こぎつねこんこん・いも
By 管理人:すーこ
今年の夏はかなり暑かった。そしてそのまま残暑が続いて、いきなり冬が来た。秋はどこに行ったんだ、秋は。
一応暦の上では秋、こたつを出してもいいかもしれないと考えていた頃。
大家さんがサツマイモを分けてくれた。親戚からたくさん送られてきたから、と袋にたくさん入れてくれた。勿論俺は大喜びしてお礼を言った。
サツマイモにもたくさんの調理法があるけど、俺はシンプルに焼き芋が一番好きだ。手っ取り早いから、ということもある。
昔、実家の庭で家族とたき火をして芋を焼いたことがあった。焼きたての芋が熱くて食べられないとぐずった俺に、おふくろがスプーンでいもを掬って食べさせてくれたんだっけ。
やっぱり焚き火で焼いたいもは美味しかった。思い出の補正もあるだろうけど、俺の中での美味かったものランキング上位に入る味だ。
だけど、今のご時世に焚き火なんてなかなかできない。実家でも、近所迷惑だからと焚き火をやらなくなってしまった。風で火の粉が飛ぶこともあるし、煙が広がるからこれも迷惑だ。仕方が無いよな。
なので、俺は今電子レンジで芋を焼いている。いや、加熱してるだけだから焼いてるわけじゃないよな。何て言うんだろうこれ、加熱いも?
「おお、さつまいもか!!……またひとりでたべるつもりであったか」
皿に乗せて部屋に持って入ったと同時に、いつもの声が聞こえてきた。元就が当然のようにテーブルについて、俺が運んでくる芋を待っていた。
「もとちか、いつももうしておるであろう。たべものとはわけあうことこそがだいじなのだ。うまいものをひとりじめしてたべて、ほんとうにうまいとかんじられるものか」
「別に一人占めしようとしてたわけじゃねえよ。ほら、お前の分もあるから」
とくとくと語り出した元就の前に皿を置いてやると、
「わかっておればよいのだ」
あっさり口を閉じた。現金な神様もあったもんだよ全く。
「これはむしいもか?」
「んー電子レンジだから……まあそんなもんかな」
答えながら、俺はキッチンに戻っていく。今度はお茶を淹れたコップを二つ手に持って、また部屋に戻ってきた。芋って結構喉に詰まるんだよな。
ようやく腰を降ろして、俺はほかほかの芋を半分に折った。ほっこりとした湯気とともに、ふかふかの金色の実が現れる。うおお、これは美味そうだ!
「ほらお前はこっち……って、もう食ってんのかよ」
折った半分を分けてやろうと思ったら、元就はすでに自分の芋を手にとってもぐもぐと食べていた。素早い。
「うむ、うまい!さつまいもはあまくてびみであるな、われはいものなかではこれがいっとうすきだ」
もごもごと咀嚼しながら元就はそんなことを言った。言いながら次の芋を齧ってる。行儀悪いぞ。
「うん、これは甘いな。……あーうめー、ほんとにうめー」
食えば食うほど芋の甘さが口に広がる。ほこほこの実が齧った途端にくずれて、そのせいでどんどん食べ進んでしまう。あっという間に一つを食べきってしまった。
「いまもうまいものはたくさんあるが、こうしてむかしからかわらぬあじもわるくはなかろう」
「そうだなぁ……って、お前一人で食い過ぎ!」
しみじみと呟く元就がいそいそと二つ目に手を伸ばしたので、慌ててそれを抑え込んだ。
「せめて半分にしとけ。俺も食いたいから、二人で半分こ」
「……まぁ、よかろう」
元就は渋々頷いた。食い意地張りすぎだろ。
俺が残った一つの芋を半分に割ると、右手に持った方が少し大きくなった。俺は躊躇いなくそっちを元就に差し出す。こうしないと後が面倒くさい。
「しかし、さつまいもといえばやはりやくにかぎる。もとちかはやいたいもをくうたことはあるか?」
当然のように元就は大きい方を受け取りながらそう言った。
「ああ、あるよ。かなり昔だけどな。でも確かに、焼き芋は美味いよなー。元就も食ったことあるんだ?」
「あるとも。むかし、わがやしろのまえでよくたきびをしていてな」
なるほど、神社の前か。元就の言う昔っていうのが一体いつ頃のことなのかは分からないけど、その頃なら焚き火は一般的だっただろうな。
「またあのやきいもがたべたいぞ。もとちか、たきびをしようではないか」
「ええ?今は無理だって、ご近所に迷惑がかかるんだよ」
元就には分からないだろうからと、俺は焚き火が何で出来ないかを説明してやった。俺が面倒くさがって焚き火を嫌がっているわけではないと元就も分かってくれたようで、そうか、としょんぼり肩を落とした。
「じだいはかわってしまったのだな」
「そうだな。まあ元気出せって、サツマイモはまだたくさんあるから、電子レンジ芋でよければ作ってやるさ」
俺の言葉に元就はばっと顔を上げた。
「……今日はもうおしまいだからな?」
付け足すと、またしおしおと顔が下がっていった。



そんなことがあった数日後。
「もとちか、たきびをするぞ!いもをもってまいれ!!」
休日にだらだらしていた俺のところに、元就が跳ねるような勢いでやってきてそんなことを叫んだ。
「は?たきび?……だからぁ、この間言ったじゃねえか」
俺が顔を上げると、元就はいらいらしたようにじだんだを踏んだ。勢いが付き過ぎて、もはやジャンプしているに近い。
「わかっておる!だがもんだいない!だれにもめいわくをかけぬばしょでするのだ!」
「ええ?どこよそれ」
首を傾げた俺に、元就はふんぞり返った。
「われのやしろのまえだ!」



そして俺は今、元就の神社に向かって石段を上っている。片手にはさつまいもの袋。ちょっと恥ずかしい。
「おそいぞ!はようせねばひがくれてしまうぞ!」
元就は俺よりずっと先の段に上ってびょんびょん飛び跳ねて俺を急かしてくる。よほど焼き芋が待ち遠しいのか、元就はかなり身軽な調子で階段を上っていく。
「はいはい今行くってー……はぁ、久々に上ると結構きついな」
何と言っても、神社は小さな山の上にあるのだ。山のふもとからなだらかな階段を何度も何度も上るので、やっぱり最後らへんはばててくる。元就の神社に辿り着いたとき、俺は思わず肩を落として思いっきり息を吐き出した。
「まったくだらしない。さっこんのわかものはどうもひんじゃくでいかんな。げんだいのきょういくをみなおすべきであろう」
元就の方は息一つ切れてない。くそ、こんな俺だけど体力は自信あるんだぞ。
「で?ここですんのか?」
「うむ、ここならもんだいなかろう?われのとちぞ、われがゆるすのだからだれにもめいわくはかからぬ」
元就はそう言ってとことこと歩いて境内を進む。小さな社以外は木しかないこの境内、枯れ葉はたくさん落ちてるし、確かに焚き火はしやすそうだ。
「でもいいのかな、マジで……つか、俺箒持ってきてないんだけど」
元就が急かすし、俺も思いつかなかったから、芋しか持ってきてない。手で集めるのは流石にちょっと……
「ここにあるぞ。みずとおけもあるゆえ、ひのしまつもあんぜんぞ」
言いながら、元就がどこからともなく竹ぼうきをずるずる引きずって戻ってきた。どこから、と聞けば、社の後ろに掃除用具として置いてあるらしい。そこに小さな水道もあるんだとか。
なるほど、準備は万端なわけだ。
「よし、そんじゃいっちょやるか!」
竹ぼうきを握りしめ、俺は勢いづいて拳を振り上げた。元就は何故か偉そうにうんうんと頷いている。
箒は一つしかないらしいので、俺が回りの落ち葉を掃いて集めて回る。たくさん落ちてるせいで、特に苦労もなく落ち葉は山のように集まった。
「元就は木の枝探してきてくれよ。火の中の芋をつつけるぐらいのやつな」
そう言うと、元就は胸を叩いて木の陰に消えていった。程なくして、まさしくぴったりな大きさの枝を見つけて戻ってきた。
「ついでにまつぼっくりもひろってきた。これをいれるとひがよくもえるのだ」
元就は袖の中からころころと松ぼっくりを落とした。へえ、よく知ってるじゃねえか。
「落ち葉も集まったし、じゃあ早速火を……」
うきうきとしゃがんだところで、俺はぎくりと硬直した。
「……なんぞ」
元就が不思議そうに首を傾げる。
「……火、つけるものがない」
なんでこんな簡単なことに気付かなかったんだ。俺は煙草吸わねえから、ライターもマッチも持ってない。家に帰ったって、勿論置いてなんかない。
どうしたもんか。コンビニに行ってライター買ってくるしかねえか。そう考えて溜息を吐いていると。
「そんなことか、あんずるな」
元就がそう言って、長い袖を振り払うような動きで腕を振るった。袖の中から、どういう仕組か木の棒が飛び出した。
それは棒というか、はたきに似てる。元就の小さな手に収まる小さな棒で、先に白い紐がぴらぴらついてる。
「何それ、はたき?」
「ものしらずめ。これはわがしんぐ、ごへいのいっしゅぞ」
よく分からない説明をされたけど、はたきじゃないということしか分からなかった。
「すこしさがっておれ、あぶない」
言われて、腰を上げてちょっとだけ後ろに下がる。一体何をするつもりなんだ?
「……やけこげよっ!」
元就が棒を振るうと、ぽん、と軽い音とともに小さな赤い火の玉が浮かび上がった。
「おおーすげー!」
「これくらい、どうということもない」
元就は言葉の割に、嬉しそうに顎を上げて鼻を鳴らした。分かりやすいやつめ。
そういえば、以前見せてもらった本来の姿で、元就は掌の上に炎を出してたな。これは神様の術なのか。
だけど、あのとき見せてもらった炎に比べると、今ここにある火の玉は随分お粗末だ。ちびっこの姿だから、力が制限されてるのかもな。危ないって言われたけど、正直しゃがんだままでも何も危険はなかったと思う。
ふわんふわん、とおぼつかないように浮いていた火の玉は、よろよろと落ちるように枯れ葉の山に沈んだ。枯れ葉が赤く光り、やがて白い煙がもわもわと立ち上ってきた。どうやらきちんと火がついたようだ。
乾いた枯れ葉に松ぼっくりの効果も手伝って、焚き火はすぐに炎が広がった。元就が探してきてくれた木の枝で落ち葉をかきまぜて、炎の勢いを調節する。少しだけ火が収まったところで、俺が持ってきたサツマイモをごろごろと放りこんだ。
焼き加減も時間もわからないけど、まあ適当にやっても十分だろ。
「これで後は焼けるのを待つだけだな」
元就は待ち遠しいのか、焚き火の傍にしゃがみ込んでそわそわと炎を眺めている。あんまり近づくと尻尾に火がつくぞ。
煙がもくもくと立ち上り、少しずつサツマイモが焼ける香ばしい匂いが広がっていく。元就はくんくんとその匂いを嗅いで、にこにこと頬を緩めた。
「そろそろいいのではないか!?」
「もうちょいだろー。まあ待てって、こういうのはじっくり待つことが肝心……」
そのとき、どこからともなく慌ただしい足音が聞こえてきた。俺も元就も、一体何だと顔を上げる。
どうやら石段を駆け上っている人がいるらしい。まずい、元就は耳も尻尾も出したままだ!
「くおぅりゃああっ!!一体何をやっとるんじゃ!!」
地響きが起きそうな程の怒鳴り声と共に、腰を曲げたじいちゃんが石段を上って境内に飛び込んできた。俺もびびって思わず後ずさるほどの勢いと迫力だ。
はっと気付いて元就を見ると、いつの間に逃げたのかどこにもいなかった。姿を消したのが間に合ったみたいだ。
「何じゃ、お主!!こんなところで焚き火なんぞして!!」
「え、ええーっと……」
どういったものか。おろおろしてると、他にもおっちゃん達がどやどやと階段を上がってやってきた。
「何だ、焚き火だったんか」
「火事じゃなくてよかったなぁ」
なるほど、俺の焚き火の煙を見て火事と間違えて、慌ててここまでやってきたって感じだな。
「君ぃ、勝手にこんなところで火を焚いちゃいかんよ。ここは狭くたって神社なんだから」
「す、すんません……」
最初のじっちゃんに比べると、こっちのおっちゃん達はまだ優しそうだ。俺は素直に頭を下げた。
ここの神様に許可を得たので、なんて信じてもらえないだろうし、話もややこしくなるからな。
「若いもんが、何で焚き火なんかしてんだね?」
「いや、えーっと……い、芋を、焼いてみたくて!」
ここは誤魔化しようがない。俺は照れ笑いで必死に誤魔化しながら弁解した。
「焼き芋、昔食べてすげぇ美味かったんで、また食べたいなーって思いまして!俺一人暮らししてるんで、ここしか出来る場所がなくて、そんで……はは、すみませんホント」
内心は冷や汗ものだったけど、おっちゃん達はぽかんとしてる。や、やっぱり苦しい言い訳か?
「うーむ、確かに最近は焚き火も自由にできんよなぁ」
「わしらが子供の頃は、秋になるとどこも焚き火してたけどなぁ」
「そうそう、芋やリンゴを焼いたりしてなぁ!」
「いやー懐かしいなぁ。あの頃はお菓子も少なかったし……」
おっちゃん達は昔の思い出に浸ったのか、懐かしいなぁ、と呟きながら盛り上がっている。焼きりんごか、それも確かに美味そうだ。
「へぇ、それじゃあその焚き火は焼き芋のために?」
「そ、そうなんです……人騒がせですみません」
「ああ、じゃあすぐ消せっていうわけにもいかんよなぁ」
おっちゃん達は俺の焚き火の処遇を決めかねているようだ。まあそりゃ、ここで俺がすぐに焚き火を消せば話は丸く収まる。
でも、この中の芋は台無しになっちまうよな。俺はそれで納得が行っても、元就は絶対に納得しないだろう。断言できるね。
おっちゃん達がちらちらと焚き火を見ているので、俺も居心地が悪い。
「……えーと、よかったら、おっちゃん達も、食べます?」
ついそんなことを言ってしまった。おっちゃん達は驚いたように顔を上げた。
「えっ、いいのかい?」
「あ、まぁ……たくさん入れてるんで、別に」
「いやあ、そう言ってもらえると嬉しいねえ。わしも、焼き芋は大好きなんでなぁ!」
おっちゃん達は嬉しそうに笑いながら焚き火に寄ってきた。どうやら危ない橋は渡り切ったようだ。
「あー、久々の焚き火もいいもんだねぇ」
「ここは落ち葉が多いから、確かに焚き火には言い場所だよなぁ」
「おっと、神様もお参りしとこうかな。ちょっと、場所を貸して下さいよ」
焚き火に手を翳したり、元就の社に手を合わせたりと、おっちゃんも楽しそうに焚き火を満喫している。
そんな姿を見てる俺は、内心は落ち着かなかった。はずみで言ってしまったけど、これはまずいかもしれない。
「あ、そろそろ焼けたと思うんで……」
俺は手に持った枝で焚き火をかき回して芋を探す。手ごたえがあったので枝を刺して持ち上げると、見事に焼けたサツマイモが現れた。
「ほほー、こりゃうまそうだ!」
じいちゃんが上機嫌で歓声を上げる。一番かんかんに怒ってたのに、一番喜んでるなこの人。
直に持つのは熱いので、各々枝を探してきてそれに芋をぶっ差して皮をむいている。持ってきた芋は四つ。ここにいるのも、四人。
俺と元就とで二つずつ食べるつもりだったんだけど……これ、まずいよな。
「どうした兄ちゃん、あんまり美味くないのかい?おっちゃんのと換えてやろうか」
俺がどんよりした顔をしてたのに気付いたおっちゃんの一人が、そう言って芋を差し出してきた。
「あ、いや、違うんです。美味いですよ、はい」
慌てて笑って誤魔化し、俺は皆がしてるように皮ごと芋に齧りついた。うん、ほこほこしててふっくらしてて、電子レンジで加熱した奴とは比べ物にならない美味さだ。
ちょっと熱過ぎるから一度に食べられる量は少ないけど、それを息を吹きかけて少しずつ冷ましながら食べるのもなかなか乙なものだ。
「いやー、悪かったねえごちそうになっちまって」
「火の始末は、たしか神社の裏にバケツがあったな。おっちゃんがしといてやろうな」
俺がちまちま食ってるうちに、おっちゃん達はとっとと芋を食い終わったらしい。元就が言ってたように、裏にバケツがあるようだ。
おっちゃんの一人が神社の裏に回って、バケツに水を汲む音がする。水道もあるって言ってたな、確か。
元就はどうしたんだろう、とぼんやり思ってると、神社の陰からちょろりと黄色い尻尾が見えた。どうやら神社の裏に隠れていたらしい。おっちゃんが回ってきたから、慌てて移動したんだな。
おっちゃんは水を汲んで戻ってきて、焚き火に水をかけて火を消した。集めた落ち葉も殆ど燃えていて、焚き火の跡はただの黒こげの地面だけだった。
「兄ちゃんはこの辺の人かい?」
「ええ、この山の裏にあるアパートに……」
「そうかい。まだ暗くならないけど、早めに帰るんだよ」
おっちゃん達はそう言って、俺に手を振りながら石段を下りていった。じいちゃんもよぼよぼと歩きながら、それでも意外にしっかりした足取りで階段を下りていく。どうやら嵐は去ったようだ。
ほっとしていた俺の背後に。
「……もとちか」
地面を這うような声が。ぎくりとして振り向くと。
「うまそうにくいおって……われはずっとうしろからみておったのだぞ……」
薄暗い顔でこっちを恨めしげに見ている元就がいた。
「いや、悪かったよ。でもしょうがねえじゃねえか。ああでも言わないと、おっちゃん達帰らなかっただろうし……」
きっとかんかんに怒って俺に噛みついてくるんだろう。そう思って身構えた俺だったけど、元就はしょんぼりと肩を落としてとぼとぼと進み出てきただけだった。
「も、元就……?」
「われの……やきいも……」
ぽそぽそと呟いて、元就は社の石段にぽてんと腰を降ろした。どうやら芋を食われた怒りより、自分の芋がなくなった悲しみの方が大きいようだ。こんなにがっかりした元就は見たことが無かったから、俺もかなり慌てた。
「げ、元気出せって。ほら、俺の半分残ってるからやるよ。な?まだあったかいぞ」
さっきよりさらに必死になって、俺は元就をあやして芋を差し出した。顔を上げた元就は、まさしく泣きそうな子供の顔だった。
「ほらほら、食えって。美味いぞ」
「……それはもとちかのであろう」
「俺は半分食ったからもういいよ」
根気よく言って聞かせると、元就は小さい手を伸ばして芋を受け取った。それを確認して、俺は元就の隣に腰を降ろす。
元就はいつものような大口じゃなくて、小さく口を開けてちょびっとだけ芋を齧った。
「どう?美味いだろ?」
はらはらしつつも俺が尋ねると、元就はこっくり頷いた。
「せっかくのやきいもが、はんぶんだけとは」
「まあ、焚き火はもう出来ねえけど。サツマイモはまだあるから、また作ってやるさ」
今回ばかりは元就に悪いことしちゃったからな。でも、ひとまず機嫌が直ったみたいでよかった。
元就はもくもくと芋を齧ってたけど、ふと芋を見つめて口を止めた。一体なんだ?
「どした?」
「もとちか、これをはんぶんにわってくれ」
そう言うと、元就は食いかけの焼き芋を俺に差し出してきた。
「半分?何で?」
「いいからはやく」
訳が分からない。とりあえず言われた通り、芋を半分に割った。既に半分食べてしまっている状態だったから、割ったらさらに小さくなった。
「ほら。どうすんのそれ」
とりあえず割った芋を両方差し出すと、元就はその二つをじっと見比べて、左手に持った芋の方だけを受け取った。
「……何?」
「それはもとちかにやろう」
そう言って、元就は受け取った芋を齧った。さっきより随分大口になっている。
「そっか……へへ、ありがとな」
嬉しくなって礼を言ったけど、元就は何も言わなかった。でも耳がちょっとだけ揺れて、照れてるんだなと分かる。
俺は右手に残った小さな焼き芋を齧る。もう随分冷めてしまっているけど、さっき気まずい気分で食べた焼きたての芋よりずっと美味しく感じる。
二つに割った芋は、右手の方が大きかった。










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久々にこぎつね小ネタ。秋と言えば焼き芋ですね、食べたい。
おっちゃんは北条のじっちゃと小太郎にしようかとも考えましたが、
バサラキャラを登場させたことはないので、今回もただのモブで。
別に気にしてるわけじゃないですが、まあ何となくね…



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