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もっとちゃんと愛して下さい(もはやわけわからん)
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『もっとちゃんと愛して下さい!』

 錯乱しつつ書いたのだろう、目を細めてちょっと距離をおいたところでかろうじて読める一文を残して、パンサーが突然スターウルフから姿を消した。5月中頃の出来事である。
 この気持ちを的確に表現するとするのならば、紛れもなく「非常に面倒くさい」の一言に尽きる。私は溜息を吐きながらビリビリと破った紙を、さらにシュレッダーにかけた。どれだけ細かくしてやったところで私の気持ちが晴れることもなければ、あれが帰ってくるきっかけになどなりえない。全粒粉となってパンの材料になることなども到底ありえず、とどのつまり、あの男はこの私にそれだけ無駄な労力を使わせているという大罪を犯していることになる。
 絶対に締めてやろうと心に誓ったのはその時だ。


***


「なあ、最近パンサー居なくないか?」

 スターウルフのリーダーが組織内のビッグ3の内のひとりの消失に気付いたのは、その日から約二週間経った日のことだ。「そういえばそうだな」と相槌を返した後、置き手紙の件をふと思い出した。つまりすっかり忘れていたのだが、そのことは胸の内にひっそりとしまおうと思う。「そういえば忘れてたけれど」、などというふざけた言葉は口にするのも憚られる。私のプライドが許ない。
 パンサーの安否よりそちらのほうが大事に決まっている。

「死んだんじゃないか」
「は、身も蓋もねえな」
 ウルフは一言吐き捨てた。

 その後の沈黙が、段々と気まずい空気を醸し出す。
 彼は何も言わずに新聞に目を通しながら珈琲を飲んでいるが、その目はどこか寂しそうにも、見ようと思えば見えない、でもない。やはりパンサーのことが気に掛かるのだろうか。いやどうだろう。どうでもいい。
 長年の付き合いである。多少の感情の変化をを読み取ったり、もしくは次の行動をある程度予期できるくらいの間柄にはなっ、てない。延々と他人である。

「あいつの最後の単独任務はいつだ」

 次の行動をある程度予期できるくらいの間柄にはなったのだから、彼が口を開いたときには、任務遂行に関する書類は既に私の手中にあった。見るからに気に食わないという顔をして「キレるぞ」と舌打ちをひとつ打ったが、その不機嫌を無視した。書類に目をやると、それは丁度二週間ほど前のことだった。ということは任務終了後の2日後、パンサーは錯乱しつつ悲痛な訴えを何か、こう、紙に(どんなものであったかも忘れてしまったではないか)したためて消えたことになる。

「あの任務の後、ちゃんと帰ってきただろう」
「…そうだな、命からがらな」
「あれほど敵の動きを良く見ろと言ったのに」
「不可抗力ではあったろ、あの急襲は烏合の衆のクセに妙に凝っていた。指揮官サマのお働きの賜物だろうよ」
「スターウルフの一員ともあろうものが、あの程度を乗り切れずにどうする」
「まあいい」
 正論に異を唱えられるのが気に食わず、らしくなくむきになっていこうかと言う瞬間、ウルフはサイドボードにマグカップを置いた。

 次いで、その黒くたゆたう胃弱の敵を眺めながら呟いた。
「…しばらく珈琲ばっかだな」
 私も彼も、あの馬鹿が淹れた異様に香る紅茶を飲んでいない。彼は「飽きた」と一言吐き捨て立ち上がる。私はドックに向かう足先に倣った。ところでこのイライラはどこにぶつければよいのか。
 そうか、あいつか。


***


 勢いで出てきてしまったものの、ぶっちゃけ宛がなかった。
 いや、あるにはあるし、作ろうと思えば作れるのだけれど、(そこいらのオシャレなバーに駆け込んで、美しくて賢そうで強そうな女性に声をかければ解決することだ)その時は俺ともあろうものが重度の混乱状態だったようで、ブラックローズの中で途方にくれていた。薄っぺらな紙一枚に無闇に憤りを残しておいてその有様。我ながら情けなかったけれど、その時は「迎えにきてくれるまで絶対帰らない!」と息巻いていた。

 なんだよ、俺の何がいけなかったってんだ。柄にもなく荒れた心情をそのままぶつけるように、コクピットの壁を叩き付けていた。吐き気にも似た不平不満が、ぐるぐると胸の内を満たしていく。うっかり胸の奥を焼かれるような心情に陥る。
 居た堪れない空気もあのふたりの無言も、泣きたくなるほど嫌だった。俺のことが要らないならそう言えばいいじゃない。言わなきゃ分かんないじゃない。

 責任転嫁が得意なカノジョのような自暴自棄に耽る俺の目に飛び込んできたのは、レーダーに示された敵組織の母艦の座標。ほど近い場所にいるようで、レーダーに赤い丸がぽつんと浮かんでいた。
 敵組織とは言っても、相手の誰とも顔見知りではあるし紅一点は俺の好みに超弩級のストライクだしで、いい人たちだ。ライラット星系のヒーローであり、スターウルフの対極に位置する、遊撃隊スターフォックス。

 俺はしばらく吸い込まれるように、愛機のスピードも極力落としながらその丸をぼんやりと眺めていた。
 磁場は極めて良好のようだ。これなら快適に通話できると目論み、回線を繋ぐ。明確な目的があるわけじゃない。ただどれだけ微小でも構わないから、不明確の闇に光が差してくれたらと藁をも掴む思いだったのかもしれない。
 その時の俺はてっきり、グレートフォックスのオペレーターロボットの、片言な音声が出迎えてくれると思っていたから、不意をつかれてしまった。

『どうした、キザ野郎』
「…よりによって」

 聞こえる声に、思わず舌打ちで返した。ブチリという音が鼓膜を叩いた。


***


 即座に回線を切った。
 相手の知らないところで「人の声を聞くなり舌打ちだなんて、あの組織は部下を躾けきらないだめな連中なのか」とこちらも舌打ちを返してやった。ナウスがメンテナンス中だったのがいけない。押し付けられたあいつの仕事を渋々引き受けてやりゃあこの有様だ。(ただ押し付けられたってのは、俺が一番暇だったことに起因する)先方のあまりの不躾に苛立って間もなく、即座に再びコールが鳴り響く。
『ゴメンナサイ、ちょっとイイデスカ』
 あんたにとって大事じゃなくても、俺にとっちゃあ一大事なんだ、だそうだ。知るか。お前の全てが、俺にとって大事じゃないんだよ。


 どこかばつの悪そうな顔をして、ブラックローズの隣に佇んでいるこの男をわざわざ迎えに行ってやったのは、ハンガーとメインルームへと続く回廊にかかるパスワードを彼に知られてはならないからだった。まったくもって面倒臭い。この男は面倒臭い。初対面からどうにもウマの合わない男だなとは感じていたのだ。やたらとキザったらしい言葉を吐くものだから、胸焼けを起こして口からざあざあと砂糖を流しそうになったことを今になって思い出す。


---


あんなに加速してたのに、驚くほどピシャリと詰みました。
たしかこれウルファルにする予定だったんじゃ、なかった、だろうか。(どうしてもなのか私は)
もはやおぼろげです。

物語の登場人物ほぼ全員の視点から書いてやろうと思って構成していったはずが、なんだかレオンの時点で既になにか大事なものを見落としている予感です。
うちのレオンさんは何かこう、患っている。

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