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020: 偶然


仕事の帰り、たまたま見かけたアンティークショップのショウウィンドウ。
いつも気になんて止めないのに、本当にたまたま。

そこに飾ってあったのは、昔ばあちゃんが俺にくれたものとデザインが良く似た懐中時計。
鈍く光る金色に犬の彫刻が陰になってすごくきれい。



そう言えば、俺のはどこ行ってもうたんかな。
欲しくて駄々こねてやっと貰って大事にしてたけど…姉ちゃんと喧嘩した時に窓の外に捨てられてもうたんやっけ。


懐かしさに浸りながら帰路を歩き、やっと付いた自分の部屋。
手探りで鍵を開ければ物音に敏感な同居人の足音がすぐに聞こえて。

『章大おかえり!今日は遅かったやんかー』

にっこにこと笑顔を向ける背の高いソイツを撫でてやりながら、ふと視線が胸元に止まる。

「あ…れ、これ…?」

どしたん?って口に出さずに見上げると、パッと明るくなる表情。

『そうそう!コレな、本棚の上にあってん。章大大好きやったから見せたろって思うて!』

どやって顔しながら首から外されるネックレス仕様の懐中時計。
パカッと開けば、時計の針は投げ捨てられた時間で止まってて…隣に飾られている少年と小さな犬の時間を切り取っているように感じた。

「本棚の…上?」

『そう!姉ちゃんの大事なモノBOXん中。あ、すばるくんとじゃれてたら、ぶっかって落ちてきて…』

わたわたと言い訳するように付け足したアホ犬の頭をクシャクシャに撫でて、とりあえずは靴を脱ぎソファに一直線。

「姉貴の箱に入ってたんや…っていうか、忠義良う覚えてたな」

笑い混じりにそう言えば隣に座り、大きな体に抱き締められる。


『あったりまえやん。姉ちゃんと二人で夜中探し回ってんもん、その時計。むっちゃ寒かったししんどかったんやで』

「へ?」

『章大の喜ぶ顔見たくて俺、一生懸命やったんにな。姉ちゃん渡してくれへんねんもん』

拗ねたように呟く声が背中に埋まってく。

『あん時も言葉が喋れたらなって思ったわ。俺必死に伝えてんのに、章大全然わかってくれへんし』

「…忠義がみつけたん?」

『せやで!章大の匂い探して探してやっとみつけてん!エライやろ』

肩からにゅっと飛び出す再びのドヤ顔に、おかしくなって笑みがこぼれた。





姉ちゃん、ごめんねって言いにくかったんかな?

些細なことにもキッカケは必要で、それがこういう偶然から生まれるってことを改めて感じた。
俺が忠義と出会えたことも、今こうして背中に温もりを感じられてることも…

全部は偶然が重なって今の俺を作ってるんやね。


こういう偶然の一つ一つを大事にしていこうって思いながら、愛おしくなって頬に口付けた。





そのあと、調子に乗ったアホ犬が圧し掛かってきたので、軽くシバいてやりました。



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久しぶりの拍手小ネタ更新…。
なんかね、秋ゆえにさびしい気持ちです。
はい、さびしい気持が溢れててすみません。

けど、愛犬くんは空気読めずに盛ってます。
今日も平和ー(笑)






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