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[001] ライリー【追憶・新生】
By 夢幻
【追憶・新生】

悲鳴や断末魔が聞こえる、窓や扉や屋敷のいろいろなところが壊されているのが聞こえる。
「私」は…そう、「オレ」ではなく「私」は手を引かれて必死に走っている。

ここは見飽きるほどに繰り返した夢の中で、いつからか夢だと俯瞰する自分もいるような、そんな夢。
何故一人称が「私」かって、それは当時に引っ張られていてそっちがしっくりくるからだろう。訳あって「オレ」を名乗るようになって長いけれど、だからといって完全に男性人格とかになったわけじゃないんだし。

ともかくしばらく逃げた後で私は兄さんと合流し、そこから屋敷からどこかへ逃げる算段を立てる。よく見れば兄さんはもうとっくにボロボロで立っているのもつらいぐらいだろうが、自分が守るから安心しろと力強く告げている。
背後で屋敷は燃えているし、そこかしこに親戚や使用人が血を流して倒れている。これまで過ごしてきた世界は崩れ去り、死に追われる立場になったんだと実感してしまう。
突然降ってきた絶望に足がすくむが…それでも逃げないと。兄さんはまだここにいるのだし、生きてさえいれば生き残りの誰かとまた会えるかもしれない。

幼い私の儚い希望は…でもそうはならなかった。すぐに追手に囲まれ逃げ場はないし、デウス持ちを始末するためなんだから当然だけれど敵にはデウス持ちらしき相手もいた。
私を物陰に隠して兄さんはそいつらと戦い、まるで地獄のような戦いと死の音が収まって私がそちらを覗くと兄さんは大量の血を流してそれでも立っていた。…立ってはいたけれどデウスも強制解除されているしなんか内臓とかはみ出ているし、誰がどう見たってこの人はもう死ぬんだと思うしかない状態。
悔しいと思った、悲しいと思った…でももうしょうがないかなとも思った。だって兄さんを見捨ててこのまま逃げたとして、ちょっと訓練を始めた程度の未熟な私に生き延びる目なんてないことは明白だ。どうせどこかで捕まって殺されるか憲兵に突き出されるか、もしくは奴隷みたいにして飼われるか…うまく助かるだなんて何かの間違いみたいな奇跡でも起きないと無理だろう。それなら一思いに死ねた方が楽だろうし、それに兄さんを看取れたっていう意義ぐらいは残ると思う。
…でも兄さんは本当に強くて優しくて、そんな私の諦めを丁寧にゆっくりと解してくれた。冗談みたいな奇跡にしか希望が持てなくても、それがたとえ百や万に一つの望みでも生きて掴めと表情や言葉や全てが言っていた。
敵わないなと思った、デウスだけじゃなく命も託されたんだと実感した。身寄りもなくたった一人で逃げるような運も実力もあるはずがなかったけど、とりあえず力尽きるまでは逃げまくるしかないと思った。

…そこからどう逃げたのかは正直あまり良く覚えていない。とりあえず人気のないところへ、ある道をがむしゃらに走るだけで後先なんて考えてはいなかったはずだ。…というかこんなでも一応お嬢ってやつだし、人を避けて必然的に通る羽目になる路地裏になんか詳しいわけがないでしょう?
まあとにかく気付いたらゼロの家で、ゼロの服を着て寝かされているところだった。どうせ倒れて起きたら詰んでいるだろうという予想に反し、絶望に染まりきっていた子供にもわかるぐらいゼロは真心の心配と助けられてよかった空気を出していた。
助かったと喜ぶべきだったのかもしれない、まずは礼ぐらい言わなきゃいけなかったと思う。でも当時の私が考えたのは家族はどうなったとか、兄さんも含めて万が一にも誰かが生きていないかとか…そういう奇跡を望むことだった。

そんな考えというか衝動、理屈なんて関係のない想いに突き動かされて屋敷へと戻ったわけだ。今にしてみればそれさえなければゼロも元の家を追われなかったかもしれないし、本当に軽率だったと思うけど…その時は他に選択肢なんてなかった。
どこをどう逃げたとかどこで兄さんと別れたとか正直記憶は怪しかったけれど、兄さんの遺体はすぐに見つかった。何故って庭のところに異常に目立つハリネズミの様なものが立っていて、近づいてよく見るとそれが何本もの剣や槍に串刺しで立ち往生した兄さんだったから。
ああ、この人は私を逃がした後でも少しでも追手を引き付けるために死体同然の状態で戦い続けていたんだ。奇跡が実現する可能性を少しでも近づけるために、そうすれば私はきっと生き延びると信じて。

後から誇らしいと思ったけど、その時はズルいと思った。だってこんなことをされたら泣くしかないし、復讐のために自分の人生を捨てることだってできない。もちろん国への復讐心がないわけじゃないけど、それ以上に同じ想いを他の人にさせるなっていうメッセージが胸を打った。とにかく今のままじゃいけない、強く…誰よりも強くならないと。兄さんよりももっと強く、理不尽と戦っても周囲も自分も守り切って勝つぐらいの強さで。
ゼロが兄さんの遺体を回収して埋葬してくれてからしばらく、たぶん私は一言も話していなかったと思う。ただ自分は何をすればいいのか、どうすれば兄さんの想いにこたえられるだろうかを考えていた。もちろん兄さんだけじゃない、これだけ親身になってくれたゼロにもこたえなきゃいけない。とにかく今はゼロについていくんだし、今度はゼロが助けたやつを私が守れるようになりたい。
だから強くなろう、戦闘力だけじゃなくてゼロが次に助けたやつからも頼りにされるように。ゼロは随分優し気だし、少しぐらい強そうにふるまうのもバランスが取れていいかもしれないな。…よし、変わるなら一気の方が良いよね。さあゼロが話しかけてくれている、ここから新しい一歩を始めよう。

「おう!ちゃんと聞いてるぜ?ありがとな兄貴、オレはもう大丈夫だからさ?」


無駄に長いSSにお付き合いいただきありがとうございました、ライリーが今のノリになるまでの第一歩となります。当初はもうちょっと復讐側面強い予定だったのですが、書いているうちに兄の影響が強すぎてわりと最初から囚われすぎてない感じになってしまいました。
フリーということでアインツ様をお借りしました、素敵な既知を改めてありがとうございました!
ええと…とりあえずこんな感じで投稿してみましたが大丈夫でしたでしょうか、よろしくお願いします!

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