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拍手ありがとうございます!今回のお礼文は、誓約の翼、『ラケシスとウィルド@』、月色ラプソディ、『似ていないようで似ている二人A』となっています。ちなみにランダムです。
 ラケシスは読みかけの本を閉じ、顔を上げると視線を窓の外に向けた。ノルンたちがアルゼンタム村に出発してから既に数日。見習いであるラケシスには情報が入らないため、状況も分からない。ハロルドやヴィオラもついているのだから心配はないだろう。そうと分かっていても、この世に絶対などないのだ。幸せな毎日が突然崩れ落ちたように。
 図書館は独特な雰囲気があり、部屋とは別の意味で落ち着いた。まだ帰省している見習いも多いため、いつも以上に静かである。その証拠に図書館にいるのはラケシス一人だ。

「ラケシス」

「クロト」

 声がした方に顔を向けると、そこには幼馴染であるクロトがいた。しかしラケシスの瞳を見た瞬間、いや、ウィルドか、と言い直す。
 椅子に座り、閉じた本に両手を乗せた少女は確かにラケシスだった。だが、纏う雰囲気、そして表情が彼女とは違う。その瞳は力強くまっすぐ前を向いており、眼帯をしていても、黄玉の瞳は宝石のように光り輝いている。

「やはりクロトは分かるのね」

「当たり前だ。見れば分かる」

 唇を尖らせて言うと、呆れた声が返って来た。今のラケシスはラケシスであってそうではない。彼女の言葉を借りるならウィルド。ラケシスの中に眠るもう一つの人格。かつて彼女の両親が悪魔に命を奪われた時、幼いラケシスは己の心を守るため、もう一つの人格を作り出した。それが彼女――ウィルドである。普段は表に出ることもないのだが、こうして時折、気まぐれに表れることがあった。
 いくら何でもクロトが間違えるはずがない。正確に言うならば、彼女もまたラケシス。ウィルドはラケシスの持つ一面にしか過ぎないのだ。普段の彼女とは違い、どこか大人びていて、魔眼も完全に制御出来ている。

「でも、それが凄いことなんだけど。ねえ、クロト。少し話さない?」

「何をだ?」

「本当に取り付く島もないのね。私だってラケシスなのに」

「そうだな。それは分かっている」

 拗ねたようにこちらを見上げるウィルド。ラケシスならばまずしない表情だろう。クロトは頷いて彼女の向かい側に腰掛ける。幸い、自分たち以外には誰もいないため、話を聞かれる心配は無い。もし、ここにラケシスを知る者がいれば大層驚いていたことだろう。






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