラを起動する。
ピントを合わせて――……

ぴろり〜ん

間抜けな音と共に一瞬画面が真っ暗になり、今撮った彼女の寝顔に切り替わる。我ながらよく撮れてる。先輩とか友達とかに自慢したいぐらいだ。(そんなことしたら絶対殴られるけど)

(折角だしもう一枚、)

「ん……涼太?」

ぴろり〜ん

(げ……っ)

二回目のシャッター音に彼女の寝ぼけたような声が重なった。そして画面には眠っている彼女。ではなく、うっすらと目を開けてちょうど起きているところの彼女。これはこれでかなり貴重な一枚だ。俺グッジョブ。
目線を携帯の画面ではなくさらに向こうにいる本物の彼女に移すと完璧に身を起こしきょとんとしている。
が、しかし、俺の手元の携帯に気づいて数秒。彼女はにっこりととてもいい笑顔を見せてくれた。けれどその目は決して笑ってなかった。

「……涼太?」

笑顔を崩さずに彼女が問う。

「あ、あはは……その、」
「今何撮った?」
「お、俺、部活行ってくるっス!!」

俺は慌てて教室を飛び出した。


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(御礼文3種)

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