「もう秋か〜」
ポツリと呟いたロイドの言葉に顔を上げれば、なるほど、確かにひんやりとした風が頬を撫でていくのを感じ、もう季節が移り変わったのかとゼロスは思った。
ギラギラと容赦なく照り付けていた太陽はいつからか穏やかな陽射しに変わり、今は夕暮れのオレンジが柔らかく2人を包み込んでいる。
(また1つ、ロイドと過ごす季節が増えた)
ただそれだけのことなのに、嬉しくて唇が笑みの形を作るのを抑えられない。
(おかしいな、ポーカーフェイスは得意なはずなのに)
必死に口元を引き締めようとするものの、それでもやっぱり唇は弧を描いたまま。
(こんなんじゃ俺さま、ただの変な奴じゃね〜か)
案の定、そんなゼロスの様子に気付いたロイドが声をかけてきた。
「……?なんだかゼロス、嬉しそうだな」
どうしたんだ?と純粋な瞳で聞いてくるロイドに、ゼロスは言葉に詰まった。
(理由なんて、恥ずかしすぎて話せる訳ねぇじゃんかよ)
「……なんでもねぇよ」
なんて、我ながら見え見えな嘘をついたもんだと思ったが、ロイドは「ふぅん?」と言っただけで何も追及してこようとはしなかった。
それでも何故か、ロイドは嬉しそうに微笑んでいて。
「なんでロイドくんこそ笑ってるのよ〜?」
自分が知りたかった答えを聞くことが出来なかったにも関わらず、嬉しそうにしている訳がわからなくて、ゼロスは逆に聞き返す。
するとロイドは、ん?と視線を寄越した後、さも当然のことのように口を開いた。
「だって俺、ゼロスが嬉しそうな顔してるだけで嬉しいもん」
ニカッと歯を見せて笑いながら告げられた言葉と表情は、とんでもない威力を伴っていて。
不覚にもときめいてしまった自分の胸から熱が生まれ、一瞬にして顔まで熱くなってしまったのを感じた。
(……反則、だろ)
両手で冷ますように頬を包み込みながらちらりと目をやれば、当の本人は涼しげな顔で微笑んでいて。
(……この、天然タラシめ)
いつも、最終的には自分ばかりが調子を狂わされ、振り回されて。
別にそのことが嫌な訳ではなかったけれど、おもしろくはなかったから。
にやり、と初めとは違う意味で唇が弧を描いた。
ドキドキと、さっきよりも大きく打っている胸を落ち着かせるように手を当て、小さく深呼吸する。
(たまにはお前も、俺と同じ思いを味わえばいいんだ!)
少し離れた赤い背中に向かって小走りに近寄る。
振り向いた赤に、追い付いた紅。
2つの影が、重なった――
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