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僕のアリス
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それでも今君のためにできること、は(磁石)
By おきみ



ごめんね、ごめんね。目の前の男がその長い足を持て余したように折り曲げて、膝をついた状態で項垂れながら、俺に言う。何を謝るのか。俺には、その感情が理解できなかった。あまつさえ、こいつは俺を抱きしめて泣いている。俺は座り込んだ状態のまま身動きができない。何を泣いているのか。涙、なんて。何にも役に立たない液体なのに。それを余すことなく、惜しむことなく彼は流し続けている。……彼の背中に回しかけた手を、止める。空を切った手は、だらりと垂れた。こんなにも純粋な彼に、俺は、触れてはいけない。ごめんね、ごめんね、と謝る彼はそれに気付くことなく泣き続けた。わからないよ。わからないよ、俺には。俺は彼の肩に顔を埋める。真っ暗闇に彼の潤んだ声が響く。


「ごめんね、たけるくん、愛してるよ」


(わからないよ、俺には)
(愛してるなんて、そんな感情、。)



それでも俺は、今度こそ、彼の背中に手を添えた。





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