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[1] 人生の夏休み
By 鮎川さんHP
鮎川さんリンクお礼

お題は「夏休み」

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[2] By 管理人
ある日突然自分の周りにある全てが恐ろしくなる。世界が自分自身に対する悪意に満ち溢れているのに気付いてしまう。
明らかな過大妄想。
それがわかっててそれでもどうする事も出来ない。
人間が怖い。人込みがこわい。みんなが僕を馬鹿にして笑っている。
そうして僕は一歩も外に出れなくなる。
めでたく僕も「引きこもり」と呼ばれる人々の仲間入りである。

「さしみさんは十六歳だっけ?若いからまだいいよ」

そう言ってカラスさんは笑う。笑うと言っても文字上のコミニケーションなので僕が勝手に笑ってるって思い込んでるだけなのだけど。

「さしみ」

それがネット上での僕の仮の名前。

「若いからって外に出る事ができない苦しみが減るわけじゃないですよ」

僕は反論する

「それはそうだけど年をとればとるほど社会復帰は難しいらしいからね。周りの目もきつくなるし、肩身もせまくなる」

カラスさんと僕は引きこもり専用の掲示板で知り合った。人が怖くて仕方がないのに、それでも独りぼっちが寂しくて、まるで藁にも縋るように電子の網にしがみつく僕達。
ひどく滑稽ではあるが、全然笑えやしない。

カラスさんは20代後半の引きこもりだ。僕と同じようにある日外に出る事が怖くなり、今は貯金と失業保険で何とかやりくりしているらしい。わざわざ確認するまでもなく「カラス」も当然彼の本名ではない仮の名前だ。
知り合って三か月ほぼ毎日会話しているが僕が彼について知ってる事は恐ろしく少ない。彼は自分の事を多くは語らないし僕も聞かない。
おすすめの本やDVDの情報の交換。それが僕達の会話の大半を占める。何しろどうやって時間をつぶすかと言うのは引きこもる際の切実で重要な問題である。
僕達がこんな風にそれ以外の話をする事はとても珍しい事だった。

「僕はこれを人生の夏休みみたいなもんだと思ってるんだ。」

カラスさんは言う。


「人生の夏休み…ですか?」


「逆立ちしたって僕達が外に出る事が出来ないって事実は覆せない。だったらポジティブに考えた方がよいだろ。僕達は他の人より深刻に物事を考え過ぎる、ひどく心が疲れやすい。だからこれはきっと僕達に必要不可欠な正当なお休みなんだよ。」

「でも永遠に続く休みなんかないんですよ。休みが終わった後にたまった宿題に苦しめられるってのもよくある話です」


「だからといって残された宿題の事ばっかり考えてせっかくの夏休みを楽しまないって手はないだろ?」


「なんだか詭弁っぽいですね」


「まぁ、ごまかしだよ」
そう言ってカラスさんは寂しげに笑った(ような気がする)


夏休み。
なつやすみ。
ジンセイノナツヤスミ。

くらい部屋モニターの前で呪文のように呟いてみる。

僕は海水浴なんて行かない。何しろ人込みが怖い。だけどこうして電子の海の波打ち際で孤独を埋め合うように誰かと戯れる。

人生の夏休み。ね、


現実が何一つ好転するわけでもない詭弁だけど、ごまかしだけど、そういう考え方だってあるのかもしれない。

十六年生きて来て有意義な夏休みなんて僕は一回だっておくれたためしなどないのだけれども

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