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[1] 闇の中二人で
By ケイさんHP
ケイさんリンクお礼

お題は「痛くして」

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[2] By 管理人
「ねぇ、痛くして」

熱をもった潤んだ瞳で由里は僕に懇願する

「変な本の読み過ぎじゃないの?」

僕は彼女の本気を知っていながらそれが彼女の冗談であるかのようにはぐらかし笑ってみせる。
困難だとしりつつ、それを笑い飛ばす事が出来たらどんなにかって思う。

「ねぇ、痛くしてよ」


懇願する由里のほっぺをつまんでびよーんと引っ張ってみる、

「こーゆうの?」


由里はニコりともしない。

「ひはふしてよ、めひゃめひゃにしてほひいの」


ほっぺたを引っ張られた間抜けな顔で、それでも刺すような瞳にやどる熱はどうしたって消えなかった。


僕は大きく溜め息をつき、由里のほっぺたを摘んでいる手を放す。

「なんなんだよそれ、痛くとかできないよ」


「どうして?」


「うーん。君は僕にとって守るべきお姫様だから?」


「なにそれ…きもい」


心底軽蔑するような恐ろしく冷たい声。だけど僕はへこたれない。ここで諦める訳にはいかない。

「一生君を守り続けるよ。姫」


僕は由里の右手をとりうやうやしく手の甲に口付けをする

「いらないよ」


由里は僕の手を振り払う

「一生君に忠誠を尽くす事を誓うよ。この剣にかけて!」


「うん。それ孫の手だけどね」



「…………」


「…………」



「どうして痛くしてくれないの?Sなんでしょ?」

由里は不満げに呟く


「Sだからだよ。君の喜ぶような事はしてあげない」


「ふーん。意地が悪いね」


「今更気付いたんだ。遅いよ」


僕は意地悪く笑おうとしたけどやっぱりうまくは笑えていなかったかもしれない。

「…意地悪」


「うん。意地悪だよ」


「…ドS」


「うん。ドSだよ」


「…変態」


「うん。変態です」


一瞬笑おうとしてうまくいかず、由里の表情は暗くかげる。


「どうして…?」


彼女の肩が震える。


「ねぇどうしてよ」


彼女の声が震える。


「どうしてめちゃくちゃにしてくれないの?」


由里の周りの空気が悲しみに震えだす。


僕は結局諦めて由里の小さな頭をだきしめる。
由里が顔を埋めた胸のあたりがじんわりと熱く濡れていくのをかんじる。

「私怖いの」


「うん。知ってる」


「怖くて怖くて仕方がないの」

「うん。知ってる」


「君に迷惑をかけたい訳じゃないんだ」


「わかってる。迷惑なんかじゃないよ」


「自分でもどうしていいか分かんないんだよ」


「わかるよ。大丈夫だから」


嗚咽を漏らし震える背中を子供をあやすみたいにそっとなでる


「壊れそうなの、バラバラに崩れそうで怖いの」

「大丈夫。壊れたりしないよ」


「耐えられないよ、ひとおもいに君が私を壊してよ」


「大丈夫、大丈夫だから」

触れれば壊れてしまいそうな華奢で繊細な小さな頭をぎゅっと抱き締めて胸に押しつける


「どうして楽にしてくれないの?」
絶望したように力なく由里は呟く


「君の事を愛してるんだ」

愛なんて言葉に何の意味などないと由里は僕をなじるかもしれないけど、僕にはそう言って彼女を抱き締める事しかできない。血が滲むほど強く強く唇をかみ締める。自分の無力さに不甲斐なさに意識が飛んでしまいそうなる、今まで一度だって感じた事もない自分自身に対する強い怒り。

「ねぇお願い痛くしてよ?」


「俺には無理だよ」


「私を壊して」


「出来ないよ」


「だったら私を助けてよ!」


由里は泣きながら、傷だらけの細い右腕で僕の胸を力なく叩く。
僕は何も言えずただ彼女を抱き締め続ける。

どこにも逃げ場などない暗闇が二人を包みこんでいる。
由里を蝕む闇は二人にまとわりつく漆黒よりさらに黒く、僕の心すら浸食し、やがてすべと飲み込むに違いない。
だけどそれで由里の心が少しでも軽くなるなら、僕は僕の全てをささげたってかまいやしない。
僕は祈るような気持ちで由里のおでこに優しくキスをする。

絶望にも似た真っ暗な

闇の中で。

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