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恋愛シンドローム



 一口千円で設定した賭けは瑛太の一人勝ちだった。
 雅の恋人有力候補数名を馬に配したが、誰もその中の幸輝には賭けなかったからだ。一口で賭けた者から十口賭けた者まで様々だが、学園の殆どの人物が参戦していた賭け金の合計は結構な金額になる。その金を瑛太は数えていた。
 この半分が幸輝の手元に渡る。友人の恋を賭事の対象にしたせいだが、瑛太は決して楽しんでいた訳ではない。幸輝の恋を応援しようとして瑛太なりに出した結果だった。根がポジティブなせいか、こういう事しか思いつかなかったのだ。
 ありがたいことに、親友の幸輝はそんな瑛太を理解してくれているので、儲けの半分で話はついた。
 合計五十二万八千円。半分に分けても、二十六万四千円。
 良くも悪くも雅への注目度を再認識させられる結果となった。

「ほれ」

 フローリングの床に座り込み、賭け金を分けていた瑛太の目の前で、諭吉がヒラヒラと振られる。
 筋張った大人の指に挟まれたそれに、瑛太は首を傾げた。

「なにコレ?」

 きょとんとする瑛太に、上半身裸の辰巳は苦笑する。

「賭けてたろ」

「あ〜」

 幸輝と雅がくっつくかを辰巳と賭けていた事を思い出す。

「おまえの勝ちだ。とっとけ」

 ポンと頭に諭吉を乗せられた。

「あ、ちょっと!」

 頭からひらりと落ちたそれが賭け金に紛れ込みそうになって、瑛太は慌てて空で掴んで振り替える。
 辰巳は、髪からシャワー上がりの名残を残したままソファに腰掛けるところだった。
 ローテーブルに無造作に置かれている煙草とライターに辰巳の手が伸ばされる。腕や胸の筋肉のしなやかな動きに、瑛太は目が離せなくなった。
 オイルライター独特の焼ける匂いが部屋に広がる。
 煙草を口に挟む仕草に自分には無い色気を感じて見とれていると、視線を感じだのか、煙草を口にくわえたままの辰巳が瑛太を見てニヤリと笑った。

「そんなに格好いいか?」

 図星を指された瑛太の頬が真っ赤に染まった。


2009/12/24

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