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白亜の城。
要の認識はそれだし、きっと大部分の人間がそれに賛同するだろう。
堂々と聳え立つ、純白の家。センスが問われるようなガーデニングも、庭の隅々までどこも穴が無く。明らかに他とは空気が違う家。

………そんな家でも、この季節ばかりは見事な浮かれようだと思う。




「……相変わらず凄いな……」
「そうねぇ……」
「電気代……馬鹿にならないだろ?」
「その筈なのよねー…」


キンと冷たい空気。制服の上にコートやマフラーは必須だ。木々から葉はすっかり落ちて、空は灰色の日が多い。
足元には、人々に踏みしめられた雪。
きっとこの白亜の城なら、いくらでもこの白い光景に溶け込めるだろうに。


「…浮かれまくってるよな…」
「浮かれまくってるのよ…」


壁から屋根からベランダから、枝から幹からゲートまで。ぎっしりと光が多い尽くしている。
色とりどりの無数の電球で飾られた城。その配色も数もバランスは絶妙で、誰にでもできる芸当じゃないのは分かる。規模が馬鹿でかいから唖然とするが、確かに息を呑む程に綺麗だ。
だからこそ、こんな田舎のクリスマスに、こんなに人が集まる訳で。ここの地主の家のイルミネーションは、既に名物と化していた。

しかしそれは夜の話。


「…これ、昼間に見たら凄いんだろうな…コードが…」
「…凄いのよね…蔦みたいなの…」
「…ホラー映画の洋館みたいな?」
「やだ、そういう事言わないでよ怖いから!」
「はは、ごめん」


夜にしか来ない見物客は知らない事を当然要達は知っている訳で、蜘蛛の巣のように張り巡らされたコードを知っている彼等は冗談混じりに談笑した。
間違い無くこの家のクリスマスイルミネーションはこの集落一帯で最も盛大で、それは空に雲が掛かる夜はその雲を仄のり明るく照らす程だ。ツリーにリース、そしてトナカイのオーナメントが光の中に鎮座している。
一番重要なサンタクロースが無いのを確認すると、要は隣を振り返った。


「もしかして今年も?」
「ええ、手の空いてる兄達は皆、白い袋を担いで走り回ってるわよ!」
「ははは…、そっか」


ネオンの他にカメラのフラッシュがしきりに光る家の中に、その住人達は居ない。
男手は皆サンタクロースに扮してお菓子の詰め合わせを持ち、小学生がいる民家の戸を叩いて回っている。彼女とその母は、その間を田沼家の客間で過ごす。
イベントの少ないこの田舎では、その兄弟がサンタの衣装に身を包んで走り回る姿はそれこそ一大イベントで。翌日の朝はランドセルを背負った子供達が、楽しそうに笑いながら若すぎるサンタクロースの話で盛り上がるのを聞くのが彼は結構好きだった。

しばらく二人で幻想的なネオンを眺める。
子供の希望が詰まった夜。現実を一瞬忘れる日。例えそれが知り合いの家でも、昼間の姿を知っていても、偽者のサンタでも、楽しければ構わないのだ。


一泊分の荷物を受け取って、八つ原への道をゆっくり歩く。雪を踏みしめる音と、背後の賑わいが静かな夜を明るく変えていた。


「私の家って、引っ越す前もあんなだったでしょう?」
「そうだな…あの頃も凄かった」
「毎年毎年あんなに電球付ける作業を見ていて、どうしてそこまでやるのかなって訊いた事が有ったのよ」
「へえ、そうなのか?おじさん、何だって?」
「“祭は全力で楽しむもんだ!!”ですって」
「ぶっ!」


その光景が想像できる。全力で楽しむだけじゃなく、全力で楽しませるあたりが彼の凄いところだ。
その精神は見事に子供達にも受け継がれたようで、彼等は本当に楽しそうに家々を訪問し、プレゼントを落としていく。いつだったかのクリスマスには彼女の家の長男が、折角煙突が有るのだからと煙突によじ登って民家に入ったという伝説まで出来た程だ。
もう笑うしかない。
そういえば、彼女の家の力の注ぎ込みようは、夏祭りでも凄かった。


「…まあ、楽しければ私も良いと思うんだけどね?」
「ああ、そうだな。折角の日なんだから……楽しいのが一番だ」


くすくすと笑う昔馴染みにつられて笑いを溢した田沼は、白亜の城の周辺と違ってひっそりと佇む我が家に着いて目を瞠った。
赤と白。緑に金。
寺の中には本来無い、目立つ原色の組み合わせ。


「ああっ!もう、お母さんったら…!」


仮にも仏を奉る建物内での、異教の神の生誕を祝う祭りを思わせる色合いに彼女は驚いて中へ駆け込んで行った。
田沼はそれを追わず、しばし派手すぎる飾りに目を奪われる。こんなに目立つ色をこの家で見るのはどれくらいぶりだろうか。


「…もう、だからここはお寺で…!」
「あらー良いじゃない、賑やかで!神様と仏様が一緒にいらっしゃるのよー?」
「だ、だから…っ」
「まあまあ、そんなに厳しくする事じゃないから、気にしないで良いよ」
「おじさんまで…」
「良いんじゃないか?いつものこの家は殺風景過ぎるんだから、たまには」


田沼も口を挟むと、彼女は肩をガクリと落とした。


「ほら、ケーキも作ってきたのよ!要君も、良かったらどうぞ」
「うわ、良いんですか?ありがとうございます」
「おっと、じゃあ食器が要るかな」
「おじさん、私が取って来ますから」


そうかい?と浮かしかけた腰を戻した父に彼女は笑って台所へ向かう。
雪の降るクリスマス、外では今頃地主である高畑家の男達が子供たちにプレゼントを配っていて。寺の中では炬燵に入った家の違う四人がクリスマスケーキを食べて。
そういう、どこかちぐはぐなクリスマスも、田沼は好きだった。





(帰った愛しい妻と娘よぉぉぉおおおお!!)
(父さんここは人様の家です静かにして下さい)
((腹減ったー!!ケーキっ!!))
(土産だぞー!こんなに貰って来たぞ!!)
(あらあらー、今年もこんなに頂いちゃって)
(うわ、凄いなあこのお菓子の山は。配った分の余りかい?)
(…いえ…配った家の大人が…お礼にと)
(…配ったものより豪華なんじゃないかしら…)
(飲み物まで有る。ここまで持ってくるの大変だったろうな…)
(よし、来年はもっと豪華なプレゼントにするとしよう!!さあ全員好きな物を食え、そして消費しろ!!)
(((おおおおお!!)))
((…そんな無茶な…))

 

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  →携帯獣



 

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