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「狗神さん、コーヒーを淹れてるんですか?」

「…左様でございますが」

「私も狗神さんの淹れたコーヒー、飲んでみたいです」

「何故私が貴女に淹れなくてはならないのですか?」


こひな様にならともかく、何故貴女のためにわざわざ。


「…コーヒー、本当は美味しく淹れられない、とか…?」

「……そんなことはございません。はぁ…仕方ありませんね。今回だけですよ」


コックリさんの言うとおりですね、と呑気に間抜けな顔をしていう女に、「狐殿、余計なことを…」と口に出して言ってやりました。狐殿のクセして謀るとは…いえ、この場合、狐殿に入れ知恵されて謀った女に苛立ちました。
私は仕方なく、私の分と彼女の分の豆をミルで挽き、沸かしていたお湯を布ドリップに移した豆の上に細くゆっくりと、落としていきました。
挽き立ての豆の、芳醇な香りが漂い、苛立ちを少し和らげてくれます。自然と口元が緩んでいると、その香りに女が口を開きやがりました。


「…とてもいい香りですね」

「おや、貴女に香りの良さがわかるとは思いもしませんでしたが」

「よ、良さっていうか、いい香りだなって…!」

「ああ、失礼。良さが判別できるわけがございませんでしたね」

「素直な感想言っただけじゃないですかー!」

「私も素直に思ったことを言っただけでございます」


本当にぴーぴーうるさい女でございます。せっかくのコーヒーの馨しい香りで和らいだ苛立ちが、またふつふつと顔を出してくるではありませんか。
二人分のカップにコーヒーを注ぐと、カップの一つを不細工にも頬を膨らませている彼女の前へ差し出しました。


「あ、ありがとうございます。うわぁ…本当にいい香り…」

「良さではなく、それも感想、でございますね?」

「わ、悪かったですね!私、普段はコーヒー飲まないんですよ!」


ざくざくといつも通り砂糖とミルクを入れている私に、両手でカップを包み持ちながら女はとんでもないことを口にしました。
普段はコーヒーを飲まない?では何故わざわざ私にコーヒーを淹れてもらってまで、普段飲まないコーヒーを飲もうとしているのでしょう?
私に対する嫌がらせでございましょうか?そう思うと自然と眉を寄せ、私はもうスプーン一杯分の砂糖をコーヒーへと落としました。


「…何故ふだん飲まないのに、わざわざ私に頼んでコーヒーを飲もうと思ったのですか?貴女、被虐趣味(マゾ)だったんですか?」

「狗神さんと一緒にしないでください!」

「私はこひな様限定の被虐趣味です故」

「さらっとキメ顔で言っても言ってること変態ですから!」


…本当にぴーぴーうるさい女です。
じゃりじゃりとスプーンでコーヒーを混ぜていると、彼女は視線を逸らしてこうぽつりと呟いたのでございます。


「…狗神さんの淹れたコーヒーだから、飲んでみたいと思ったんです」




(…はぁ…やはり被虐趣味でございますね。気色の悪いことをおっしゃらないでいただきたい)
(! 狗神さんの淹れたコーヒーなのに、すっごく美味しい!)
(…貴女、私に嫌がらせをしに来たんですか?むしろそうですね?)
(え!?ちがいます!)



拍手ありがとうございました!
拍手お礼はランダムで、全部で三種(コックリさん・狗神・信楽)です。
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