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『Pigeon blood ruby』(シンキラ?)
By 柳
2008-01-18 18:36:20
シン
キラと双子の吸血鬼。
奔放な性格。
日光も十字架も平気。
キラ
シンと双子の吸血鬼。
成長と共にシンが離れていくようで不安を感じている。
レイ
シンのクラスメイトの人間。
寡黙。
カガリ
キラのクラスメイトの人間。
快活。
pc
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By 柳
2008-01-19 18:00:58
(編集中)
「ずっと一緒に居ようね」
それは記憶の彼方。僕達が交わした,2人だけの約束。
何てことはない口約束。
でも,幼い僕にとっては,何よりも意味があるもので。
まだ世界を知らない無邪気な僕は,純粋に単純に,ただ信じていた。
永遠に違(たが)えられることはないのだと,と信じていた──。
1
「起きろよ,寝坊助」
乱暴な言葉と共に身体に衝撃と痛みが走り,蹴り起こされたのだと理解した。分かってはいても体が言うことを聞かない。呻きながら布団を手繰り寄せせ深く潜ろうとすると無理矢理引き剥がされた。更に,思い切りカーテンを開けられて鋭い日差しが身体を貫く。
「痛っ!酷いよ何するの,死んじゃう」
慌てて身を起こすと急いで部屋の隅に逃げ込んだ。
もつれながらも漆黒のブレザーに身を包む(くるむ)と,幾分落ち着いた。ゆっくりと乱れた呼吸を整えていく。
キラ・アスカ。ごく普通の吸血鬼。太陽から呪われた存在。
日陰に馴染む素肌を撫でていると,キラは,複雑な気持ちになってくる。
──生物にとって暖かな温もりを齎す(もたらす)筈の光は,僕達の躯を焼き焦がす。
「ホラ出来んじゃん。さっさと支度しろよ」
目を細め此方を見やる彼は,自分の分身,シン・アスカ。
彼は既に身支度を整えていた。漆黒のマントに似た短めのコートを羽織り全体的に黒いイメージの所為で紅い瞳だけが際立っていた。僕と違う瞳の色。それがとても切なくなる。
──嗚呼,僕は誰よりその色が好きだった筈なのに!
同時にとても胸が痛い。
人間達の住むごく一般的な街に,シンとキラは二人きりで暮らしている。家事は分担制。料理はシンの方が上手いけれど,掃除はキラの方が上手かった。気心が知れているから,少ない言葉で通じていたりするし,特に言い争いをするでもない。稀にいさかいがあっても日付が変わる迄には自然鎮火している。
仲はいい方だと,キラは思う。けれど年月を重ねる毎に,変わっていく自分達を感じていた。
双子であるシンとキラの背格好はそっくりだが,受ける印象は全く違う。
キラの髪は艶やかな栗毛色。瞳は“ウォーターサファイア”の鮮紫。消極的な訳ではないが,人見知りなきらいもあり大人しく見られる。
シンの髪は闇を溶かし込んだ如き漆黒。瞳は“ピジョンブラッドルビー”の深紅。奔放且つ快活な性格の所為か自然と周りには人が集まってくる。
それは誇らしいのと同時に,とても狂おしい。
──嗚呼,僕も同じ学校に行きたかった。
けれど彼が選択した進路(ミチ)は寄りにもよってミッション系のハイスクール。吸血鬼がキリスト教の学校に通うなんて!
「十字架を怖れるのは,“神サマ”とやらに後ろめたいコトがあるからだ」
いつだったか,シンが言っていた。
「俺は“神サマ”なんて信じない。悪いコトしてるとも思ってない。だから,十字架なんて怖くない」
シンは,誰もが物怖じするような所業を何でもないことのようにさらりとやってみせる。
シンは強い。恐れを知らない,誇り高い吸血鬼。キラは,後ろめたいとかそういうコトはよく分からない。けれど,十字架は怖くて仕方ない。シンのようには──なれない。
そう,キラは寂しくてたまらないのだ。彼が段々自分から離れていくようで。
容姿が異なってしまうのも其れに拍車をかける。
いつの間にか,寝室からシンの気配は消えていた。それはまるでぽっかりとあいた空白のように。キラは一つだけ溜め息をついて,シンの言う通り登校の支度を始めた。
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By 柳
2008-01-19 22:54:13
2
寝室のあった2階から降り,ドアを開けると台所だ。
シンが食卓に座っていた。朝のTV番組を見ていたが,キラの気配に気付くと視線だけ向けて「遅い」と毒づく。キラが「ゴメンね」と呟くと,フンと鼻を鳴らして視線を反らした。
「待っててくれたんだ?」
「俺は1人で食事すんの嫌(ヤ)なの。前も言ったろ」
其の言葉一つで救われた気持ちになる。
──シンが僕を必要としてくれる。
キラには,シンしか居ないから。
違う学校に通うようになって,一緒にいる時間が減ってしまった。けれどシンはこの自分と共有する時間は変わらず大事にしてくれている。
キラはシンの作ってくれたホットサンドに手を付けた。バターの香りが食欲をそそる。キラと真向かいに座るシンはホットミルクを口にしていた。
ホットサンド,グリーンサラダ,コンソメスープ。ドリンクとして,キラはミルクココアを,シンはホットミルクを。シンプルだけど美味しい朝食。
吸血鬼だからといって血だけを吸うわけではない。今の時代,人間の血は栄養たっぷりとは言い難いし,余計な科学物質みたいなものが含まれていることも多い。吸血だけでは足りない栄養分は人間みたいな食べ物で補っていた。
「キラ,もう出なきゃいけないんじゃないの?」
グリーンサラダを頬張るキラに,シンは腕時計を見ながら告げる。
始業30分前。結構ピンチだった。
片付けもそこそこに家を飛び出すと,直射日光に一瞬たじろぐ。
シンはキラのその反応を見て軽く肩を竦(すく)めた。日光の下でも涼しい顔をしているシンを,キラは恨めしそうに睨んだ。
シンは十字架を怖れない。此れは前述の通りだが,日光も彼の敵ではないのだ。
「キラも“契約”しちゃえばいいのに。意気地なし」
“契約”
何かを“制約”にして,力を得ること。
条件が過酷なほど,得る力も大きいという。
シンの其れは,“太陽に焼かれない躯”。シンは,何かの制約を以て太陽を恐れない躯を手に入れた。これはとても強みになる。対するキラは,其処まで踏み込む勇気がなくて,太陽に苛まれる躯のまま。日中は日焼け止めを塗って耐えている。
“意気地なし”
そう彼はいうけれど。魔力をもつ者達の嗜む“契約”は,決して軽々しいものではない。
然も,自分の本質を変えてしまうにも等しい“契約”なんて,“意気地”とかで片付けられるものではない。
「……シンの“制約”って何なのさ?」
「んー?秘密……」
唇の端を少し吊り上げてみせ,言ったら“制約”になんないじゃん。そうシンは続けた。
シンの言う通り,“制約”は軽々しく口にするものではない。“制約”と“契約”は反比例なのだから。“制約”は即ちその者の弱点に等しい……。
例えば,「右手を使わない」のが“制約”ならば,契約者は「右手を使う」ことが出来ない。相手は其処を狙ってくるだろう。
──でも僕にくらい,教えてくれたっていいじゃないか。
キラに,シンを害する気等毛頭ない。ある筈もない。
──僕達は2人っきりの兄弟なのに。
そして2人は別れた。
キラはキラの学校へ。シンはシンの学校へ。それぞれ向かう為,背を向け反対方向に足を進めた。
P903i
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By 柳
2008-02-18 22:46:08
3
学校は退屈だ。
──シンが居ないから。
何で態々通う必要があるんだろう。吸血鬼に学歴なんて馬鹿馬鹿しくて。
答えは簡単。“生きる糧を得る為”だ。まあ,人間のそれとは少し意味が違うけれど……。
勉強して,働いて,生活費を稼ぐ。それも勿論目的ではあるけれど。
“人間”に怪しまれずに,“人間”が沢山居る所に紛れ込む。そう彼等こそか我等の糧……。
今迄何度となく,クラスメイトや教師達を襲った。ちょっと声をかけると簡単に物陰迄着いてきてくれるから,こんなんでいいのか……とむしろ不安を覚えてしまう。
吸血された人間は,その吸血鬼に服従してしまう。まぁ,それも理ではあるけれど。余程名のある血統の,魔力の強い吸血鬼でないとそんなうまくはいかない。せいぜい“心酔”がいい所だ。
吸血鬼として生まれ変わるというコトもない。それもこちらが意図するか,純血種であるかでないと無理な話だ。大体,吸った側から吸血鬼になられてはこちらの“糧”がなくなってしまうではないか。
日が経つにつれ段々“効き”の薄まる心酔者。操ろうと思えば出来ないこともないけれど,一々面倒臭いのでキラはパシリ程度にしか使わない。
──今日は何だか気分が悪い。
昨日吸血したばかりの名前も知らない男子に,キラは昼食を買ってきて貰うコトにした。購買部のカレーパン。今迄口にした食料の中でも割とお気に入りの部類だ。さっくり揚げられた皮に,野菜と鶏肉たっぷりの香り高いカレーがたっぷりつまっている。
──そろそろ,考えた方がいいのかな。
吸血鬼には従者がいるものだ。多くは蝙蝠だったり,下級の同族だったり,人間だったり。弱点や敵の多い種族だからこそ,補う為に培われた風習だ。
残念ながらこの辺りに蝙蝠は少ないので,まず除外される。どうせ従わせるなら自分の好みで選びたいではないか。
次に同族。こちらも,2人きりで育ったキラに心当たりはまるでない。ましてやシンを従わせるなんてもっての他だ。キラはシンと共に生きていたいのだから。対等でない関係に,気兼ねのある関係に,何の意味があるのだ。冗談ではない。
そうなると,やはり人間。永く側に居て貰うのだから,それなりの人間でないと。とはいうものの……。
キラは深く溜め息を吐いた。
「どうした?何か悩みごとか?」
前の席に座るクラスメイトが,振り替えって話し掛けてきた。カガリ・ユラ・アスハ。太陽を連想させる金髪にオレンジ色の瞳,見掛け通り活発で男勝り,口は悪いけど思い遣りのある少女。キラが心を許す数少ない人間の1人だ。
──言えないよ。
言える筈がない。彼女は,キラが吸血鬼だなんて知らないのだから。ごまかすように苦笑した。
「……キラ」
キラの名を呼び,カガリは参ったな,とでもいうように首を傾げた。心配そうにキラの顔を覗き込む。
「お前,最近元気ないぞ。言いたくないなら仕方ないけどな……。その,何だ。私はいつでも,お前の味方だからな。相談くらいなら,いつでも乗ってやるぞ」
そしてキラの肩をバシバシと力一杯叩く。
「ちょっ,痛いよカガリ」
そう抗議したものの,あはははと軽快に笑うだけでカガリは悪びれもせず腕に力を込めた。
「……ありがとう」
キラはお礼を言った。素直に嬉しかったから。心が晴れた訳ではないけれど,すぐ側に自分を想ってくれる存在がいてくれたという事実。カガリは微笑む。大輪の向日葵のような笑顔で。
ああ,眩しいな。
──シン。
今は此処にいない,誰よりも焦がれる者の名を呼ぶ。
──僕が1人前になったら,シンも僕を少しは認めてくれるだろうか。
──そうしたら,もっと気にかけてくれる?一緒に居てくれる?
結局,その日その後どう過ごしたか記憶がない。上の空で受けたであろう授業は,かろうじてノートは取ってあるけれどそれがなかったら自分がちゃんと出席したのかさえも疑ってしまった所だ。
終業のチャイムで我に返ったキラは,急いで鞄に教科書を詰めると教室を飛び出した。
シンに会いたい。今から急いで行けば,彼の下校のタイミングに間に合うだろう。
教室を飛び出したキラを呼び止めようとして,間に合わなかった手をカガリは握り締める。溜め息をつくと,自分も帰り支度を整えた。
P903i
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