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「なぁ、おっさん」


ああ、また始まった。
ずしんと肩にかかる重みに緩い溜息をつきながら、レイヴンは肩越しに振り返る。


「なーによ」
「しようぜ」
「しませんー」


いつからか何度も何度も仕掛けられる誘いに対するレイヴンの答えはいつも同じ。
それなのにこの青年はちっとも懲りる様子がない。


「なんで?」
「おっさんがノーマルなの知ってるでしょ?」
「オレが男の良さを教えてやるって」
「……はぁ。あのねー、ユーリ君。大体君はなんでこんなおっさんがいいのよ」


男でさえなければ、いや男であったとしても大抵の人間は落とせるのではないかと思うくらいの色気を振りまいておきながら、何故よりによってこんなおっさんを選ぶのか。
最初の頃の警戒心はどこにいったの!?とこめかみを押さえるレイヴンに対し、ユーリは眉一つ動かさない。


「オレ子供の頃から決めてたんだよな、クレープ作りが一番上手なやつと結婚するって」
「悪いこといわないから今すぐそこに可愛い女の子って文字を付け加えときなさい」
「却下」
「なんでよ」
「なんでも」
「なんで可愛い女の子が選り取り見取りの状況でこんなおっさんなんかを選ぶのかねぇ。この青年は」
「選ぶんじゃねぇ、もう選んだんだ」
「こんなところで名セリフの無駄遣いしないでちょうだい」


頼むからと泣きが入ったレイヴンに仕方なさそうに身を乗り出すユーリ。


「ちっ、しゃあねぇなぁ。じゃあ、今日はこれで我慢しといてやるよ」
「……はぁ、仕方ないわねぇ」


ん、と瞼を閉じて口付けを促してくるのに応え、顔を寄せる。
レイヴンはノーマルだ、その言葉に嘘偽りはない。
なのに根負けしてつい口付けを交わしてしまった。
それからというもの誘いを断る度にこうしてキスをねだられるのだが、不思議と嫌じゃないのが我ながらどうかしている。


「ん。……おっさん、愛してるぜ」


そういって笑うユーリの表情はいつものどこか不敵な印象を受けるものとは違い、柔らかだ。


「はぁ、ほんと最近の若人は怖いわ」


この分ではそのうち本気で口説き落とされかねない。
ひくりと頬を引きつらせたレイヴンに、いっそ可憐といってもいいような笑顔でユーリはにっこりと微笑んでみせた。


「わかってるじゃねぇか。絶対口説き落としてやるから腹ァくくれよ?」




End 



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