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[001] ゲンスール 【鬼神の如き、下剋伏魔の轍】
By 玉麟
えー、ss二本目です。
ゲンの話ですが、スペシャルゲストというか、ss内でメインで動いているのは、先日フリー宣言をなされたよそ様のお宅のお子さんだったりします。

※微グロ注意です


―――――



その店は、扉からして異様な壊れ方をしていた。
西部劇に出てくるようなありきたりなバー。扉は蝶番がバネ仕掛けで、体で押せばうちにも外にも開くが、誰かが通った後で中央の位置に戻るというもの。
その扉が、片方ない。よく見れば蝶番が固定してあった柱までもが内向きにくの字に折れ曲がり、要するにこれは「内に向かって強烈な力で引きちぎられた」ということになる。

「のっけから凄まじいな…どうした?」

二人ほど連れて来た従者のうち一人が中で小さくうめき、もう一人は外まで後ずさって柱に凭れ、嘔吐をしている。
一体どれほどの惨状が広がっているのか。俺は入り口に寄りかかる男に少し休んでいろ、と声を掛け、避けるようにして店内へ踏み込む。そこには――



「…フン、汚い喧嘩だな。」
思ったことをそのまま口に出してしまったのは、図らずもやはり、その場のインパクトに俺自身も驚きがあったからであろう。
少し不機嫌になる。そんな反応をしてしまったのは、何十年ぶりか。

「やはり、野良の魔獣でも暴れたのでしょうか。」
「いや…昨今、この辺りで目撃情報は入っていない。それに…」

床に倒れたている、まだ息のある男の傍らに片膝を突き、その負傷部分をのぞき込む。
口の端が無残にも耳まで裂けてしまい、奥歯までもがむき出しになったその歯茎にはわずかな歯しか残されていない

「コイツは…殴った痕だ。獣がそんな回りくどい戦い方はしないだろう。」
「では、人型の魔獣…」
「それも違う。…否、確かにこれは人の域は超えているだろうな。だが、誰も食われてはいまい。」

壁に飛散し、床に幾つもの血だまりをつくる死屍累々の怪我の具合を見れば、全てが「喧嘩の事後」だと判断が付く。
しかし、やはり妙なのは、その破壊の規模だ。
殴られてひねった首がそのまま折れてしまった者、右手の中指と薬指の間が肘まで裂けている者、喉笛を脊椎側まで貫かれている者、胸が拳の形に陥没してしまっている者…
そして、一番奇妙な死に方をしている者は、最奥の壁に空いた大穴にのけぞるようにして首から先が向こう側へ突っ込んでしまっており、その首には先ほどの扉が突き刺さるように、否、どちらかといえば首の骨ごと圧し潰されるようにめり込んでいた。


「複数の者の仕業でしょうか…?」
「そこは…聞いてみる方が早いな…おい。」

足元に倒れ、先ほどから小さく呻くうつ伏せの男を足であおむけに転がせば、その異容に流石に息を呑んだ。
両耳と、鼻を引きちぎられている。倒れ方があおむけでなかったことで血が気道で固まらずに床に全て流れたことが幸いしたか、男は何かを訴えようとしていた

「…貴様はもう長くない…仇を取らんでもないぞ、だから一つだけ教えろ。ここで暴れたのは…”一人”か?」

虚ろに自身を見つめる目に少しだけ輝きが宿り、血を失い体温の低下に震える首が、わずかに縦に振られるのを見て、俺は心の底から湧き上がる悦に笑みを抑えられず。
「感謝する…眠れ」
その男の頭へ足を振り下ろした。


「コール様…仇を取る、とは?」

この従者…俺らしくない、とでも思ったのか、見くびるなよ。誰がこんな破落戸(ごろつき)共の仇など。俺の想いは別にある。

「城へ連絡。捜索隊を編成しろ。俺の元へ、この暴れん坊を連れてこい。直々に灸を据えてやろう」

努めて冷静にものを言ったつもりが、俺の貌にはそうではない色が浮かんでいたか。この野郎、退きやがった。
自覚はある。いい玩具が手に入る、そんな子供じみた感覚が、俺の口の端を押し上げ、鋭い犬歯を覗かせている、そのことに。


―――――

と思ったらコール様がこんなんしてる間に城で女の子に泣かされているゲンでした。
これはまだ魔王城に単身乗り込む前、独裁的に暴力で支配していた部下の陰口を聞いてしまったゲンが暴れた現場に、偶然居合わせたコール様が踏み入った形になります。

えー、まさかの自分のキャラ出さずによそ様メインでのSSでしたが…夢幻様、コール様をお貸しいただきありがとうございました。
そして、きちんと描写できていますでしょうか?少し心配になりましたが…

では、最後までお読み頂き、ありがとうございましたっ!

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