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白(???)
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 雪の降る日だった。しんしんと静かに銀世界を作る優しい空の屑は、彼の病を悪化させるにすぎなかった。ただでさえ白い床に白い壁、白い天井に白い医療器具、ベッドにシーツに彼の寝巻き。気が狂いそうだというのに空気を読めと唾を吐き捨ててやりたい衝動にかられるが、外に吐いたって凍るだけで、中で吐いたって看護婦さんに怒られるだけだということには、気付いていた。

 そんな中で不釣合いなほどに極彩色を気取る羽の色は、彼の孤高を主張しているかのようだった。その時が近づいてきても彼の鮮明さは衰えることがなく、ただその分、一挙手一投足の緩慢さが日増しに強まっていく。無情の念を募らせるしかなかった。

 かれこれもう数時間、外を眺めている彼を眺めている。天涯孤独を気取りたがっていたのを無理に引き止めたのも、子どもぐるみでお近付きになって離れがたくしてやったのも私だけだなと考えながら、それでも胸中は至極穏やかだった。彼に合わせているのかもしれない。私一人が取り乱すのはみっともないことだと、強がっていたのかもしれない。

 こちらに一瞥もくれることがないのは、わざとだろう。どんな顔で向かい合えば良いのかすら分からないのはお互い様だ。ずるい私よりさらに狡い彼に、それでも小言を言う気にはなれない。
 指先に巻かれた包帯、それがまた、憎たらしいほどに白かった。掻き毟ってはだめだといったのに。夜な夜なひとりで発狂している様を、想像するに難くはなかった。
 けれど辛い。「私は無力だ」と思わず吐いて出た一言に、その白が小さくぴくりと跳ねた。

「君に、なにも、してあげられない」
「してくださいなんて、言ってないでしょう」

 そりゃあそうだ。ああ、変わっていない。何かおかしいことがあるのかは、自分でも分からない。けれど思わず笑んでしまった。

「ありがとう」
「何がですか」
「ありがとう」
「やめてください」

「ありがとう」
「べつに、今日死ぬわけじゃない」

 彼が自ら吐いた自虐的返答を皮切りに、痛い沈黙が再び訪れる。


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こどもたちは
知り得るはずも
なかったのです



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