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[001] シモン・マクシミリオン【彼が勇者になった理由 弐】
By 西瓜

目の前には分厚く重々しい扉がある。
兵士に案内されて城内を進んで来たが、この扉を開ければいよいよ王様との対面だ。
緊張のあまり唾を飲んだ音まで辺りに響いたような気がした。

だがそんな俺の緊張感とはお構いなしに背中を思いきり叩かれる。

「いっ…!?」
「ほら、ぐすぐずしてないで早く入りましょ」

隣に並んでいたアイナの手だ。力加減がいつもおかしいと思うのは俺だけだろうか。腕っぷしが強い彼女にそんな目一杯叩かれた日には、骨の一本や二本逝っててもおかしくはない。

「今、すごーく失礼なこと考えてなかったかしら?」
「いたたたッ!ほっぺた千切れるから!」

頬を両側からつねる容赦ないアイナの痛さに叫びを上げる俺を兵士が冷ややかな目で見ていたが、いたたまれない思いで見なかったことにする。

「大体どうしてついてきたんだ。呼ばれたのは俺だけだろ」
「あら、行くのが怖いって泣いてベッドに包まっていたのは誰かしら」
「いや泣いてないし!ベッドに包まってもないから!」
「それだけ元気なら大丈夫ね。さあ、行きましょう」

ダメだ。アイナに口で勝てないのは分かっている。
謁見前から非常な疲れを覚えつつ、俺は意を決して扉を開けることにした。


* *


両側に規則正しく並んだ兵士たちの間を通って玉座の前に出る。あまり王様を見れずすぐに床に跪いた。少し後ろに控えたアイナも同じ動きをしたのが気配で分かる。

「良い、面を上げよ」

年齢を重ねた重みのある低音が響く。これが王様の声だろうか。そう思いながら顔を上げると、白い髭を携えた初老の男性が玉座に構えていた。
今まで生きてきて王様をこんな間近で見たことなどなかった。俺の緊張感は山場を迎えていた。

隣には側近らしい中年の男性が控えている。王様はその側近に目配せをすると、その男性は手にしていた巻物のような物を開いてから読み始めた。

「ハジマリノ村に住むシモン・マクシュ、ミニョンよーー」

いやちょっと待て。今めちゃくちゃ噛んだよな?マクシュミニョンて誰だよ!
しかし今、そんなことを指摘出来る空気ではない。俺は眉を顰めた不満げな表情で男性を見つめると、流石に悪いと思ったのかもう一度初めから読み直した。

「ハジマリノ村に住むシミョン、マクシミニョン…シモン・マクシミノ、マクシミニ?マク、マクシ……」
「………」
「………」
「………」

辺りに重苦しい沈黙が漂う。

「其方はーー」

結局呼ばんのかーい!!
俺は精一杯のツッコミを心の中でした。
だが男性はまるで何事もなかったかのように淡々と続ける。

「其方は神託により勇者に選ばれた。よってこれより魔王討伐のため、勇者の試練を受けてもらう」
「は…」
「え?」

俺の間抜けな声とアイナの驚きに満ちた声が見事にハモった。
名前を噛まれたことなどどうでも良くなるくらい、呆気に取られその意味を理解するのに暫くを要する。

「あ、あの…今なんて?勇者…?俺が、ですか?」
「そうだ、シモン・マクシミリオンよ」

質問に答えたのは、俺の名前を流暢に発音した王様だった。
別に根になど持っていないが、ちらりと側近の男性を見ると気まずげに顔を逸らされた。
いや今はそんなことを気にしている場合ではない。

「でも俺…いえ、私は一農民に過ぎません。勇者なんて大役とても果たすなんて…」
「神託にはまだ続きがあるのだ。レシフル、続きを」

この側近はレシフルという名前らしい。男性は咳払いをし、気を取り直したように続きを読み上げた。

「神託にはこうある。王都より東にある小さな農村、そこに魔王を倒す力の資質を持つ者がいるだろう。その者は太陽に愛されし髪と空を映した瞳を持つ若者なり。それに当て嵌まる者は今の所、其方であるシモ…」
「それが私だと?」
「………」

レシフルさんの言葉を遮って俺は王様に困惑の目を向けた。
これ以上名前を噛まれてたまるか。レシフルさんの恨めしそうな視線をチクチクと感じたが今は無視する。

「今の所は、という事だ。それに正式に勇者となるには先も言った通り、試練を受けてもらわねばならん」
「ちなみに拒否権は………あ、すみませんなんでもありません」

途中で王様の半端ない威圧を感じ慌てて言葉を取り下げた。
だがいきなり勇者になれ、と言われても困ってしまう。どうしたものかと沈黙していた俺の後ろで、今までずっと黙っていた幼馴染が口を開いた。

「あの、王様…一つお伺いしてもよろしいでしょうか」

アイナ、まさか俺を心配して勇者を取り消す算段でも考えてくれたんだろうか。
期待した面持ちで後ろを振り返ると俺はぎょっとした。何故ならアイナがこれでもかと言わんばかりに瞳が輝いていたからだ。嫌な予感しかしない。

「あのーアイナさん…」
「シモンが勇者になった暁には私もついていっても構わないでしょうか?私は彼の姉であり保護者でもあります。いくら勇者になったとはいえ、一人で凶悪な魔王軍と戦うのは無謀かと存じます」

誰が保護者だ。しかもまだやるって言ってないんだが。
頭を抱える俺を他所に、王様はアイナの発言に納得したようで深く頷いた。

「確かに、勇者には仲間が必要であろう。彼をよく知る人物であるならば尚更心強い。お主、名は何という?」
「ハジマリノ村出身、アイナ・スタンレイと申します」
「アイナ、是非勇者を支える存在となり魔王討伐の任を果たしてくれ」
「確かにお言葉頂戴致しました。必ずや勇者シモンと共に魔王を倒してみせます」

王様とアイナが二人共良い笑顔で頷きあっているが、当人の意思確認は一体どこへ。
げんなりとした俺の顔に追い打ちをかけるように、王様は表情を戻し言い放った。

「シモン・マクシミリオン。勇者の試練を達成し再び此処に戻って来ることを期待しておるぞ。さあ行けシモンよ、試練の間はこの城の地下にある扉から進むのだ!」
「…………ハイ」

こうして俺はまだ返事をしていないにもかかわらず、強制的に勇者の試練を受ける羽目になってしまったのだった。


ー続ー

性格が現在と大差ないような気がしますが、勇者になってからの彼が本領発揮します(という言い訳)いつ完結するか分かりませんが続きます。


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