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『僕が知る君へ』(シンキラ?)
By 柳
2008-01-22 13:35:52
戦後,シンはAA(アークエンジェル)に身を寄せていた。

 ルナマリアはオーブに移住したメイリンと共に新たな生活を送っている。

 そしてレイは,あの爆発で──。

 身寄りもなく友と呼べる者もいないプラントに残る理由はなかった。少年は再び,故郷であるオーブに身を置いた──。






『僕が知る君へ』





「9月1日が何の日か知ってる?」

 ミリィにそう聞かれキラはキョトンとした。唐突な質問に首を捻る。

「えーと……映画1000円の日」

「それは毎月でしょ」


(※オーブ限定)

(本当かよ)

「じゃあ菊の節句?」

「それは9日だってば」

 もー変なことばかり知ってるんだから……。ミリィは深い溜め息をついた。ツッコんだからにはミリイも知ってるんじゃないか,とかいう言葉をキラは呑み込んだ。



「9月1日はシン君の誕生日よ」



“シン”という響きを耳にした途端,キラは目を見張った。心拍数が上がり,背中に冷たい何かが伝うのを感じた。

 キラの一瞬の動揺に気付かない振りをして,ミリィは何でもないことのように告げる。

「シン君もキラに知っていて欲しいだろうから,教えたの。どうするかはキラが決めて」

 私はいつでもキラの味方だからね。そう囁くミリィの顔を,キラは見ることが出来なかった。
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By 柳
2008-01-22 13:38:47

2





シンのことは嫌いじゃない,と思う。でも,好きかと聞かれると言葉につまる。自分が彼にそんな感情を抱くことすら烏滸がましい気がして。この感情はそんな単純なものじゃない。

 僕は彼の全てを奪った。僕は彼の心の傷。どう接していいのかすらも分からない。壊れ物を扱うように接して,あの鋭利な視線に突き刺され,何も言えなくなってしまう。深紅の瞳の前では取り繕うことすら出来なくて,泣きたい気分になってくる。



 違う。



 泣きたいのは僕じゃない。泣いていいのは僕じゃない。




 だって彼は,いつだってその純粋過ぎた心に涙を流してる。



 戦争中の彼はどこかおかしかった。そう,アスランを始めとするミネルバの彼の仲間達は口にしていた。

 僕はその頃の彼を知らない。いや,実際にはMS越しに何度も刃を交えていたのだけど。生身の彼に会ったのは,もう遠い昔のような気がして。

 でも,彼がおかしかったというなら僕のせいだ。彼を戦場に呼んでしまったのが,他ならぬあの時の僕達──僕なんだから。

 慰霊碑の前で,泣きそうな顔をしていたシン。

 戦場で,いつもやり場のない怒りを持て余していたシン。

 僕の知らない──知ることの出来なかったステラという少女。守りたくて,守れなくて,絶望,怒り,嘆いて。

 僕は知らなかった。見えていなかった。どうしようもないくらい,僕はシンを苛んで,それでも僕は誰かを守りたかった。

 僕もシンも,只守りたかった筈なのに。シンは守りたかったものを守れなかった。僕の存在がそうさせた。

 僕は只,自分の信じるものの為に。間違っていたとは思わない。でも,正しかったとも思えない。



 何て矛盾だらけなんだろう。

 僕は結局,どうしたかったんだろう。

 平和な世界を夢見ていた。でも僕のしてきたことは矛盾の塊……。



「キラさん」



 不意に呼び掛けられてハッとする。

 意識が現実に戻った途端,目の前に深紅の瞳があった。

 あまりに真っ直ぐな瞳に,思わず視線をそらせてしまって。それにシンが目を細めたような気がしたけれど,気のせいだと自分に言い聞かせる。

「シン君。いつからいたの?」

「ずっといましたけど。でもキラさん,また何か考え込んでるみたいだったから」

 『また』。

 そうなのだ。

 シンと対していると,つい思いに耽ってしまい,それを度々目にする彼にとって,キラは「いつもぼーっと何か考えてる人」という人物像らしかった。

 さっきも多分,何処かにシンの気配を感じてあんなに考え込んでしまったのかもしれない。

「ごめんね。何の用事だったの?」

 微笑んで,そう問う。シン自身が僕に用事があるとは思えなかった。今の僕達はそんな間柄ではないから。

 でも,出来るならば。友人とまではいかなくても,それに近似した関係になりたい……細やか(ささやか)な願望があったのも,確かだった。

「ああ。胸のでかい,ほらあのマ……マユ……じゃない,そう,マリューって人が呼んでましたよ」

 そしてやっぱり告げられた内容は予測していたもので。

 シンに近付くのは怖い(ちょっと違うけれど,ぴったりくる言葉が思い付かない)。

 でも,もっとシンに近付きたいという気持ちも大きくて(勿論シンがそれをいとうなら,すぐにでも身を引こう)。




やっぱり僕は,矛盾の塊。



 シンに礼を言って,マリューさんと会う為彼に別れを告げた。




 独りになったシンがどんな顔をしていたかなんて,僕は知る由もなかった。
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By 柳
2008-01-22 13:40:18

3





 再会した時,その表情にムカついた。



 何て表情(カオ)をするんだろう。貼り付いた笑顔。瞳は何かに怯えるように揺れ。理由とか以前に,唯直感的に苛ついた。



 嬉しかったのに。

 初めて会ったのは慰霊碑の前。妹のマユと同じ色をした人。2度目に会ったのも慰霊碑の前。あのアスランと知り合いだって聞いて本気かよって軽く目眩。



 また会えて嬉しかった。

(正直,再会したその時迄忘れていたんだけど。でも本当に嬉しかったんだ)

「花を植える」んじゃなかったのか?

「僕達」って,俺はその「達」には入らないのかよ。



 睨みつけたら途端に大人しくなる(まぁ,元から大人しい方みたいだけど)。



 嘗められてるんじゃないかって,そう思ったんだ。



 一方的だなんてこと分かってる。でもムカつくものはムカつくんだからしょうがない。生憎俺は感情をコントロール出来る程大人じゃないから。





「キラと仲良くする気はない?」



 程なくして話しかけてきたのは,蜂蜜色の跳ねっ毛の女だった。



 なんでそんなコト言われなきゃならないんだろう。

 此処(アークエンジェル)に来て始めは色んな奴等に話しかけられたけど,最近は滅多にそんなコトはなかったから珍しい奴だなって思った。アイツといいこの女といい,物好きなものだ。

 そう。アイツは懲りずに何度も俺に話しかけてくるんだ。……あんな表情する癖に。


「ホラ,またブスッとして。そんな怖い顔してるから皆貴方のコト怖がっちゃってるじゃないの。それともそれ,素?」

 まるでこちらの思考を読んだかの如き台詞が,グサッとくる。……この女。人が密かに気にしているコトを。

 アカデミーやZ.A.F.T.でもちらちら言われていたんだ。……そんなに怖いんだろうか。自覚はないんだけど。

 ふと,先程彼女の口から出た別の一言が気になった。

「……“皆”って,アイツ……キラも俺のコト怖がってるのか?」

 何故だろう。そんなコトが気になった。

 ……てか,怖がってるに決まってるじゃん!アイツの表情,今でも俺の脳裏に鮮明に焼き付いてるし。

「キラが?まっさかー。そんな訳ないでしょ」

「……けど,アイツ俺のコト見てビビってんじゃん」

「“ビビってる”ってのとはちょっと違うわね。怖がってる人相手に自分から何度も近付かないわよ。アレは……そうね。“戸惑ってる”って表現が1番近いと思うわ。貴方にどう接していいか分からないのよ」

 戸惑っている……?

 言っている意味はよく分からなかった。でも,怯えているんじゃないのか。そのことに何故かひどく安堵する。

 それに。戸惑っている──か。それは俺も多分同じで。

 俺達はお互いのことを知らない。全く知らないって訳じゃないけど,持っている情報は間接的なもの(主にアスラン経由)ばかりで,戦場でのことだってあまり思い出したくはない。

「貴方の気持ち分からないでもないから,無理にとは言わないし。でもこのまま殺伐としてたって後悔することになるんだから〜」

 そう言って詰め寄るのは笑顔,でも得体の知れない迫力があって頷きそうになる。言い返すだけでやっとだった。

「アンタに俺の何が……」

「私,大事な人を戦争に殺されちゃったのよね」

 言い終わる前に重ねられた言葉に息を飲む。

「民間人だった癖にカッコつけて飛び出してさ。で,MIAだって?その時はカッとなっちゃったから無神経なコト言いやがったZ.A.F.T.兵・約1名にナイフで斬りかかったりしたわよ。懐かしいわ〜……」

 笑いながら俺の肩叩いてきたけど……笑えねえ。笑えねえって,それ。

「誰が殺したか,とかそういうの,言っても仕方ないし。戦場に居たのなら誰だって何かを傷付けるわ。誰が何を傷付けるかなんて,ほんの些細な差で変わっていくの」

 俺は,守りたかったんだ。守る為の力が欲しくて,手に入れた。

「戦わないと,誰かを殺さないと自分が殺される。そんな世界で,誰がとか誰をとか──言っても仕方ないことだわ」

──そして俺は“敵”を撃った。守りたかった。でも,その人間を想う人間から見れば,俺はただの“人殺し”。視点が変わるだけで,その内容は真逆になる。

「戦争は嫌い。全部割り切るなんて出来ないけど,もうあんな想いをするのは嫌なの。憎しみ合ったり殺し合ったり,その先に憎しみと誰かの死以外の未来はあるの?」

 だったら俺はどうすればよかった?

 何も出来ない子どものままただ生きて……“戦争”に殺されてしまえばよかったとでも?

「貴方は知らないでしょうけど……。キラは戦時中,貴方のことを知ってずっと気にかけてたのよ」

 俺もアイツは知っていた。俺から何もかも奪った。平和も家族も仲間も──ステラも,何もかも。憎くて憎くて許せなくて,ずっとその陰を追っていた。復讐。俺の生きる理由だったから。

「勿論,それで恩を売ろうって訳じゃないのよ。ただ,知っておいて欲しかったの。私の自己満足だって思ってくれてもいいわ」

 確かにこの女のいうことは自己満足,偽善としか思えない。

──だって,俺の今迄生きてきた意味は?

 間違った道だったのか?
 簡単に納得なんて出来るわけない。──したい訳ない。

 暖かで,綺麗で,優しい世界を!

 俺には叶わない望みなのか?





──僕達はまた,花を植えるよ──





 キラ,アンタは何を思ってあんなコト言ったんだ?

 何度も何度も歩み寄ってきて。何を思って俺を見ている?

 ああ,でも怖がられていないのだと。求められているのだと。俺の存在に心乱されるのだと。そんな人間がいるのなら,何か満たされるような気分になる。この酔いに似た感覚は何だろう?

「アンタって結構お節介なんだな」

 そう言った俺に,ちょっと眉根が動く跳ねっ毛女。

「さっきも思ったけど……アンタは酷いんじゃない?」

 まがりなりにも同じ艦(ふね)に乗る仲間に向かって。跳ねっ毛女はそう言うけど,今迄殆んど話したコトもないのだ。名前なんか知らない。

 ……まあ,うん。向こうはこっちを知ってる訳だし。失礼だったかもと思わないでもない。

「悪い。何て名前だっけ?」

「ミリアリアよ。ミ・リ・ア・リ・ア」

「ミリグラム?」

「ミ・リ・ア・リ・ア!もう……ミリィでいいわよ」

「ミリィだな。サンキュ!」



「……因みに,ミネルバに乗っていた貴方のお友達の名前は?」

「ルナとレイとメイリンとヨウランとヴィーノ」

「ルナさんの本名は?略さないでよ」

「……ルナ……ルナ……アリア?」

「混じってるわよ。じゃあプラントの議長だったあの狸……もとい男性は?」

「議長は議長だろ?」

「名前を聞いてるのよ,名前を」

「……」

「誰?」

「……デ……」

「……」

「……?」

「……うん,分かった。もういいわ」


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By 柳
2008-01-22 13:41:24

4





「でもミリィ,何でシン君の誕生日なんて知ってたの?」

「私はAAのCIC担当よv」

「……よく分かんないけど分かったよミリィ」

「所で,ディアッカの誕生日も知ってるの?」

「何で其処でアイツの名前が出てくるのか意味不明だわ」

「因みにさ」

「大変!アフタヌーンティータイムの時間だわ!じゃあねキラ」

「タイムと時間は同じだよミリィ……」

 キラは心の中でディアッカに手を合わせた(違うだろ)。

「さ」の続きを言い終わる前に踵を返したということは,彼の誕生日が3月だと知っているのだろう。


よかったね,ディアッカ。

(そうか?)
P903i
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