書庫-Archive- [返信する] [001] 花形皆伝 【竜胆、一輪】 By 玉麟 ここは、どこだ? ――俺は、何をしてんだっけ。 坊主が読経してるのか、うるせぇな、葬式でも…あぁ、そうか。 さっきから黒い服着た奴らが頭下げてくの、何だと思ったら。 …思い出しちまったな。また、俺には守り切れなかったんだ。 坊主よぉ、偉そうに、魂を極楽に送るなんてよ、そんなにエライなら。 教えてくれよ。 あんなに、あんなに、コイツが居なかったら、生きていけないって思った俺は。 なんで生きてるんだよ。教えてくれよ。 俺の、心の臓にも等しいそいつを。 そんな箱に入れて、何処へ持っていこうってんだ。 「貴方様は」 坊主? 「生きておられるのです。 そして、貴方の奥様は、亡くなられてしまった。 悲しい事ですが―― 魂あるものの時は止まってはくれませぬ。 けして追いつけなくとも、時を追うように、歩いていかねばなりませぬ。 現世(うつしよ)を踏みしめる、その足で。 拙僧に出来ることなど、魂に涅槃への旅路を誤ることなく進めますよう、道を示すだけです。 同じように、貴方も生きている限り、流れる時と共に、旅路を誤ることのなきよう、願うだけです。 その中間には、生者も亡者も、とどまってはならないのです。 貴方は、どちらですか?」 ――― 青空へたなびく香の白煙が、細く道を示している。この向こうで、アイツは笑っているのか? そんなこたぁ、俺にはわかんねぇよ。でもよ、あの世でも俺の心配しなくていいよう、俺はちゃんと立ってるぜ。 「終わったぜ大将―なんだよ、あんたも手ぇ合わせてくれんのか。…いや違う違う、それは神式だ。柏手打っちゃダメだっての。」 お竜、見てっか?ご覧の通り、今俺が身を寄せてるとこの大将は俺より大分小僧で、ボケボケだけど、イイ奴なんだよ。 ゼロなんて、何も無いみたいな名乗り上げてるが、多分そりゃ、器がデカすぎて底が見えねぇんだ。 年甲斐もなく、コイツともう一華だ。お前の名前が花の名前だからってわけじゃねぇが、ツラに似合わないなんて言ってくれるな。俺は花が好きなんだ。 「カイデン、これって仏前に備えるお花と違うんじゃないかな?」 「いいんだよ、コイツの名前にちなんでるんだ。」 売られた身分の運命に逆らうように咲いた、一輪の廓の華、竜胆太夫、か、見事な傾奇っぷりだったぜ、お竜(りん)。 そっちから見ててくれよ、何かと世知辛え道の先、こっちとらも大輪になってみせらぁ。 * * * 以上、皆伝の元嫁、にして元花魁の竜胆太夫ことお竜のお葬式から、時は移って現在の、お墓参りにアインツ様を同行させていただきましたっ 「えー、皆伝って花魁身請けするほど甲斐性あるんけ?」とかまぁその辺は、皆伝の見えない右目にかかってるんですが、それに関しては後ほど気が向いたらSSにしてみようかなぁなどと。 アインツ様が神社式の拝礼をしてしまったというボケについては…私事であれですが、背後の田舎のほうでよく勘違いしてて、仏様の前で柏手打っちゃう年配の方々が結構いまして。そこからヒントを得ました。 ってアインツ様は決して老人ではございませんのよー、ヘンな使い方して申し訳ございません; 隠れキャラの坊さんがちょっと出張り過ぎたきらいはありますが…ちょっとだけ、まさかのライヴ中断辻説法、やってみたかったんですよね… それでは、ここまでお読みいただき、誠にありがとうございましたっ! [編集] [1-10表示] [返信する] [新規トピ] [戻る] |