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※今回のお話は「変わりゆく世界」の夢主と雲雀の息子、秋夜のお話です。



「俺、絶対風紀委員なんてやりませんから」

必死に頭を下げている禿げかかった担任の頭を一瞥すると、俺は職員室の扉を少しだけ乱暴に閉めた。

冗談じゃない。
なぜ、あの人と同じ道を進まなきゃならないのだ。


不機嫌そうな顔をして廊下を歩いていたら、よっぽど恐ろしい顔をしていたのか"ヒッ"と小さく悲鳴を上げられた。
慌ててニッコリ笑って"怖い顔してごめんね"と笑いかけたら、今度は黄色い悲鳴が上がった。
…どちらにせよ悲鳴をあげるんじゃないか。


少し開いていた窓から風が吹き抜けて、髪がふわりと鼻を擽った。
夕陽を受けてキラキラと光る。

母親譲りのの薄い金色の髪と、翠色の瞳の色は別に嫌いじゃなかった。
最初は奇異な目で見られたが、この年にまでなると別段いじられるわけでもない。
綺麗な色だねと言われる度に、母親が褒められているようで少し誇らしい。

しかし、このふわふわとした髪質だけは少し頂けない。(起きたあとの髪型がひどくて、朝まずやることはブローだ。)
こればっかりは両親ともにこんな髪質だから、息子の俺が遺伝で受け継がないはずはなかった。

しかし、髪より何より気に食わないのは、顔だ。
年を重ねるたびにあの人と酷似するこの顔が憎くてたまらない。
俺の顔を見るたびにみんな震え上がったし、腫れもの扱いする。
それほどにあの人はこの町では有名で、そして脅威の人物だった。


「あっれー?秋夜、珍しいな、おまえがこんな時間まで残っているなんて!」

振り向くと数少ない友人の一人である、宗太が泥だらけの体育着のまま突っ立っていた。
そのまま肩を組もうとする宗太を日誌で払いのけながら(明日は天気が悪い。汚れたら洗濯が厄介だ)、俺はため息を吐いた。

「担任に呼ばれてね。それより宗太はもう部活終わりか?」
「いーや、吉乃がまたドジって今度は階段から転げ落ちたって聞いたから、保健室に様子見に行こうって思ってよ」

出来の悪い妹持って、俺ってばタイヘンー。

そう悪態を吐きつつ、妹馬鹿なのは周知の事実だ。(そう言うと逆に"お前は母馬鹿だろうが!"って言われるけど)

宗太と吉乃は俺の幼馴染で、双子だ。
兄の宗太は母親譲りの抜群の運動神経、父親譲りの勉強の不出来さ。
妹の吉乃は父親譲りの運動音痴、母親譲りの頑張り屋の性格のお陰で勉強はできる。
そんな正反対の双子は両親の知り合いのところの子供だったからか、小さい頃から何かとつるんでいたものだ。

「吉乃、大丈夫なのか?」
「あー、聞いたところによると足挫いたくらいらしいな。帰りはおぶっていかなきゃなんねぇ」

ということは必然的に俺は彼らの鞄を持ち、家まで一緒について行かねばならないのだろう。
今日、スーパー特売日だったのに…、と呟くと彼は"相変わらず主婦だな!"と豪快に笑う。
仕方ないだろう、母親は仕事でなかなか早く帰ってこれないのだから。


「よーしのっ!大丈夫かぁ??」
「宗ちゃん!!」

保健室に着くと、吉乃は足を引きずりながらぴょこぴょこと近づいてきた。
宗太は彼女の小さな額をデコピンしては、"相変わらず鈍チンだな"とガシガシと頭を撫でる。
彼女は少し申し訳なさそうに、頭を下げた。

「心配掛けてごめんね」
「ま、無事ならなによりってやつだ。部活、六時に終わるからそれまでここにいろよ」
「うん」

"秋ちゃんもごめんね"と、彼女のくりんとした瞳が子犬のようにゆらゆら揺らぐ。
俺は宗太のせいでぐしゃぐしゃになった彼女の髪を直しつつ、"無事で良かった"と微笑んだ。


帰り道、川沿いを三人で歩いた。(厳密には吉乃はおぶられていたが)
宗太は吉乃が少し重くなったと言い、それを聞いた吉乃は顔を真っ赤にしながら彼の背中をポカポカと叩く。
それを見た俺は、少し笑う。

「そういや、なんでセンコーに呼び出されたんだ?ついに赤点でも取ったか?」

宗太がそう言ってニヤニヤと嫌らしく笑うものだから、今度こそ吉乃は先ほどの反撃に出た。

「ありえないよ、秋ちゃん、学年2位だよ?」
「そうだよ、宗太と一緒にしないでくれる?」

それを聞いた宗太はプルプルと肩を震わせたかと思うと、今度は大声で叫んで全力で走り始めた。

「学年2位と7位が最下位を蔑みやがってぇええ!!」
「きゃー!!宗ちゃん速いはやーい!!」

力尽きた宗太が蹲ってゼーゼーやっているところまで、俺はマイペースに歩いて追いかけた。

いつもの光景。いつものひと時。
こんな時がいつまでも続けばいいのに、ってそう思う。


「俺さ、担任に風紀委員長になってくれって頼まれたんだ。…でも断った」

宗太と吉乃はお互い目を見合わせた。

あの学校の風紀委員は、未だにあの人が管理している。
彼が卒業してもなお、彼の影響下にある並盛中学は少しでもそこから脱したい。
一般生徒を風紀委員に仕立て上げたところで、太刀打ちできないだろうと踏んだ学校側は、あの人に反感を持つ息子の俺に白羽の矢を立てたというわけである。

あの人のことは大嫌いだけど、尊敬してる部分はなくはない。
だけど、あの人と同じレールを辿りたくなかった。
俺は俺なりのやり方で、あの人を越えるって決めたから。

「まぁなー、おまえの気持は分らなくねぇし、おまえが決めたことなら口出ししねぇけどよ」
「でも、私と宗ちゃんは、秋ちゃんに風紀委委員長やってもらいたいなぁ」

なぜかと聞いたら、"学校がもっと面白くなりそうだから!"と2人は合わせたように言った。
口裏を合わせたわけでもないのに、2人の意見が合致するのは双子の神秘というものだろうか。

「…本来は風紀委員が学校を仕切るものじゃないよ」
「だって今のところ、実際そうじゃんか。生徒会も今は恭弥さんに負けず劣らずおっかねぇのいるけどな。」

確かに今の生徒会はなかなか手強い女生徒会長がいる。
なぜかあの人も、彼女にはそこまで口出しはしないのだ。

「とにかく私達としては、秋ちゃんににもっともっと活躍してほしいの!」
「見た目だけで判断する奴らをあっと言わせてぇんだよ」

…それは俺の外見で怖がったり、逆に煙たがる輩のことを言っているのだろうか。
彼らは彼らなりに、俺のことを心配してくれているのかもしれない。

そう思うと、少しだけくすぐったくて、そして少しだけ胸が締め付けられた。


「…どうなっても知らないから…」

視線をそらして呟くと、珍しかったのか、双子はニヤニヤと笑いながら俺を囃したてた。

「あ、秋ちゃん照れてる?照れてるの??」
「やっだぁ!あきやくんたらぁ!かーわーい「宗太、キモいよ」


まだ、風紀委員になることに嫌悪感は残るけど、

やってならなくはないかな。

そう思えたのは、幼馴染たちのおかげだから、


"2人のためになら、風紀委員長になってみてもいいかもしれない。"


【世代が変わりゆく】


父親であるあの人にそのことを言ったら、

"ワォ、挑戦状かい?いい度胸だね"

と、大ゲンカになったことは2人には内緒である。


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拍手ありがとうございます!
そして長々とお疲れ様でした!!

ご要望頂いていたのは「変わりゆく世界の夢主達の息子が風紀委員になって、影で雲雀が誇らしくてほくそ笑む」的な感じだったのですが…、ほくそ笑む?←
でも、子世代は書いててとっても楽しかったです^^

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