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涙滴 (残酷・死)
By 足羽
2011-12-19 16:56:15

「もう、終わらせて」

そう言って、笑った。

「いいのか」

「構わない」

鞘を払う。

「なら……止めないからな」

冷たく冴える刀身が、一点のブレ無く据えられた。

「お願い。もっと、きつく」

抱き締めて――、と願われ、それに応える。

心臓は避ける。
変わりに貫通したのは、肺。

「が、ふッ」

そのため、すぐには死ぬことは叶わない。
最期まで、苦しみながら終わりを待たなければならないのだ。
それが、約束。

グ ブツッ

千切れた音。骨に当たった感触。

そんなモノを伴わせながら掻き回すように刃を動かせば、腕一本を回された体は、強張り、ひどい痙攣を繰り返した。

「あ゛…う…」

引き抜けば、夥しい量の血液がこぼれ落ちる有り様。

「なんだ」

「待っ、て…っう゛…………ぐ…」

ズブッ

懇願もかき消え、見開かれる眼。また、肺腑に風穴が空けられた。

「止めないと、言ったはずだろう」

同じように傷を拡げられ、見開かれた瞳孔がただ、見上げる。

「か……は…ッ」

口腔は、不完全な呼吸に混ざる血液に濡れている。その血液が唾液と混ざり合い、血泡となり、唇を伝い落ちてゆく。

ひゅ…う
ひゅっ

喉笛は不明瞭で、頼りのない音を奏でている。


背中には、心臓を避けて肺腑を突き破り、散々なぶられた傷が二つ。いずれも、血が止めようもなく流れている。

「まだだ」

片腕で抱いたまま、姿勢を低くし床に寝かせれば、支える力の持たない身体は、ずるりと倒れ込んだ。

ばしゃり

と、血溜まりが飛沫を飛ばす。さながら血の海に浮いたような哀れな眺めを。


焼き付けることしか、できない。


時が経つごとに、血の海はその大きさを増してゆく。広がり続ける血液に、命は奪い尽くされようとして――。


瞼が落ちた。
鼓動も止み。



もう、どこにもいない。
辛い、残酷な約束を取りつけた愛しい人は、もう彼岸の住人。



最期の時を。
ただ、立ち尽くして。


「馨霞(けいか)……」


涙滴の音が響き始めていていた。






END

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