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『秋の夕(銀新)』



太陽が地平線の向こうへ消えて、白かった月は静かに光りを放ち始める。
しかし街にはまだ明るさが留まっていた。

今日はとてもいい天気だった。ここぞとばかりに干した洗濯物は気持ちよく乾き、間もなく迎える冬に向けて毛布や厚手の服も準備が整った。
安物の洗剤を使っているせいで少々ごわつくそれらを少しでも柔らかくしようと一つ一つ丁寧に畳む新八は、ふと何かを思い付いて顔を上げた。
視線の先には時計。間もなく五時になろうとしている。

「銀さん、散歩行きませんか」

少し離れた場所で横になり、新八に背を向けてジャンプを読んでいた銀時が片眉を上げて億劫そうに振り返った。

「あぁ?なんで今頃。もうすぐ日が暮れんだろーが」

銀時は体に毛布を掛けていた。昼間が暑いくらいの気温だったせいで、日が傾くにつれて肌寒さを覚えたのだという。
洗ったばかりの毛布はさっそく役に立った。そろそろ炬燵の出番かもしれない。

「まだ大丈夫ですよ。ついでに公園で遊んでる神楽ちゃんと定春を拾って…今日の夕飯は北斗心軒でラーメンっていうのはどうです?」

新八の提案はあらかじめ考えていたものではなかった。喋りながら閃いて、そのまま言葉にしてみたらとてもいい案に思えた。自然と口許が綻ぶ。

対して銀時は呆れたように息を吐いた。

「さてはテメー、夕飯作るのが面倒になったな」

「言っときますけど、今日の当番は神楽ちゃんですよ。この時間になっても帰って来ないってことは忘れてるんだと思いますけど」

「あんのバカ。また卵かけご飯食わせる気かよ」

「もしそうなったら僕は家に帰りますからね」

どうせ志村家にも目ぼしいおかずはない。にもかかわらずこんなことを言うのは自分の案を通すためのダメ押しだ。
そんな新八を銀時は生意気だと思ったが、提示された二択は比べようもなかった。

「…まぁ最近アイツんとこ行ってなかったしな。久しぶりに顔出しとくか」

「決まりですね」

新八は満足気にニッと笑い、手にしていた最後の洗濯物を素早く畳んで横に置いた。本当は箪笥に仕舞うところまでやっておきたかったが、銀時が既に立ち上がろうとしていたので諦めることにした。気分屋で面倒くさがりなこの男の、勢いを削いではいけない。

「上着いります?」

銀時に続こうとして腰を上げ、次の瞬間には動きを止めて足元の洗濯物を見下ろした新八が言う。

「酒飲んだら熱くなるからいい」

「ちょっと、誰もお酒飲んでいいなんて言ってませんよ」

「一杯くらいいいじゃねーか。ホラ、店の売上に貢献してやらねーと」

そう言われると強く責めることも出来ずに新八は口を尖らせた。まったくもう、と呟いて銀時を追う。

「お前こそ何か着てかなくていいのかよ」

玄関まで来ると、今度は銀時が新八に尋ねた。

「僕は若いんで大丈夫です」

嫌味っぽく答えて鼻を鳴らした新八に、銀時は可愛くねぇと顔をしかめる。

「それに、銀さんの側にいれば暖かいだろうし」

どういう心持ちなのか、事も無げにそう言って少年は横をすり抜ける。その後ろで、不意を突かれた大人が目を丸くしていたのを彼は知らない。

「……前言撤回」

「え?」

「なんでもねーよ。行くぞ」

夜は近い。確実に冬を連れてくる夜だ。
しかし街にはまだ明るさと、微かな温もりが残っている。

おわり。



ありがとうございました!




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