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「あーっ、もう無理っ!」
「火原、まだ5分しか経っていないよ。」
「そんな事言ったって柚木…、見てよ、この量。」


テストまで後三日。

俺の向かい側で唸りながら勉強をする火原の手には、テスト範囲を示しているのであろう付箋が貼られたページまで優に80ページはあると思われる音楽史の教科書が握られていた。

グッタリと此処…図書室の机に顎を置いた火原はその教科書を頭の上に乗せ、「もう文字は見たくない」とぼやいている。


「そんな事を言っても、やらないと終わらないよ。」
「そうなんだけどさぁ…」
「早く終わらせて思いきり吹きたくないの?」


苦笑交じりに言いながら、トランペット、と付け足すと、火原は「う…」と言ってのそのそと顔を上げた。


「やっぱおれ、実技のが好きだなぁ…」
「たいていの人はそうだよ。けれど、昔を知る事も大切だと思うな。」
「今が楽しくてもダメ?」
「駄目って事はないけれど、例えば作曲家の境遇や作られた時代背景を知る事で曲への理解が深まったりするからね。」


少しの間のあと踏ん切りがついたのか、よしっと腕まくりをして座り直す火原に数人の視線が集まったが、きっと本人は気付いていないのだろう。(図書室では静かに、ね)


「テストが終わったら、遊びたいね!」
「彼女も誘って、ね?」
「ゆ、柚木っ!」


からかうように言うと、火原は焦ったように声をあげた。その声にまた視線が集まってしまい、火原はしゅんとして教科書に向かい合う。


テスト後、ね。
今頃あいつも必死に勉強してる頃だろうか。
俺にも楽しみが出来た訳だ。何も彼女を呼ぶのは、火原のためだけじゃない。







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