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**大学カフェテリア内**



※本編後。


「お前って何かいつも別のモン食ってるよな。」


大学構内にあるカフェテリアで昼食を食べていると、秋山に断りもせずに同じテーブルへとトレイを置いた男が秋山の昼食を見て感想を零す。

思わず箸を止めた秋山は、悪びれた様子もなく対面に座った男を見て僅かに眉を顰めた。


「つーか、何当たり前のように同席してんだ、小野寺。」

「いい加減慣れろよ、どうせ長い付き合いに……あれ、ならねぇの?ああそう、ならないならならないで…。」

「なる!なるから不吉なこと言うな!」


希糸を待つ気でいるらしく、当たり前のように秋山の傍にいるようになった小野寺に文句を言うも、弱味につけ込まれて簡単にやり込められてしまう。

大学でも秋山の人気は健在だが、小野寺ガードが発生していて周りの人達は中々秋山に近付けずに小野寺を恨めがましく睨む人が続出している。だが、怖くて直接何かを言えない。

小野寺はそんな視線に気付いていて楽しんでいるといった様子だ。何かあれば希糸に報告する気満々なのもちょっと怖い。

憮然としながら食事を続けていると、今度は荒木が来て同席する。荒木も小野寺を怖がっていたが、最近ようやく慣れてきたようだ。

食事を始めようとしていた荒木だったが、突然ピクリと体を揺らすとポケットから携帯電話を取り出した。何度か操作をすると荒木の表情が途端に綻んだ。

……凪澤からメールでも来たらしい。

荒木はメールを打つのがメチャクチャ遅い。文を物凄く考え、アクセントに顔文字・絵文字を考え、全部を3回くらい見直して修正したり追加したりしてから送る。

完成品は喋るのが苦手な荒木とは思えない程フレンドリーでキャッチーな仕上がりになるが、喋るのが苦手というのはパッとすぐに適切な言葉が思いつかないというものもあるらしく、文の作成がひたすら遅い。

何が言いたいかというと、この時点であの昼食は冷めてしまうのが確定したということだ。


「荒木、メシ食ってからにしろ。」

「……。」


荒木は昼食と携帯電話を何度も交互に見てからフルフルと首を横に振り、携帯電話に集中し始めた。これはダメだ、放っておこう。

メール作成に集中してしまった荒木を放っておくことにして秋山は再び昼食へと向かう。だが、それも1口食べただけで別の邪魔が入って来た。


「おい、秋山。」

「……なんですか、永田先輩。」


眉間に物凄く皺を寄せながらスッと寄って来たのは秋山の前の生徒会長だった永田だ。別にそこまで仲良くなかったので大学に入ってから目が合えば挨拶する程度だったのだが、いったいどうしたのか。


「香と谷口の奴、いったいどうなってんだ。」

「は?」


この人まだ大塚のこと好きだったのだろうかと思いながら、いまいち質問の意図が分からずに首を傾げると、永田はイライラしたように軽く舌打ちする。


「昨日、香と電話してたら相談されたんだよ。」

「…はぁ、なんて?」


何気に連絡を取っていたことに驚きつつも続きを促すと、それまでイライラした様子だった永田が僅かに落ち込んだような空気を醸し出した。


「………谷口に抱きしめられるとドキドキするのは何故かって……。」

「……残酷な。」


大塚も希糸に相談すればいいのに、何故よりによって永田に相談なんかするのか。


「前は希糸って奴の話題ばっかりだったのに……希糸ってアレだろ、噂になってたお前の…。」

「……ええ、まぁ。」

「同じ部屋でどんだけイチャイチャしたかって話もすげぇムカついてたが、秋山の恋人だって情報が入って安心したってのに…!それが今度は谷口かよ……!しかもその希糸って奴が自分で考えろとか言ったらしくてよぉ……。」


しょんぼりと肩を落とす永田を見つつ、同じ部屋でイチャイチャしたってどういうことだと今すぐに希糸を問い詰めたくなったが今はそんなことをしてもいられないようだ。

というか、今希糸に電話しようものなら永田は自分の話を聞けとばかりに邪魔をしてくるに違いない。


「一応は相談したのか…。」


心底どうでもいいが。というか、素直に自分で考えろよ。


「あれ、でも確か俺が卒業する頃にはあの2人いい感じになってたような気がするんですけど、なんで今更…。」

「はあ!?そうなのか!?俺は昨日が初耳だったぞ!……いい感じだったのか…?」


谷口はやたらと気が長いから大塚が自覚するまでじっくりと待っていたということだろうか。そしてようやくその努力が報われようとしていると。

生徒会長だった頃の堂々とした永田は見る影もなく、ずーんと重い影を背負って背中を丸める姿を眺めていた小野寺が「おい」と秋山に声を掛けてきた。


「これ、もしかして慰めなきゃいけないムードか?」

「……なんとか回避出来ないものか…。」

「お前こいつと仲良いんじゃねぇの。」

「そんなワケあるか。ただの先輩だ。……あ。」


そのとき、秋山は永田が騒いだことで集まっていたギャラリーの中に堀田の姿を見つけた。しかも、なんだか面倒臭いことになりそうだから逃げよう、みたいな顔をしていた瞬間を見た。

堀田は秋山と目が合ってギクリと肩を揺らし、すぐさま逃げようとする。秋山は素早く立ち上がるとギャラリーを押しのけて逃げようとしていた堀田の襟首を掴んだ。


「っ、おい!何すんだっ。」

「何逃げようとしてんだよ、いつもは暇つぶしに嫌がらせしに来るくせに。」

「俺には関係ねぇだろが。」

「俺だって関係ねぇんだよ、いいから大人しく巻き添えになれ。」

「つーか、永田とはそんなに面識ねぇよ!俺じゃなくて、あそこで無関係みたいな顔でケータイ弄ってる奴に言え!」

「荒木が空気読んで慰めるわけねぇだろ!」


堀田は秋山に抵抗しようとするが、両手に持っていたトレイが災いしてあまり派手に動けずにズルズルと秋山がいたテーブルへと引きずられていく。

そんな堀田の姿を小野寺がニヤニヤと笑いながら見て、空いていた椅子を引いて歓迎する。ちゃっかり永田に近い側の椅子に誘導する辺り、流石である。

強引に椅子に座らされて渋々テーブルにトレイを置いた堀田は、憮然とした顔で口元を引き締めた。自分がここに来て何をしろって言うんだとでも言いたそうだ。それはこちらも言いたい。

永田は未だにしょんぼりと肩を落としている。


「で、どうすんだよ…。」

「そういえば、もう1人いただろ。大塚好きな奴。あいつ仕向ければ?」

「……それって平山のことか?…まさか、失恋した者同士でくっつけばいいって言ってんのか?きーが激怒するぞ。」

「は?凪澤じゃなくても怒るのか?」


堀田から凪澤の名前が出て一瞬荒木がこちらを見たが、秋山はスルーして神妙に頷いた。






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