千と百回目の朝を迎えた。
「おはよう」
いつものように俺は彼に話し掛ける。
彼から返事が返ってきたことはないが、それでも繰り返して来た日課だ。
毎日毎日、千と百回欠かさずに。
「今朝はすっごい寒くてさ…わかる?息真っ白」
「………」
「でも天気はいいから朝露がキラキラしてて綺麗だよ」
「………」
「アンタこういうの好きだろ?」
「………」
「以外と雰囲気とか大事にするし」
「………」
「ねぇ…?」
「………」
「………」
無情に流れる沈黙。
指先から身体が急速に冷えていく…まるで身体の端から死んでいくみたいだ。
そのせいか、ようやく搾り出した声は情けないくらいに震えていた。
「ねぇ…聞こえてる?」
縋るように尋ねる俺の前には朝露に濡れた墓石があるだけだ。
そこに刻まれた愛しい名前が、俺に現実を突き付ける。
ここにはもう彼はいない。
千と百回前の寒い夜に、彼は彼が求めて止まなかった空へ還ってしまった。
だからここに彼はいない。
わかってる。
わかってるけど。
たったひとりで朝を迎える度に俺は少しずつ壊れていく。
「あいたいよ、政宗」
冷たい墓石から、まるで涙のように朝露が流れていった。
End
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