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〜とある日の出来事〜





「はーあ」


いい加減しびれてきた両手をもじもじと動かし、どうにか解けないかと頑張ってみる。
こすりすぎたためか、どうやら擦り傷が出来ているらしく、鋭い痛みが時折走った。


「ちっ、まだ連絡とれねぇのか!!」


目の前にふんぞり返っているボスらしき男が、携帯片手に怒鳴り散らす。
今日は早めに学校が終わるから、久しぶりに外食する予定だったのに。
明日は休日だし、遠出をして一泊するのもいいなと嬉しそうに話していた彼を思い出す。
あ、ちょっと泣きそう。


「おい、意識あるか?」

「……何ですか」

「てめぇの携帯はどこにある」

「さっきあなたの部下さんが踏みつぶしてましたけど」

「どいつもこいつも使えねぇなぁ!!」


近くにおいてあったパイプ椅子を蹴りつける男に今日何度目かのため息が零れる。
なんでこんな無能な男に捕まったんだか。
携帯は自分の胸ポケットにいれてある。
マナーモードにしているから、仮に着信があってもばれることはない。
この無能な男と高杉が連絡を取る前に、武市あたりがGPSなるものでこの居場所を見つけてくれたら一番楽なのだが。


「あの、」

「何だ」

「何が目的なんですか…?」


こういったタイプはおだててやるのが一番だ。
おだてる、といっても浅はかな計画をさも恐ろしいといった風に聞いてやるだけなのだが。


「ふん、決まってるだろうが。金だよ金!!」

「…お…金……?」

「てめぇだといくら貰えるんだろうなぁ。なんせ、あの高杉の女らしいじゃねぇか!!まさかあいつにロリコンの趣味があったとは驚きだがよ」

「…」


思った通りの答えに落胆。
少しは楽しめる相手かと思ったのに、所詮小物は小物の考えしか持たないらしい。
これだったら前の奴らの方がよっぽど面白かった。
こんないかにもな廃墟じゃなく一応ホテルだったし、拘束具もロープじゃなく手錠だったし。
いや、別に変な趣味じゃなくて。

そろそろ、緩んできた。

痛みに耐えながらばれないように両手を小さく動かす。
拘束するならせめて前で縛ればいいのにと、心の中でアドバイス。


「あの、」

「あ?今度は何だ」

「喉乾いたんですけど…」

「ちっ、これだから女は面倒くさいんだ」


携帯に目がいったところで、一気に距離を詰めて鳩尾に蹴りを一発。
体を丸め、前かがみになった首筋に肘鉄をいれ地面に沈める。


「女じゃない、桂だ」






「へぇ…。結構やるじゃない」


いつの間にいたのか。
攻撃を仕掛ける前に両手を抑えられ、膝をつく。


「いいわね、その顔。ゾクゾクしちゃうわ。貴方から可愛がってあげようかしら?」





…これは久々にピンチみたいだ。










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