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たんぶん。
By tカラ
2008-09-10 01:03:30
気が向いたときに短めの物を描くための場所。
pc
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By tカラ
2008-09-10 01:04:13
「らんしゃまー!!ほら、ほら、できました!!」

ここはマヨヒガと呼ばれるところ。
その中に住む二人の式が、あるノートを前にして互いにニコニコと笑っていた。
片方はその小さな頭を撫でられて、もう一方はその小さな頭を撫でながら。
尻尾に感情が出るのか、猫の2本の尻尾も、九尾のふさふさした尻尾もふよふよとゆるやかに動いている。
「偉いぞ、橙。よく解けたな」
「はい!!」
ノートにはいくらかの数式や文章が書かれており、その上に赤い丸がいくつもついていた。
10問すべてが正解。オール丸の、いわば100点である。
「それじゃあちょっと休憩にしようか、疲れただろう?」
「いいえ、まだまだ橙はだいじょうぶです!!」
解ける喜びを覚えたであろう自分の愛らしい式を見て、藍はさらに笑顔へと表情を変貌させるのであった。



彼女、九尾である藍は数学が得意である。
暇潰しに三途の川の長さを求める方程式を開発したことさえあるほど。
そして、彼女の主人、八雲紫はこう言うのもなんだが、どちらかといえば人に礼儀を払わないタイプである。
よって、必然的にその式神である藍がその無礼を取り繕うことも多く、いつの間にか彼女は知識人となっていた。
「人里には寺小屋がある。だが……」
そのことを白玉楼の御庭番から褒められた(というより、本人は苦労人として共感していたらしいが)ことで、彼女は考えた。
「……橙のような式神は、そうやって皆の中に溶け込んで何かを学ぶということが難しい」
今や人里には、射命丸文や鈴仙・優曇華院・イナバ のような妖怪たちがちょくちょく現れる時代。
決して妖怪への偏見が昔ほど強くないとはいえ、寺小屋に入ることはなかなか出来ない。
上白沢慧音なら教えてくれるだろうが、残念ながら里の守護者でもある彼女は忙しいだろう。
「……なら、私が教えてみようか」
つまるところ、愛すべき自分の式神の橙に、彼女は勉学を教えてやろうと考えていたのだ。
外界では6歳の子供は勉強を教わり始めるというし、知らないよりは知る方がいいだろう、と。




最初の結果から言えば、それは見事に大失敗であった。

「橙、魚が一匹皿に乗っているとしよう。もう一匹皿に乗ったら、何匹だ?」
「2ひきです、らんしゃま!!あ、こんやのばんごはんはお魚ですか?」
とまあ、そうやって聞けば多少の問題は解けるのだが。
「じゃあ、1+1は?」
「えーと、あーと……ううー……さ、3ですか?」
これだ。藍は橙の頭を撫でながら、心の中でため息をついた。
とどのつまり、数式がわからない。具体的な内容さえわかれば答えは出るのに。
「よし、今日はこれで終わりにしよう。遊んでおいで」
「あ、はい!!」
橙はそう言うと、ほっと溜息をついて外へ遊びに出かけた。
慣れない勉強を教わって、集中力も使い果たしたのだろう。疲れた時はリフレッシュしたほうがいい。
「……うーん…こればかりはどう教えていいものか」
「せっかちね」
ひゃっ、と叫んで後ろを見れば、そこにいたのは主人の八雲紫。
一日の半分以上は眠っている、偉大なるスキマ妖怪である。この時もスキマから身体を半分出しながら、クスリと笑っていた。
「ゆ、紫様。驚かさないでください。今のは察知できませんでしたよ」
「ふふ、橙に勉強を教えはじめたなんて。一人でやるなんてズルいんじゃないの?私も混ぜなさい」
マズい、このまま喋らせたらマズい。藍の本能がそう告げていた。
「あ、あの!!それよりもお昼御飯がございますが、どうしましょう!!」
「……今日はやけにせっかちねぇ。ま、いただこうかしらね」
あくびを1つし、彼女はスキマからにゅっと出てきた。
主人の前に台を並べ、お昼に用意した冷麺を並べる藍。
「どうぞ、召し上がってください」
「あら、美味しそうじゃない」
ズルズルっと麺をすすりながら、彼女は話を続けた。
「……にしても最初から数式なんてものを教えて。あれじゃ橙は理解しにくいんじゃないの?」
「う」
返す言葉もない。現に理解できていなかったのだから。
「そもそも、勉学が出来るだけが大事じゃないわよ?橙はいい子だし、ある一通りくらいの知識も持ってるし」
「……確かにそうですが…」
それは理解していたし、最初からそう思っていた。
「最初から飛ばさず、あせらずに行きなさい、藍。……そんな顔しなくても、大丈夫よ」
不安そうな顔をして下を向いた式に対し、主人は普段とは違う、普通の笑みを見せて言った。
「今日やったことは無駄じゃないのだから」


そう、確かに無駄ではなかった。


pc
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By tカラ
2008-09-10 01:55:55

この日の晩御飯は、昼間橙が聞いてた通りの魚。
岩魚と呼ばれる類のものを、河童のにとりに頼んで紫が外から持ってきたガラクタ(あいぽっどと呼ぶらしい)と交換してもらったのだ。
晩御飯の出来上がる直前、藍は台所に橙を呼んだ。
「橙、昼間の勉強を覚えているかな?」
「うう……あんまりわかりませんでした…もんだいが1+1ってことだけはおぼえてるんですけど」
しょんぼりと下を向く橙を見て、藍は彼女の頭を撫でながら話を続けた。
「橙は大事なポイントはつかんでるから大丈夫。……少しだけ1+1について説明してみようかと思う」
藍は皿を1枚取り出した。そして、魚を2匹持ってくる。
「まずは皿に魚を乗っけてっと……」
2匹の魚がおいしそうに見えるのだろう、橙はニコニコしながらその皿を見ていた。
「橙。先に答えを言えば、1+1は2が答えなんだ。その答えがこの皿に乗った魚だとしよう」
「えーと……おさらの上の魚は2ひきですよね」
うん、と頷き、藍は続ける。
「この皿の上に乗るもの、魚でも野菜でもなんでもいい。これが式の『答え』なんだ」
そう言って、皿から魚を2匹とも取り出して橙に見せる藍。
「今、皿の上に魚は1匹。じゃあ1匹乗っけたら答えは何匹?」
「2ひきです、らんしゃま!!」
「正解だ、橙!!……今橙が考えたのが、1+1なんだよ」
えっ、と驚き、しばらく腕を組み、難しい顔で考え始める橙。それを見て藍はニコリと笑った。
基本はわかっているんだ、あせる必要はないのだ、と。


その直後、ご飯を待ちながらあくびをして座る紫と、ご飯を持ち込む藍を見て、
「今へやにいるのは紫さま!!今から入るのがらんしゃま!!へやの中には二人だから、1+1!!」
と橙が発言したことで、マヨヒガは藍の号泣と、紫の「私も教師をやりたい」発言で埋まることとなった。



この日から毎日、藍と橙はおやつの時間から30分だけ、勉強をするようになった。
とは言えど、本当の数式に触れるのは最後の数分程度。他の時間はほとんど、別のことをしていた。
具体的な例をあげた簡単な式、自分の昔話、主人の昔話……。
「たまには私もやってみようかしらね」
などと主人が気まぐれで交代する日もあった。
もっとも、そんな日は難しい話やわかりにくい話が多くて、橙は首をかしげていたが。


「橙が数式を?」
白玉楼の宴会へ紫が藍と橙を連れて行くと、当主の西行寺幽々子と、庭番の魂魄妖夢が驚いて出迎えてくれた。
「ええ、そうよ。そろそろ藍も跡継ぎとして本格的に教えるつもりなんじゃない?」
「ちょっと早いような気もするけど……で、どうなのかしら?」
既に8杯目のご飯を非常に速いスピードでむしゃむしゃと食べながら、幽々子が紫と藍に尋ねる。
その様子を見ながら、溜息をつきつつもおかわりの準備をする妖夢。もはや、主人の食欲については半分諦めているのだろう。
「始めたばっかりだけどね、ずいぶん上達はしたんじゃないの?ねぇ、藍、橙?」
「ええ、紫様。橙はずいぶんと上達しましたよ?」
「はい!!」
あらあら、可愛いわね、妖夢も小さな頃はそうやって勉強を教わったものね、などと考えながら、幽々子はずいっと器を出した。
「妖夢、おかわり!!」
「あー、はい。待っててくださいね、幽々子様」
9杯目を器につぐ様子を見て、橙が突然声を上げた。
「らんしゃま!!今幽々子様が食べたのは8杯、次が9杯目だから、これは8+1=Hですね!!」
「おお!!橙、良くできました!!えらいぞー」
モフモフしながら橙を撫でる藍。それを見ながら、妖夢は幽々子に飯を差出し、ボソっと呟いた。
「幽々子様のお腹もHです……」
「あら妖夢、そんな悲しいこと言わなくたっていいでしょ?あなたは私の自慢すべき、幻想郷1の従者なんだから」
思わず出た言葉に赤面する妖夢だが、客はそうもいかなかった。
「聞き捨てならないわね、うちのほうが一番よ?」
「紫には悪いけど、妖夢のほうが上じゃないかしら」
そこからは愛すべき親ばかの戦い。藍が上だ、妖夢はどうだった、あーだこうだ。
そんな戦いが数時間続くことにため息をつきながら、藍は橙を見てにっこりほほ笑むのだった。



私は橙を跡継ぎにするために勉強を教えたのではなく。
ただ、橙に努力することの喜びを知ってほしかったのだ、と。


そうして、夜も更けていくのであった。



                        [おそまつ]
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