↓続き
By 管理人:すーこ

「よ、来てくれたか」
指定の店に行くと、元親は嬉しそうに手を上げて挨拶してきた。元就はそれを無視した。
「悪いなぁ呼び出して。ああは言ったけど、来てくれるとは思わなかったぞ」
「……仕事に関わることゆえ」
元就はそう言ってふいと顔を反らす。それは誰でもない、元就自身に対する言い訳だった。
結局、元就はメモも未練も捨てる事が出来ず、元親に連絡を取った。彼は喜び、数日後の夕食の約束を取り付けた。
相手は営業先の人間、だから誘いを無下に断ることは出来ない。これは仕事の延長だ。元就はそう言い訳して、ここまでやってきたのだ。
元親への想いは、未だ捨てきれずに胸の中に残っている。だがそれゆえに、彼の顔を見る度に心の傷が疼いて胸が苦しくなるのだ。裏切られた怒りも悲しみも、彼を許すなと元就に訴えてくる。
元就は複雑な思いを胸に抱えていたが、元親はそんなことなど気にかける様子も無く、まるで昔のように元就に接した。
居酒屋のようなレストランで、二人で向かい合って食事をしながら様々なことを話した。と言っても、話していたのは元親ばかりで、元就の方は相槌すら碌に打っていない。
元親はそれすら楽しそうにしており、それが余計に元就の鼻につく。食事を奢ってもらわなければ、やはり来なければよかったと思っていただろう。
食事を終えて元就はすぐに帰宅しようとしたが、元親はそれを引きとめた。
「そんなにそっけなくするなよ。俺はもっと毛利と話がしたい。一緒にいたいんだ」
「我はそのように思わぬ。食事を奢ってもらったことには感謝するが、それ以上のことは望まぬ」
元就は掴まれた手を振り解こうとしたが、元親の大きな手からは逃れられなかった。それどころか、そのまま元親は歩き出してしまい、元就は彼に引きずられる形になる。
「何を、……手を離せ、長曾我部!」
うろたえた元就が怒鳴るが、元親は振り向こうともせずにずんずんと歩き続ける。裏路地へと入りこみ、人気のないところまで連れて来られて、元就はようやく不安になってきた。まさか、ここで何かされるのでは。
元親が振り向き、元就の警戒が更に強まった。うす暗い路地では彼の顔がよく見えず、何をするつもりでいるのか全く読めない。掴まれたままの手を引かれて引き寄せられ、殴られるのかと元就は思わず目を閉じた。
「……ん、ぐ……!」
だが、予想していた衝撃は訪れず、代わりに唇が熱い何かで塞がれた。それが彼の唇だと気付いて、元就は慌てて逃げ出そうともがいたが、元親の力に勝ることが出来ない。
それどころか、更に抱き締められて身動きすら取れなくなる。息も苦しくなって唇が緩み、それを見逃さない元親の舌が潜り込んできて更に口内を蹂躙された。
何故こんなことをするのか、元就には理解できなかった。彼の感触も体温も匂いも、キスの甘さですら元就には忘れられないものだった。忘れたくても捨てることができず、ずっと胸に秘めておきたいものだったのだ。
それを、今更引きずり出してどうするつもりなのか。また元就を騙して、嘲笑って傷つけるつもりなのか。
「っ、は、はなせ!!」
渾身の力で体を捻り、元就はようやく元親と距離を開ける事が出来た。塞がれていたため碌に呼吸も出来ず、息を吸い込むとじわりと視界が滲んだ。
それを誤魔化すためにぎゅうっと目をつぶり、元就はよろよろと後ろに数歩下がった。目を開けると、元親は僅かに離れたところからこちらを見ている。
「我はもう、貴様のことなど……!!」
「元就」
振り切ってしまうつもりだったのに、元親の声に元就は勢いを削がれて動きを止める。昔何度も呼ばれた声とその名を、彼は同じように呼んだ。
「元就、なぁ」
おいで、と腕を広げて、元親は笑みを向けた。元就はそれを強張った表情で睨んでいるが、体は逃げ出そうとした体勢のまま動かない。
今なら走れば逃れられる、と頭の中では考えている。これだけ間が空いていれば、腕を掴まれる前に走り去ることは出来る。追いつかれる前に人混みの中に紛れてしまえば、元親とて見つけることは出来ないだろう。
必死に自身の足に訴えかけるが、元就の足は動かない。元親がゆっくりと近づいてきて、元就はそれに怯えるように身を震わせるが、やはり足は動かなかった。
再び距離を詰められ、元親の腕に包まれた。元就が逃げないと思っているのか、彼の腕に力は殆ど籠っていない。だが彼の読み通り、元就は逃げようとはしなかった。もはや、その意思すら砕けていた。
「昔から、こうすると大人しくなるんだよな、元就は」
低く囁いて、元親は嬉しそうに小さく笑う。それに元就はびくりと震えたが、俯いたまま彼の肩に額を押し付けた。
逃げ出したい、もう顔など見たくも無い。そう思っていたはずなのに、彼の腕に抱きしめられた瞬間にそれらの思いは消え去ってしまった。焦がれ続けた腕に包まれて、元就が必死に張り続けていた意地と虚勢の糸はあっけなく切れてしまう。
「ああ、元就の感触だ。懐かしいな……」
元親は嬉しそうに呟き、少し低い位置にある元就の頭に頬を寄せてくる。彼の言葉に喜んでいる自分に気付いて、元就は頭の中でそれをがむしゃらに否定した。
怒鳴り散らそうと口を開けば、そこから零れたのは情けない吐息。それを勘違いしたのか、元親の掌が慰めるように頭を撫でてきた。
「元就、昔みたいにしてもいいか。久しぶりに、あんたを抱きたいんだ」
囁かれた言葉に、何と言って答えたのか。もう元就は、それすらおぼろげだった。



安いラブホテルに連れ込まれて、そのままなし崩しにベッドへ押し倒された。
ああ自分は了承したのか、と元就はどこか冷静に考えていた。元親に唇を塞がれても、もう抵抗する気にもならない。
「ん、ふ……く……」
厚い舌が元就のものに絡みついて、苦しさを感じて喉を鳴らす。忘れていたはずの感触を思い出して、現在と過去の感情が混合そうになる。
「ふ、は……はぁ……」
「相変わらず、キスは上手くねぇな」
口を離して喘いでいると、元親がおかしそうな呟きが聞こえた。馬鹿にされたことが悔しくて思わず睨みつけたが、彼の表情を窺うにあまり様になってはいないらしかった。
「悪い、からかったんじゃねえんだ。昔と変わらないことが嬉しくてな」
そう言って彼は元就の頬を撫でて、そのままその手を首筋へと滑らせていく。産毛をなぞるようにゆっくりと動くその手つきがくすぐったく、また別の何かを引きだされそうで恐ろしく感じる。
堪えるように元就が目をつぶっていると、既に脱がされていた上半身へと掌が移動しており、かさついた指先がじっとりと汗ばんだ肌を撫でていく。
他人に触れられることのない柔肌は敏感に反応し、声を上げそうになるのと元就は何とか堪えた。それを分かった上で観察している元親は、堪えるように口を閉じている彼の表情を楽しそうに眺めていた。
二人がまだ交際していた頃にも、こうやって体を重ねることは何度となくしていた。元親の方からやりたいと言いだし、それを元就は渋々ながら受け入れた。
元就は何度やってもその行為になれず、いつも振り回されてばかりだった。元親も同じように振り回されればいいのに、と何度も思ったが、それが叶ったことなど一度もなかった。
「いぁ、ああ……っ、やめ、そこは……!!」
「ここは元就の泣き所だもんな。可愛いなぁほんと……昔に戻ったみたいだな」
彼の手に翻弄されて喘いで、元就はまた昔のように釈然としない気持ちになった。あの頃はまだ彼を愛している分、それでもいいかと思えたが、今は違う。元親への不満も懐疑心も抱えている状態では、快感も素直に受け止められない。
「元就、ちゃんと俺を見てくれよ」
目を閉じていることが不満なのか、元親はそう言って再び元就の頬へと手を伸ばしてきた。顔を背けられないように掌で包み込むと、目を開けた元就は無言のまま目元を歪ませる。
「はは、怖い顔だな。……あのときは、可愛い顔で俺のこと見ててくれたのになぁ」
彼の視線を受け止めて、元親は苦笑しながらそんなことを言った。それを聞いて、元就の胸に再び苦い気持ちが広がっていく。
かれは先程から、まるで昔の恋人を懐かしむような発言ばかりしている。いや、事実二人は恋人同士だったのだからそれは不思議なことではないのだろう。
だが、元親は元就を裏切っている。元就を誤魔化しながら別の相手と付き合い、それを知られても詫びるどころか開き直ってこちらを非難してきたのだ。そんな相手の睦言など、嬉しいどころか空しいだけだ。
体は欲望に忠実で、彼の手によって与えられる快感に歓喜している。触れられたところに熱がこもり、それが股間へと繋がって肉棒に血が巡っていく。理性が融かされて、口からはだらしない嬌声が零れ続けている。
それでも、元就の頭は少しずつ熱が引いてきていた。彼の言葉の虚ろさが透けて見えるようで、何か言われる度に空しさが広がっていく。まるで胸の傷に冷たい風が吹き付けるようだった。
「あー、やっぱり狭ぇな……俺以外の奴とはしてねぇんだな」
嬉しそうに言いながら、元親は元就の後孔を指で押し広げてくる。嫌悪を感じる動作に元就は思わず逃れようとしたが、元親の空いた片腕がそれを阻んでくる。
本来とは違うことに使われようとしている器官を強引に解して、元親は腰を押し付ける。うつ伏せにされた元就は、痛みを予想してシーツを握りしめた。
「、う……ぐぁ……!」
粘膜を押しのけるように熱い塊が侵入してきて、元就は無意識に呻いてもがく。引き攣るような感覚とそれに伴う痛みが恐ろしくて、這うように逃れようとしてしまう。
それを阻むように元親の両手が元就の腰を掴み、逆に引きよせて更に陰茎を押し込んでくる。自分の意志に反して蹂躙される恐怖と激痛に、元就は身を強張らせて悲鳴を上げた。
「ん、何だ……あっさり入ったなぁ。やっぱり体は覚えてるんだな」
元親の方は苦も無く挿入できたようで、あっさり言って軽く笑っている。受け入れさせられた側の元就は、息も絶え絶えでシーツに顔を沈めていた。呼吸もままならぬ程の圧迫感で、吸っても吐いても中に埋め込まれたものを感じてしまう。
それに気付いた元親は、身を屈めて元就の背に覆いかぶさった。振動に再び喘いだ元就を宥めるように抱き締めて、耳朶を甘噛してくる。
それにすら反応してしまい、元就は荒い呼吸に喘ぎを混じらせる。気を良くした元親は何度も耳殻に舌を這わせて、震える元就の首筋に痕を残していた。
やがて律動が開始され、安いベッドがぎしぎしと軋み始めた。初めは痛みしかないため、元就はひたすら歯を食いしばってそれを堪える。これは昔から変わらず、初めてしたときは行為を了承したことすら後悔した程だった。
「……ぁ、や……っ、はぁ、ん……っ!」
やがて痛みの中に少しずつ快感が混じり出し、元就の呻きが嬌声に変わっていく。痛みに歪んでいた顔も少しずつ緩んで、やがて目元を溶かした淫靡な表情になっていた。
「色っぺぇな、元就ぃ……」
覗き込むように首を捻りながら、元親が低く囁いた。彼の声にも余裕はなく、元就の中を抉ることに夢中になっていることが読み取れた。
「ひ、ぁあ、もぅ、……っ!」
もはや正常な思考も出来ない元就が、登りつめていく感覚を訴えて元親の腕に縋りついた。自慰とは違う激しい快感に成す術もなく翻弄され、元就は幼子のように泣きじゃくった。
元親も絶頂が近いのか、軽口を止めてひたすら腰を打ちつけてくる。背中の皮膚から、彼の激しい鼓動が伝わって、元就は何故か無性に泣きたい気持ちになる。既に顔は泣いているが、それとは違う涙がこみ上げてきていた。
「うぁ、ああぁ……っ!!」
中のしこりを抉られて、激しい衝動が全身を走り抜ける。悲鳴を上げると同時に、元就の陰茎は精を吐き出した。
行為が久々だからだろうか、射精はすぐには止まらずいつまでもだらだらと垂れ続けた。吐き出す度にじくじくと疼く感触をどこか心地よく感じて、元就はそのまま脱力してベッドへと身を沈めた。
まだ咥えたままの元親が、中で射精しているのが感じられた。やめろ、と言うこともできず、元就は呆然としたままそれを飲み込んでいった。




元就が目を覚ますと、隣に元親が寝ていた。壁にかかっている時計を見ると、夜明けも近い時刻だった。
軋む体を起して、元就はベッドを降りた。未だ眠り続ける元親に背を向けて、脱ぎ捨てられた衣服を身につけていく。
彼が起きるのを待たずに、この場を去るつもりだった。起きて何か言われても、何と返していいのか分からない。たとえ卑怯だと罵られたとしてもかまうものか。
昨日の行為が未だ尾を引いているし、体も涙や汗、その他のものでべたべたして気持ち悪い。それでもすぐにここを立ち去らなければならない。風呂など自宅に戻ってから澄ませばいいのだ。そう思い、元就は身支度を整え終えた。
小さなテーブルに部屋の料金を置いていき、ゆっくりと部屋のドアを開けた。
「……もとなり」
背後から声をかけられ、ぎくりと硬直した。無言で振り向くと、ベッドに寝転がったまま元親がこちらを見ていた。
「元就、俺は……ずっとあんたが好きだったんだよ」
「……何を」
唐突な告白に元就はうろたえた。それを見て、元親はゆっくりと半身を起した。
「やり直さないか。もう一回、俺を好きになってほしいんだ」
微笑みながら元親は言った。その言葉に、元就は静かに怒りが膨れ上がった。
「……そうして、また我を弄ぶつもりか。滑稽な我を見て、嘲笑うのか」
抑えた低い声には、どこか笑いが滲んでいた。驚く元親へ向けて吐き捨てた元就は、顔を歪ませて笑っていた。
「我を愚弄するのも、いい加減にしろ!」
それだけ言って、元就はドアを開いて部屋を飛び出した。急に動いたことで体中が痛み出すが、それすら構わず足早に廊下を駆け抜けた。
ホテルを後にして、薄暗い裏路地を一人で歩く。もうすぐ夜が明けて明るくなる、またいつもの日常が戻ってくるのだ。
最寄り駅へ向かうためにひたすら足を動かしていた元就だったが、やがて立ち止まって俯いた。
「……もう、忘れさせてくれ……」
彼は呟き、小さな啜り声と共に目元を拭った。




一人残された元親は、ベッドに再び寝転んで煙草を吸っていた。
商談のときに、元就は煙草を嫌っていると見抜いていた元親は、昨晩からずっと煙草を我慢していたのだ。ようやく吸えてほっとするものの、思ったほど煙草は美味くなかった。
「……今更罰が当たるなんてなぁ。日ごろの行いが悪いせいか……」
煙草を咥えて、元親はぼんやりと呟いた。煙を吐き出し、それが空中に消えていくのをじっと見る。楽しいものでもないが、今はそれしかすることがないのだ。
「嘘ばっかついてきたせいで、何言っても嘘に聞こえるんだな」
軽く言って笑い、元親は再び煙草を咥えた。灰に満ちる煙がやけに苦く感じられて、溜息とともにそれを吐きだした。









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某所でお題が出たので書いてみた。
BLのはずが、何この昼ドラばりのドロドロ関係…
いや、どろどろしてる瀬戸内は好きなんですけどね。私が書くとどうも何と言うか……清潔感が無い。
いやどろどろに清潔も不潔もないけども。あーうー!

お題は『嘘の上手い鬼畜攻めと昔攻めを手ひどく振った真面目受けが濃厚なキスを交わす』でしたが
妄想が暴走しすぎてお題何にも関係ない話になりました。
まだまだ修行が足りませんなぁ……




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