!ほんのり忠実 銀+土
「わからねえだろうよ、」
「んん?何が」
てめえにゃ分からねぇさ。
呼吸同然のように呟かれた一言を目の前の銀髪は拾った。これみよがしに拾った。吐かれた言葉の重さを、意味を、何の躊躇もなく尋ねてきたのだ。不快だ。そうしておどけたような表情で人を見つめてくるのが腹立たしくてならない。ごまかして核心に触れるようで触れない、そのぎりぎりのラインを保つ意味が俺には理解できない。
幾人かの人々は俺と奴を似ていると言う。たまったものじゃない。近藤さんと志村妙が結婚して子供をもうけるくらいありえないことだが、もし俺と奴が似ているというなら、奴も毎日総悟に命を狙われればいいと心底思う。
「てめえにゃ分からないっつったんだよ」
「えーと、日本語通じてる?何がわかんないか聞いてんだけど」
俺たちがどれだけ剣を磨いてどれだけ馬鹿にされて泥水啜ってどれだけ辛くて、そうしてやっと今があるということがお前に分かるのか。
壬生狼と呼ばれて蔑まれたことがお前に分かるのか。あの人を、芹沢さんを俺たちがどんな思いで斬ったのかお前に分かるのか。伊東の馬鹿をどんな思いで彼岸へ送ったのかお前に分かるのか。
お前に俺たちの苦しみや哀しみや辛さや努力が、分かるのか。
「てめぇはそうやって、いつものらりくらりと生きてやがる」
「ええ?なに土方くん俺の生活が羨ましいわけ?いや案外大変だよ。パチンコに行く暇も、」
「その袋はなんだ」
「……今日はたまたま仕事なかったんだよねェ」
後ろ手に菓子の入った袋を隠して、奴はへらりと笑った。腰の木刀にだらしなく手をかけ置いて、で何の話だっけ、などとひょうひょうと聞いてくる。お前は何が言いたい。何がしたい。核心に触れるのが恐いのか。
俺なら聞く。真っすぐに、それが俺たちの敵であるなら明らかな殺意を持って、聞こう。そして胸を張って、真選組だ、神妙にお縄につけといつもの口上を述べよう。刀を抜き、人の子の命を奪おう。
お前にそれができるのか。
「てめぇは臆病モンだ」
「…臆病ねェ」
がさりと菓子の入った袋が揺れた。風が季節にそぐわず冷たい。
「てめぇに、俺たちのことが分かってたまるか」
「じゃあ俺も言うけどさ、」
そうだ、本気になれよ。護る目じゃなく殺す目でも向けてこいよ。憎悪だとか嫉妬だとか何でもいいから、人を射るような目で真っすぐ見ろよ。
そうしたら俺もお前には分からないだろうなどと口にはしない。
「おまえは、ほんとうに死にそうになったこと、ないでしょ」
ああ、夜叉がいる、と思った。思って、少し笑った。
●誰かの咆哮
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