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[SS]ろとろなPC短編
By ろとろな
2020-03-06 23:19:42
〜簡単な自己紹介〜
・-Anxe- 能天気吟遊詩人
・-valdeR- 意味深ペストマスク
・-Stria- 犬。すぐ漏らす
・-Welcdrin- 頑張りポジティブ山羊
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By ろとろな
2020-03-06 23:25:08
-無手の旅-
──Anxe


赤い光があった。そういう記憶があった事は知っている。それ以上は持ち得なかった。

この世界での最初の明確な記憶は、水だった。盛大に溺れ、引き上げられた。漁業船アンゼルディス。名前も思い出せない事を知り、その船から名前を取った。我ながら安直だと思う。

漁師の親父は十分な世話焼きだった。多くを教えてくれた。他国への偏見も多くあったが、見に行った方が早いと考えた。貰った弦楽器は、適当な酒場で路銀を得るのに役立った。ポーズとして吟遊詩人という姿を取るようにしていたが、案外とこれが馴染み、起きた事、聞いた事を詩に乗せるのは面白いもので、猶更馴染んだものだった。

翠の国では村の老夫婦によくしてもらった。魔術を学び、剣を得た。それはこれから向かう黒の国にて役に立つだろうと。黒の国とは、魔物が蔓延る場所なのだろうか、とまで阿呆を演じる事もなかったが、相応にネジの外れている国なのだろうと思った。嗚呼、これに関しては受け売りな偏見だ。

これから黒の国に向かう為に砂漠を渡る。

あの国には有用なギルドがあるらしい。

多くの予感があった。話を聞くほどに、虚白の地というものに惹かれているのだと。そこに、何かがあるのだと。

何があるのかは、分からない。案外何もなくて、勝手な思い込みかもしれないが。それはそれでいい。

何も持たない旅だ。

きっと、他の誰よりも気楽な自信がある。

けれど、すこし空虚な気もする。

この理由くらいは、旅の果てで見つかればいいと願う。



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By ろとろな
2020-03-06 23:25:43
-割れたグラス-
──Stria
【※注意:失禁/嘔吐表現】


まだ中級騎士になる前の話だ。調査隊として編成された騎士団の中に居た私は、辛うじて全滅を免れ生き残った事があった。白夢との交戦においての出来事だ。

あれ程までに無力を味わった事はなかった。真横で首が跳ねられて死ぬ同僚はつい昨日まで楽しげに話していた者で、片足を貫かれ動けなくなり助けを求めながらも解体され周囲に散らされた男は嫌味な奴だったが実力は認められた者だった。呆気なく。散っていく。

自身はといえば。自身の近くに座標狂いが起きた氷結術式の残滓を散らし、歯が立たぬ様子に魔力の錬成が成り立たない程にその光景にへし折れて、震えるままに腰が抜けてへたり込んで、最後に塞き止め残っていた意気地すら、股座から湯気を伴って緩慢にも決壊していた。

後続の追加調査隊が来たのはそれから一分もしなかった。

何故もう少し早く来なかったのか。何故もっと耐えられなかったのか、戦えなかったのか。何度も巡回する思考を、無理矢理押さえ付けてその場から尻餅ついたままに身を引きずって退いて。白に映える色合いから遠ざかる。そうして、無事な防衛線まで引いた所で、目眩と、盛大に胃がひっくり返って全て戻した。

記憶の多くは曖昧だ。だが、その戦闘が終わる頃合いには二つの足で立って、報告を行い戦場の後処理に参加していた。騎士としての自身を無理矢理取り繕って。どうにか悟られぬ様に隠し通して。

まだ、成り立っている。成り立たせている。

自身は騎士であると。

もう二度とこのような失態は冒さない。もっと強くならなくてはならない。

だが。

だが、その日を境にして過度の緊張を前にすると急激な腹痛が起きる様になった。

原因不明の体調不良、精神的な問題、改善の余地の無い、そして誰に相談出来るでもない事柄だった。

元々の性格も相まって、その症状は様々な場面で引き起こされた。報告においても、会議においても、訓練においても、前に出て指導を行う場面においても、悪人や強者と対峙する時においてもだ。

結果、肝心な時に重要な局面を逃す事が多くなった。
何かと理由を付けて気付かれぬよう、その場を離れて急激に下ったものを処理しなければならなかった。

挙句に。個室に入るのが寸前で間に合わず失敗してしまった事が、何度かあった。その日はそれで、もうおしまいだ。人の気配の無くなる深夜になるまで息を潜めて、声を殺して泣くことしか出来なかった。

騎士は向いていない。

いや、あの時に既に何かが壊れたのだ。

否が応でも知れる。

執着する程の切っ掛けもなかった。強い思い入れのある夢でもないものだった。惰性を引き摺っているだけだ。

早く辞めるべきだ。

だが、あの日死んだ奴らの無念は。

そしてこれから育てていく騎士達の成長は。戦える自身の技能、技量を上回るまではやり遂げなくてはならない。

下らない執着で、意地だ。誰にも言えない、誰にも伝えられない。

誰にも気付かれていない。

絶対に隠し通す。隠し通しきり、上手く凌いでやり遂げる。

際限が無い話だ。それでも選んだ道だ。

逃げないし、逃げたくはない。

私は私の騎士の道をやり遂げるんだ。



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By ろとろな
2020-03-06 23:26:31
-失い得たもの-
──Welcdrin
【※注意:残虐/失禁表現】


左足が切り離されたのは12歳の頃の事だ。

悪しき魔、古い伝承に載るそれは山羊の角を持ち、黒塗りで、横長の瞳孔に金の眼と胸があったそうだ。詳しくは分からないが、それに似ているからそうなった、という事だけは分かる。

そういうものがいて、似ているから、手を、足を、胸を、頭を切り離されるのだと。

そのようなニュアンスであった様な気がする。朧げだ。それだけでも、よく覚えていたものだと思う。語られたのは、切り離されている最中だったのだから。

寒い日だった。

丈の長いボロ着のみを纏い、手足を無機質な台に拘束された日を覚えている。

あの時の痛みは表現のしようがない。鋸の歯が押し当てられて、懇願も次には途絶えた。ひと引きで細かなギザギザの硬い刃が、体毛の下の皮膚を引き裂いていく痛み。傷を鋭利で細かな刃が撫で上げる。悲鳴が零れた。そこから、角度を変えて引き戻り、傷となった一筋を伝い、ふた引き。そこからは意味も成さない音の埋もれる様な咆哮だった。

繋がれた手足の鎖が張り詰め、手首と足首に枷が食い込み手足の限界の力が常にがちがちに張っていて。その間にも容赦無く往復する刃は強く押し当てるような力が加えられ、弾ける痛みに視界が明滅する錯覚、明確な赤の匂い、強く張った筋繊維が細かく弾ける様に切り離れていく感覚、往復する鋸に血が満たされてずぷじゅぷと音が加わり飛沫が跳ねる。骨に達し、まだ成長途中のそれが削られていく感覚、神経が直接ずたずたに切り裂かれながら鋸が往復し進む形容しようのない激痛に咆える声が止まった。喉が引き攣りきったあと、痙攣し削られながらも股の間から盛大に黄色い液体が吹き出した。ボロ着に引っ掛け斑の染みを作りながらも勢いよく溢れ、台に暖かい水溜まりを広げていく感覚。湯気立つ臭いが血臭に混ざる。ついに削られる硬質な感触が途絶え、ふくらはぎの少し上に残る、数センチ程度の厚さもぶちぶちと切り離された。

自身の喉から出ている事すら疑わしい過呼吸の音、黒い、赤い、断面から赤を滴らす、白、骨に筋肉に脂肪の色合い、ぼやけて歪んだ視界と何も考えられない頭で見えたのはそれが最後だった。

暗転。

次に起きた時は、馬車の荷台の上で振動を受けてのものだった。来ているボロ着はそのままで、黒く変色した染みが幾つも。腰から下の生地もまだ湿ったままで。視線を左足へと向ける。痛みは無かった。布のきつく巻かれたそれは、膝から少し下からが無くなっていた。

馬車の御者台から声が掛かる。お前の足は銀の国に売られた、と。

声がつっかえる。掠れて裏返った声で。どこに、とだけ出た。返る言葉は、翠の国に、とだけだった。

多くを聞く事は無かった。馬車で自身を連れていった熊の獣人は鍛冶屋で、義足を作り、十分な治療と鎮痛剤とで歩ける様にまで立て直してくれた。

そうして今がある。

お互いに多くは聞く事も無かった。

転機と事件としては、ただそれだけの事。それ以外は、平凡な日々だ。



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By ろとろな
2020-03-06 23:28:31
-再会-
──Anxe x valdeR


雷光が弾けた。

雨粒に乗る紫電が飛沫となり引き下げ踏み留まった右足から散り抜ける。右手に握り込んだ長剣の柄を握り直す。吟遊詩人帽の鍔の端から、襲撃者を見上げる。

「大層なご挨拶だ。金目のものがあるように見えたかい?」

吐き出す白い息。黒の国の路地裏に降る冷たい雨の向こう、建物の縁に片足を掛け見下ろすのは黒い輪郭。長剣。嘴の様な黒いマスクに、継ぎ接ぎとなった骸骨の面。水滴の伝うレンズの眼。右目の側には南京錠のペイント。

「違うのか?」

その黒の輪郭からの声だった。何が、と問う様な間髪は存在し得ない。右腕を無理矢理に引き戻す動きで投擲されたダガーを弾く。強烈な金属音が剣の鍔に響き、瞬間としても付与された雷撃が伝い指の焼ける痛み、痺れが引き起こされる。此方の魔力制御により雷の魔術を相殺しているが単純な練度の違いを感じる。受けてはならない。

尾を翻し重心を変え、肩に直撃する寸前で回避する。見抜かれている動きだ。胴体狙い、咄嗟に剣の腹で受けて弾く、指の間隔が薄れてくる。足元、三点。見えた。

「ッッッ!」

咄嗟に跳ね上がった。着いていた重心の要となる左足を撓め片足で弾き上げる身。瞬間、その自身を取り囲む様な三点を描き地に突き立ったダガーを起点とした雷撃の罠が起動。足裏の寸前で水滴を弾けさせ震わし大気を焦がす。

右腕を掲げた。衝撃、長剣が弾かれた甲高い音。建物から音も無く自身へ一直線に降りたその黒の輪郭が、剣を振るい、自身の剣を弾き首元を押さえ付け地面に叩き付けた。肺から呼気が弾ける感覚、打ち付けた背の痛みと、出し抜かれた失態とを朧げに認識。地面に突き立ったダガーの三点の中央で引き倒され、首元に剣の切っ先を向けられている。首元を押さえ付けられ、片足は自身の鳩尾に踏み添えられ、覗き込むような姿勢。

「随分と弱くなった。此処では違うのか」

「……なんだっていうんだ」

悪態への返答は、強烈な雷撃だった。

気付けば黒の国の路地裏に転がっていた。全身の筋肉の引き攣る痛みはあったが、命はあったようだ。楽器も無事。結局、何がどうなったのか、何だったのかを知る由はなかった。



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By ろとろな
2020-03-06 23:29:20
-職務外-
──valdeR x Stria
【※注意:失禁表現】


「──止まれッッ!それ以上の行動をすれば即座に攻撃を行う!」

声が響いた。レンズ越しの視界に映るのは騎士の姿だった。鋭利さを思わす黒のヘルム、黒の鎧、靡く一本に纏めた緑の髪。

仰向けの男から片足を退けた。

黒の国にも騎士団が居たのだった、と思い起こす間があった。傾けた頸を戻し、歩んでいく姿。距離を縮めていく。音も無い。

「情報を照会」

呟く。ほぼ同時、相手が短い詠唱にて氷の破を展開。この季節とこの雨だ。順応性は十分なものだろう。一方で分析は完了した。多くの蓄積された情報がある。相手の身長と外観と黒の国の人物情報に該当する人物を確認。そこからは速かった。

声を出す間も与えなかった。鋭利な氷の刃の射出を掻い潜り懐に入り込み柄頭を相手の胸部鎧の中央から叩き付け反応を許さず腕の関節を剣身に絡め捻り外し剣を弾き飛ばし膝裏を踵にて踏み打ち降ろして体制を崩し、重心が傾いた所で空いていた片手が相手の肩を掴み引き寄せる動きに合わせて装甲に覆われた膝蹴りをその頭部へ、正面から叩き付けた。

強烈な金属音とヘルムの中の呼気の零れる音が重なる。

近くの建物の壁面に背から無様に打ち付けられた黒鎧の姿に続いた剣の落下の金属音。雨音とヘルムの中のくぐもった呻き声だけが音となる。そのまま、ずり落ちて尾が地面に着いた。騎士は三半規管が機能していない。

だが聞こえるだろう、理解するだろう。

「ストリア=フィクティス。騎士ギルド・シュヴァルツェリヒカイト所属の騎士で主な功績は無し。氷の魔術も低速で詠唱に無駄が多い、そして何より界片を持たない二巡目産まれに用は無い。嗚呼、生まれてから死ぬまで無価値とは」

「あ、 え   っ、や」

「さようなら」

逆手に取った黒の鋭利な刃を一切の返答も待たず躊躇いも無く喉元に突き出したが同時に強烈な金属音が響き渡り逸れ、騎士のヘルムの首元の布を浅く裂き壁面を先端が射ち突いた。

何かしらの妨害が挟まれた事を察知すると同時に飛び退き、その姿は次には唐突に表れた黒い蠢きが覆い隠し、それらが散り消えた頃には姿を消していた。

後に残されたのは仰向けに転がった姿と、壁に背を預けへたり込んだ姿。



「……は、  はっ、 はぁっ!」

その内の一人、騎士の方は荒い震えた呼気を繰り返しながら、極限の死を突き付けられた恐怖によって、股の間から湯気を立ち登らせる結果となっていた。

「……っ、 く、 ……ぅ……」

雨による冷たい水溜まりが湯気立つ温度を急速に奪っていく。立ち上がれもしなかった。顔が酷く痛かった、背中も。だがそれより、死んでいたかもしれなかった。何が起きたのか、なぜ生きたのか理解すら出来なかった。

冷たい雨が降り落ち打ち付ける。誰に命を助けられたかも分からない。ただ生きていて、生きている事だけは分かった。それだけでよかった。

その騎士に報告は出来ない。何事も無かった。

なにも。

なにも無かったことにした。

そうすることしかできなかった。



(※ここで助けて下さった人は希望があれば他のPCさまに設定いただけますのでPL掲示板私書箱に気軽にお問い合わせ下さい!)



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By ろとろな
2020-03-06 23:29:55
-はじまりの陽の下に-
──Welcdrin


「これがリキスの実で、これがロータールの実で、この国にしか自生しない。なるほど!」

晴れた日。草原で屈み、青く色付いた実を手元の古い本と見比べ、眼鏡の位置を直す。

「滋養強壮薬の原料に使えるのと、こっちは毒か。うわ、死んじゃうやつだ。こっちは、今日は摘まないでおこう」

屈んでいた身を起こし、んーーー、と伸びをする。少しバランスを崩し、左足にて踏み留まろうとして義足が出遅れる。

「うひゃぁ!?  った、たぁ…、やっぱり感覚が難しいなぁ、けど、前よりは歩けてるし分かって来た気がする!多分!」

草原に仰向けで大の字のまま、前向きに思う。空が遠い。雲が流れていく。

この空すら見えなかったのだ。この新しい足となる前までは。約12年間も。自分の年齢に確かなものはないけれど、十二歳くらいと言われたからそうなのだろう。

ずっと牢にいた。歩き回れもしなかった。枷の跡のあった足首は切り取られた足の側だったから、もうないけれど。奴隷を証明するのは絶対に見えない場所、左の尻の焼き印くらいだろう。

「こんなに筋肉も付くとは思わなかったし。胸は…うーん、まあいいや」

半目も、閉じる。

「悪魔か」

自身は何だったのだろう。思う。ただの山羊の獣人だ。それ以上でも以下でもない。でも、客観はそうとは限らない。

「僕は僕だ。ほんと、勝手な世の中」

身を起こす。それでも自身を悪魔だと言う人達は一握りも居ないとは知っている。そうだと思いたい気持ちもあるが、恐らく事実だ。

この世の中は、そんなに悪くない。それを証明する為に。

「……」

手元の本と、そして小さな実を見た。

「よし!やってみるかー!」

立ち上がって、村へと駆け出した。何度か転んだが、あまり気にする事でもなかった。

何かを始めるにはいい日だった。



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By ろとろな
2020-03-06 23:30:29
-縋る意味も無い切っ掛け-
──Stria


まだ多くを知らなかった時、その姿はとてもかっこよく見えた。

「ほら、騎士様だよ」

「きしさま?」

抱えられて、人混みから頭がひとつ抜ける。三角の白い耳が跳ね立ち上がって、薄桃色の質素なワンピースから出るふわふわなしっぽがぱたぱたと揺れて抱える手や顔を打つけれど、気に掛ける様子も無い。

注目している先は、頑丈そうな鎧を纏う姿。列を成し微動だにしない姿と、剣を授けられる姿、静かに、力強い声明と、湧き上がる慣習の声と。

重厚なる鋼色の鋼鉄が撮影機の光や魔術光により眩く輝く。

規則正しい規律によって守られた質実剛健で過度に質素にも華美にもならないように配慮された居住群の中心にて。

就任式の光景だった。

「わぁ…!」

蒸気と鋼鉄の都市、黒鋼の区域『グラン』。その地区を守り、国を保つ一役を担っている中枢。

金剛の騎士団『トーデスシュトラーフェ』…軍解散宣言後の『騎士ギルド・シュヴァルツェリヒカイト』の騎士団が、集結した姿は正に圧巻だった。

その当時は知りもしない、トーデスシュトラーフェ時代の団長、『崩國の戦颶・バルバス=オルランド』の姿が、高階級の騎士の姿が目に焼き付いた。

「パパ!わたしもきしさまになる!」

「はは、それは難しいぞ、ストリア。いばらの道だ」

「いばや?」

四征軍が解体されギルドに分断され、それぞれが虚白の地の調査、魔術研究、自国の戦力増強、諜報活動に分散された。それでも自国を守るという理念は不動、解体された四征軍の一方残された親衛隊『シュバルツバルド』への編入が公式上は最も多いとされる。

当然公務の為にこの場に出席している者は多くは無いが、その姿は明確に他とは違う姿として少女には映っていた。

忠誠心、戦術、戦闘力、作法から言葉に至るまで、全てが完璧でないと成り立たない最上の騎士の道に続く、そう信じれる光景だった。

事実がどうであれ。その時の治安の実態がどうあれ。公式上のものでない情報がどうあれ。

何も知らぬ無垢の眼は、目指すものを見付けたのだ。

それはとてもささやかなことで。

そして、とても不幸な事であったのは言うまでもない。


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By ろとろな
2020-03-06 23:30:59
-暗闇の鳴動-
──valdeR

「─…───…ギ、何、何此処何処何闇闇昏い暗い暗いギギギ我何此処不明不明不明何故動けぬ何何何…ギャギギ──!」

「おはよう。断罪を下す聖血の蛇竜。久しい感覚がある。俺はお前を知っている。だが知らない。是非とも解き明かしたいものが多くあるが、それ以上の明確な有用性こそを見い出すべきであると考えている。嗚呼、けれど此ればかりは君の同意は得られなさそうなものだ」

輪郭すら溶ける闇。見上げる人の姿と、一方の壁に貼り付けられた全長2mを超す姿。連なる金属の騒音が満たしている。張り詰めても引き千切る事の出来ない白い鎖の群ればかりは輪郭として映ろう。それは細く、いや、太く、長く、手足に至っても全くの人の姿とは別の朧気な輪郭を持つ。異形は長く、壁に貼り付けられ無数の魔術拘束と術式封印を施され、狭い室内を文字通り取り囲むように壁面に縫い付けられている。

「舗装されていない地面は歩き易くしてやるべきだと思っている。過去の事は思い出せないのなら君にとっては好都合だ。何と無く知り得るよ、君は一巡目のものだが大きな価値は無い。だからその力のみを使わせてもらおう。気にする事は無い、処置は得意だ。そう、恐らく俺と君はそこまで悪くない関係であったのだろう。それでも、こちら側ではその全ては無い」

「クルルル…」

「手札は七枚。先ずは君だ。…十分に、そうだ。この世界を掻き乱してくれ。そうすれば何れ収束を見せる。朱に交われば赤くなる、とは言ったものだ。そうだろう?白しかないのは、おかしなことだ。これから多くの赤色が流れる。なれば、流れる赤の中に見い出せるものを俺が拾い上げよう」

自らの仮面に触れ、そうして外す。

「それでは、始めようか」



闇が。


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By ろとろな
2020-03-19 03:48:58
-博愛-
──Anxe Stratos

「ストラトス院長は女性を付き合った事とかあるのか?」

「──ぶっ、  ッげほっ、リバルドくん、なんて事を聞くのかな、いいや、無いけれど」

「無い!!?」

椅子を勢い良く引いた黒猫の獣人は驚いた表情で振り向いた。

「無いよ。ずっと。ああ、なんというか。戦争に携わる上でそういうのは必要なくて。つい。七騎士としても動く事になってしまったし、どうにも。あまり人の気持ちが分からないのもあるしね。行動原理としてなら理解は及ぶけれど、それを一人に注力する事はない、絶対に」

珈琲のマグをテーブルに置きながら。そう答える。部屋の中は暖かな暖炉の火の光に影が揺らめいて。毛布に包まれた子供が身動ぎする。ソファに、そして他の椅子や床に。床に転がる獣人の子を、その黒猫の青年が抱き上げた。

「だから孤児院クレイドルが成り立っている、って?」

「元々私は博愛主義者なんだよ。民の為、困っている者の為。そこに分け隔ては無いし、君達も……赤の世界に飲まれた難民たる獣の民も、同じで。ああ、けど、ロレンスくんはそうは思っていないだろうけれどね。彼は人とよく比較してしまう差別主義者だから。おっと、これは内緒ね」

黒猫の獣人の唯一赤い右耳が動く。眼帯に覆われていない隻眼が半目を向けてきた。息を零す。

「内緒もなにも……。ま、十分落ち着いてるし俺も仕事は覚えてきた。ちょっとは、適当に遊んで来てもいいんじゃねーのか?」

「はは、君に心配される程の事でもないし、そういう君の方はどうなんだい?」

「ばっ!おま……ッ、うるせぇ!人の事気にし──」

「子供が起きるよ?」

この野郎という表情のままに睨まれるが、涼しい顔で受け流す。

誰か一人と関係を持った事は無い。一度として。触れ合う事もなかった。向けるべき愛というのは不定形で、そうして傷付けられる弱者の全てに向けられていた。

避けてきたと言っても過言ではない。必要もなかったと言える。他人が自身に望む事に、そんな些細な事は求められていなかった。壊し、打ち、殲滅する。民の為、弱者の為にただ強者を打つ。

そうして刃毀れした身は一線を引いて此処に居る。此処でしか出来ない事をしている。

小さき命を守るくらいの事は、きっと私にも出来る筈だと。寄り添い、愛せるのだと。

私の生き方はそう定められている。

この子達を失えば、私はきっと博愛主義ではなくなるだろう。自身の存在意義の最後の砦でもあった。黒猫の彼に任せる準備は整ってきているが、いつ自身が消え去るのか、分かったものはない。

私の生き方に、ただ、それ以上のものはなかった。
この世界には、ないのだ。

暖かい暖炉の光に照らされるままに、孤児の頭を撫でる。

私の愛は、この世界の弱き命の為にある。

誰か一人を愛するということは、この世界では決して有り得はしない。

それで、良いのだ。


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By ろとろな
2020-04-16 19:11:57
-目-
──Welcdrin

「──そっ!そうです!えっと!はい!あ、会いましたよ!竜さまが、えっと!……ど、どこの国から、どこって、黒か青か銀か、……で、ですか……あの、いえ、く、詳しくはわからないですけどっ、羽休めに、ちょっと降りたくらいで!ほら!僕とか何ともありませんしっ!」

遅い時間に戻ってきた。世話焼きなオールディンおばさんやメルグス爺さんに問い詰められて口から出る言葉は思ったままの事だ。何かと物騒な事が起きている。それと大きな影の噂も。別れる間際の言葉を思い出して自身は安心させようと説明をしたつもりだった。より顔色が曇る様子に戸惑う。

「えっ、えっ、とあのっ、僕、ほら、無事で──、へ? あ、 樹海の大獣、ですっかっ、それは、あっ、大獣さんとかに僕、見付かってたら食べられてたんですよっ!?ですからっ!……み、みつから、……み、見つかってたらですよっ!例え話で不測の事態とか、そのっ! いえ、そういう訳では…………服? へ、 あっ、これは、いえ!あの!あ、あのっ僕準備あるのでっ!急いでて!し、しつれいますっ!」

何処まで知っているのか。噂という領域なのか、事実なのか。何も分からない。鎌掛けなのかも、判断が付かない。危険な獣が狩られた、殺された、──狩猟とは別の概念がある事まで深く突っ込んだ事は知り得ない。外を為して人が死ぬ事があれどそれは自己責任になる、だとしてもその害を排してはならない、あまりにも及ばない思考の範囲の話が過ぎる。自身の命が危なかったかもしれない、ならばその害は、別視点における保護対象は取り除かれてよいのか。この前の砂龍の事情とは違うのだ。ここは翠の国であって。

不安を取り除く為に話しているつもりだった。どうしてこうなっているのかが分からない。

ふと指摘が自身の服装に至る。慌てて一歩引いて……、何を悟られたのか。何を理解したのかまでは分からない。兎に角、離れなくては。そういう思考に移った。そうと判断してから踵を返すまでの間はなく、駆け出した。

異端者の件の事の起きる時、丁度この山羊も帰ってきていたのだった。保守的で他の国との交流を望まない者の多いこの国で、何度も何度も国と国を行き来する姿は他の者異常に目に付くものだ。ましてや、それが血の繋がりを持たない子として育てられた、この国出身の者でないとなれば──尚更に。

その山羊の娘はすぐに出発した。いつもの行商の為。合法的に、自身の自己責任の範疇で危険を犯してまで集めた素材や交渉で得たものを背負って。

それが誰の利益になるのか。何処の誰の得になるのか。

簡単な話ではない。そうして、その山羊を拾った男にもまた異端を見る目は向けられる事となる。

それを知る由もない。

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