拍手ありがとうございました!


---------------------------------
清行/現パロ


「お前、よくそんな甘いものばかり食えるな」

顰め面の清正が呆れた声を出して行長を見遣る。

「やって、うまいやん」

行長は、清正の言葉が全く理解できないという口調で言葉を返した。
その間にも行長の手は止まることが無く、甘ったるいチョコレートのかかったドーナツがまたひとつ消えた。
手土産と称して持ってきたはずのそれは既に半分以上が行長の腹の中に収まっている。
見ているだけで胸焼けになりそうだ。
健康優良児、腹が空くのは分からなくもない。
だがその分三度の飯の量を増やせば良いのではないかと清正は思う。
現に、清正は間食など滅多にしない。
だから行長がなぜこれほどまでに甘いものを間食するのか理解が出来ないのだ。
どうなっても知らん、と嘆息混じりで言って、清正は視線を逸らした。
突き放すような清正の物言いに、行長は手を止め口の中のものをこくり、と飲み込むと、居住まいを正して窺うような視線を寄越した。

「…清正もやっぱり、ちょーっとぽっちゃりしてるより、すら―っとした方が好きなん?」
「はあ?」

空に描くような行長の手振りから、それが人の体型のことを言っているのだと察しがついた。
行長は、じっとしながら清正の返事を待っている。
まるで飯を前にしながら待て、と言われた犬のようだ。
東向きの窓から差し込んでいた光は時間と共に面積が小さくなっていく。
室内は適度に暖かい。
外を歩くにはまだ肌寒い時期で、だから行長は着ていたジャケットを脱いで、薄いシャツにジーパンというラフな格好であった。
決して体型がはっきりと分かるようなぴったりとしたものではなく、どちらかというと少し大きいくらいのシャツであったが、それが逆に行長の薄い身体を強調させている。
尤も、そのシャツを脱いだ姿も清正には容易に思い浮かぶのだが。

「お前は痩せ過ぎだ。もう少し肉がついたくらいがちょうど良い」

その言葉に行長はあからさまにほっと胸を撫で下ろし、そして性懲りもなく新しいドーナツへと手を伸ばした。
それを見て再び清正の眉間に皺が寄る。

「だいたい、お前が心配するのは虫歯の方だろ」
「虫歯?平気平気、ちゃんと歯磨いとるし」

清正の忠告を気にも止めずに行長は菓子を頬張る。
それはもう、見てるこっちが幸せになりそうなほどの蕩けた笑みだ。

「お前が虫歯だと俺が困る」

なんで?と視線だけで問う行長に向かって清正は言葉を続ける。

「虫歯はうつるらしいぞ」
「へ」

間抜けな声を出した行長の顎を掴んで引き寄せる。

「見せてみろ」

横暴とも言える清正の態度に行長は口をしっかりと閉じたまま首を左右に振った。
清正が行長の唇を指でなぞっても、頬を抓っても、行長は頑として口を開かない。

「毎日歯磨いてるんだろ?確認してやるから開け」

それでも行長は貝のように堅く口をとざしたままだ。
そんな行長の態度に業を煮やした清正は、更に行長を引き寄せて、耳殻へと舌を差し込む。
首を竦めて、うひゃあ、と情けない声で鳴いた行長を清正が見逃すはずもなく、僅かに開いた口に親指を差し込んだ。
口を閉じることが出来ない行長は、けれど清正の指に強く歯を立てることも躊躇われるのだろう、うー、とくぐもった声を漏らして嫌だと抗議している。
耳から目元、それから頬へと唇を滑らせ、辿り着いた口元へ噛みつくように口づけた。
指の分だけ空いた隙間に舌を侵入させ、代わりに親指を引き抜く。
行長の咥内は思った通り、甘い。
先程口にしていたチョコレートとドーナツの甘ったるい風味に清正は思わず眉をしかめた。
ひとしきり行長の口内を味わうと口を離す。
ふたりの口を渡す銀糸を指で絡め取ると、行長が顔を朱に染めて俯いた。

「ごめんな」

虫歯、うつってもうたかも、と小さな声で行長が言う。

「虫歯があるのか?」

さっきまでは平気だなんだと言っていたというのに、急にしおらしくなった行長が清正の問いに、多分、と頼りない声で返した。

「歯磨いてたって虫歯にはなるんだ、定期的に歯医者に行け」
だいたい、虫歯菌なんて常在菌だろ。環境因子でなるもんだ。

産まれたばかりの乳幼児ならいざ知らず、立派に育った人間がキスをしたくらいで虫歯などうつるはずはないと思うのだが。
それでも神妙な顔をしてわかったと頷く行長に、少しは灸を据えられたかと思っていたのも束の間、虫歯の治療が終わるまでキスはしないという行長を説得させるのに骨が折れたとか折れなかったとか。


(2010.12.22)




戻る


無料HPエムペ!