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美しいワルツの調べに乗って、燕尾服姿の紳士と華やかなドレスを纏った淑女達が踊っている。重厚な造りの大広間は贅をつくしていて特に目を引くのがクリスタルのシャンデリアで蝋燭の灯りを反射してキラキラと輝いている。そんな華やかな雰囲気を楽しむことができない美咲は林檎の発泡酒を飲みながら小さく息を吐いた。

（辺境の田舎から来た私に声を掛けてくれる紳士なんていないわよ）

美咲の国は花の都と呼ばれるこの巴里から遠く離れた白の国と呼ばれる北の辺境にあり、長く寒い冬と北海から吹く強い風による不安定な天気のために土地がやせていて、ろくな作物が穫れない。主な産業は南部にある炭鉱だが、ここ数年で石炭の量と質が低下し廃鉱が進んでいる。北海に面しているが複雑に入り組んだ湾では大きな港を造れないので交易は難しいし、冬が長く荒れるために漁ができる期間はとても短い。そのため男達は冬の間に他国に出稼ぎに行くのだが春に帰ってくる人数は出て行った人数より少ない。つまり、とても貧しい国なのだ。




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