────部長は、素敵な人。 仕事も出来て、人望も厚く、完璧で。 私の憧れの彼は、既婚者。 「────おい、佐々木。プレゼンの準備は終わったのか?」 ────部署に響く、凛とした声。 「はい…実はまだ先日のクレーム処理に追われてまして…」 「…アン?言い訳するな。簡潔に言え。」 「はい!すいません!まだです」 威厳に満ちたその声だけで、社内の空気は引き締まる。 「───よし、分かった。その件は俺に回せ。もう日もない。お前は準備に専念しろ。」 「はい!ありがとうございます、部長!」 「気にするな。お前はお前の仕事を続けろ。 ────お電話替わりました。跡部と申します。この度は弊社の物がご迷惑おかけしたようで……」 ────伏せられた瞳に縁取られる長い睫毛。 色白な肌に栄える泣きボクロ。 跡部部長は、いつ見ても絵になる。 ────彼の姿に見とれていると、視線がぶつかりはっ、とすると、慌ててパソコンに向かった。 「さー。ぼーっとしてないで仕事しなくちゃ。」 未だ高鳴る鼓動を抑えるようにと、私は仕事を続けた。 |