好き。
愛してる。
なんて陳腐なセリフなんだろうと思ってた。
囁く言葉も囁かれる睦言もすべてが虚偽である世界にいたから。
【キミにだけ囁く】
いつもと変わらない夕焼けだけがやけにキレイに空をオレンジに染めていた。
腐りきった里でゆがんで醜い大人たちが数に物を言わせてオレたち二人を襲った。
オレは慣れてしまった罵倒を浴びながらあちら側からの一撃を待ちわびる。
バカな奴ら。思惑通り鳩尾に一撃を食らわせた男が英雄を気取ってオレを蔑むがそれはこちらが書いたシナリオで…。
「正当防衛だかんなぁ…。」
今までことの成り行きを怯えることもなく黙ってみていた黒髪の少年はにたりと口元をゆがめた。
目の前で行われている惨劇を無感動のまま見つめる。バカな大人たちが少年一人から逃げまどう無様な様子は笑いすら生まない。
それでも見てしまうのはオレのために汚れを知らなかった身体を同胞の血で染め上げる修羅の姿があるから。
オレの視線に気づいたキミが狂気を帯びた闇色の瞳を嬉しそうに細め血に塗れた手をオレに向かって差し出す。
血に汚れることなどに躊躇することなくその手を取るオレ。
そして目一杯背伸びして耳元で囁くんだ。
「大好き」
安堵の表情を浮かべるキミを抱きしめてもう一度囁く。
「愛してる」
戯れ言でしかなかった言葉はオレのためだけに罪を重ねるキミへの免罪符。
罪のすべてはオレが引き受けるから。
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