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※バンドマンパラレルです。


『STUDIO』6.

そして当日。
リハを終えたオレは客席に座り他のバンドのリハを見ていた。他のメンバー(主に田島)は腹が空いたと言って、さっさと模擬店を見に出掛けてしまった。

「一緒、に、回ろ」

と三橋に誘われたけど、自分の他にどんなバンドが出るのかどうしても気になってしまって、リハが終わってからと断った。田島に手を引かれながら名残惜しそうにオレを見る三橋の目が引っかかったけど、順調に進んで行くリハを見ている内に忘れてしまっていた。

「タカヤじゃん」

突然下の名前で呼ばれ驚いて振り向くと、そこには二度と会いたくないと思っていた男、榛名元希が立っていた。

「……ども」

出来るだけブッキラボーに挨拶をした。

「オマエのリハ見たぜ」

「あー、そうですか」

オレは榛名から微妙に視線を外して返事をした。

「ナニ?オマエ今ベースやってんの?ギターはどうしたよ」

「…今オレがナニ弾いてようがアンタにはカンケーないんじゃないスカ」

「まあそーだけどさぁ」

いけ好かない、人をバカにしたような表情でニヤリと笑う。オレは不機嫌オーラをこれでもかというほど醸し出し、早くどっか行ってくれと願った。だか榛名はそんなオレなど気にかけもせずどーでもいい事をペラペラと話し出した。

「ったくよー、逆リハなんかダルいっつーの」

「オレんとこトリだから一番最初じゃん。朝はえーんだよ、ねみーんだよ」

……どーでもいい。そんな話題心底どーでもいい。

オレはうんざりして席を立った。リハは後5バンドほど残っていたが榛名の声を聞きたくなかったので見るのは諦めた。

「じゃあメンバーと約束してるんで、これで」

一応断りを入れて立ち去ろうとしたオレに榛名が言った。

「オマエはもうギター弾かねえの?」

「はぁ?」

「オレ結構オマエのギター、気に入ってたんだぜ?」

その言葉にかあっと頭に血が上った。

「オレのバンドには立派なギタリストがいますからっ!」

思わず声を荒げてしまった。そんなオレに対しての榛名の反応を見ること無く、オレは逃げるようにその場を離れた。榛名にからかわれているように感じて気分が悪かった。

会場の第2グラウンドを出て、模擬店が数多く出店されている本館の方へと向かう。早足で前方を睨みつけながらさっきの榛名の言葉を思い出していた。

『オレ結構オマエのギター、気に入ってたんだぜ?』

どの口が言うのか。
同じバンドのメンバーだった頃、散々ギターについてダメ出しをされた。確かにあの頃のオレはヘタクソだった。技術では遥かに上の榛名にボロクソ言われても仕方なかった。でもあの人を見下したような、ただのモノを見るようなあの目がガマン出来なかった。あの時の榛名がオレのギターを気に入ってたなんて絶対に信じられない。

(絶対にオレをバカにしてる。榛名のクセに律儀にリハなんか出やがって…!)

「クソっ!」

イライラがおさまらず地面の土を蹴っ飛ばした。

その時オレはちょっとした違和感を覚えた。

あの頃の榛名は高飛車でいつも何かにイライラしていて、近寄りがたい雰囲気を醸し出していた。何て言うか榛名を取り巻く空気が荒んでいた。でも今日久しぶりに会った榛名は相変わらず高飛車な感じだったけど、柔らかい雰囲気がした。それに昔の榛名ならリハなんて絶対出なかった。いつも出番ギリギリに来て、リハはいつも榛名抜きだったのに。その所為で他のメンバーは迷惑していたけど、当の本人は少しも気になんてしていなかった。

(ちったぁアイツも大人になったって事か…?)

先程まで目の前にいた榛名の顔と昔の榛名の顔を交互に思い出し比べてみようとしたけれど、まともに榛名の顔なんか見てなかった為にうまく比べられず、昔の榛名しか頭に残らなかった。

その時携帯が鳴り着信を見ると三橋だった。

「はい」

『あ、阿部、くん?』

「おお、どした?」

『ど、どしたって…。もう、リハ、終わって、るよ、ね?今、ドコ?』

「あっ、ワリィ!」

そうだ、リハ見終わったら連絡するって約束してたんだ。榛名の事があってすっかり忘れていた。

「今正門から中に入ったとこ。オマエはドコいんの?」

『す、すぐ近く、だよ!オレ、そっち、行く。待ってて!』

弾むような声で三橋にしては早口に話し、オレの返事を聞く前に携帯を切りやがった。きっと早く連絡が来ないかとずっと待っててくれてたんだろう。携帯を握りしめソワソワしながら連絡を待つ三橋を想像したら、自然と笑みがこぼれた。さっきまでのオレのイライラがすっかり無くなっている。

(三橋に感謝だな…。)

アイツにちょっとでも触れると心が和む。

「あ、べ、くんっ!」

「おー」

三橋が大きく手を振りながら駆け寄って来る。

「来んのはえーな」

「ホントに、近くに、居たんだ、よ!」

オレは嬉しそうにウヒッと笑う三橋の肩に腕を回して歩き出した。

胸のスミッコに榛名に感じた違和感を残しながら。




END

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