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ナタルの約束
By 鋏さんHP
鋏さんリンクお礼
お題は「白雪姫」
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By 管理人
くらい森の中に微かに明かりがともって見える。生い茂る葉っぱの隙間から漏れ出る暖かな光、、肉の焼ける香ばしい香り、遠くから自分以外の6人の兄貴達の陽気な歌声が聞こえてくる。
くだらない、何が楽しくてそんなにはしゃいでるのだ、
宴の明かりから少し離れた場所でナタルは苦々しく思う。
暖かな光の届かない森はいつもと変わらず静寂と暗闇に支配されて、宴の喧騒がまるで別世界の出来事のように感じらる。
一体何が楽しいのだ
もう一回つぶやいて、右手でポケットの中のそれを握り締める。同時にガサガサと後ろの茂みが揺れてナタルは慌ててポケットから手を出し後ろを振り向いた。
「ドービー兄さん」
茂みのほうから出て来たのは、ナタルと同じような背丈、同じ格好(奇妙にとんがった帽子、白いシャツに、ぶかぶかした緑のズボン)をした小人だった。
「何やってんだよこんなところでお前は」
呆れたようにそう言ってドービーと呼ばれた小人はナタルの横に腰掛けた。
「最後くらい素直になれないもんかね。スノーが心配してたぞ【私はナタルに嫌われてるんじゃないか】ってな」
ナタルはキュッキュッと音を立てて三角帽子を深くかぶり直す。
それはバツの悪さをごまかす時のナタルの癖だ。
「本気で惚れてたとか?」
ニヤけながらドービーが尋ねる
「ばっ!なっ!なっ!そそんなわけねーだろ!」
ドービーはわかりやすく狼狽する弟にしばらく苦笑した後、一変して少し悲しげにほほえむ。
「俺たちも寂しいさ、お前だけじゃなく、みんなスノーの事が好きなんだ。」
そう言ってナタルの肩に軽く手を乗せる。
「あの子が幸せになるんだ。お前も大人になって笑って送り出してやろう。わかるな?」
ドービーの腕がいたわるようにポンポンとナタルの肩を叩く
「兄貴達と一緒にすんなよ」
ナタルは肩に置かれたドービーの腕を払いのける。
「俺は別にあんな奴の事なんともおもってねーよ」
帽子を深くかぶり直しながらナタルは吠えた
「やれやれ素直じゃない」
ドービーは大袈裟に溜め息をついて見せる。
「とにかく、明日にはスノーは城に行っちまうんだ。」
そう言ってドービーは立ち上がる
「ひねくれて見せるのも結構だが、一言ぐらいスノーにお別れの言葉をかけてやるんだぞ」
後ろからドービーが怒鳴ると、ナタルは振り返りもせず無言で手をあげてヒラヒラと振って見せた
「まったく可愛げもない…」
ブツブツ言いながらドービーの気配が遠ざかっていくと、辺りはまた暗闇と静寂の世界に立ち戻る。
ナタルはポケットに手を入れ、中の物を握り締めると、ゆっくりと右手をポケットの外に出した。
指の隙間から淡い緑色の光が漏れだし、森の闇に滲み出していく
どのくらいの時間がたっただろうか。
ゆらゆらと揺れる光をぼんやりとみつめていると背後の茂みがまたカサカサと音をたてた。慌ててポケットに右手を戻し、また兄貴か。そう思って振り返る。しかしナタルの予想は裏切られ、茂みから出て来たのは、澄んだ湖のような黒い瞳と、せせらぐ小川のようになめらかな黒髪を持つ美しい少女だった。
「す、スノー何やってんだよ、こんなところで」
「抜け出して来ちゃった」
笑いながらスノーはナタルの横にちょこんとこしをおろす。
「来ちゃった。ってお前の送別会だろ」
「だって。ナタルが来ないから…。」
スノーは拗ねたようにモゴモゴと呟く
「そんなの俺の勝手だろ」
「ナタルはやっぱり私のこと…嫌い?」
消え入るような小さいこえでスノーは尋ねる。
ナタルはスノーを避けるようにそっぽをむくとキュッキュッと帽子を深くかぶり直した。
「…嫌いだよ」
ナタルの一言でスノーの美しい顔が悲しみに歪む。
「どうして?」
「最初から反対だったんだよ俺は、人間を、お前を、森にいれるなんて。だけどお前に同情した兄貴達がどうしてもってゆうから…。だいたい家事やら何やらの労働力が増えるからって理由で説得されたんだぜ?なのにお前ときたら料理も洗濯も出来ないし。逆に手間が増えるっつの。………迷惑………なんだよ。」
「ごめんなさい」
うつむきながらスノーが謝る
「…別にいいけどさ、もう」
二人の間に沈黙が訪れる。
星達の輝きはどこか嘘っぽくのお菓子のようで、どこかちぐはぐな印象を与える三日月が静かに歪んだ夜を照らす。
どこか遠くからホーホーとフクロウの声だけが唯一確かな現実をつなぎ止めているように聞こえた。
「わたしはね…」
沈黙に小さい穴を開けるみたいにスノーが囁く
「わたしはナタルに感謝してるんだよ。迷惑ばっかかけたかもしれないけど私の知らないいろんな事を教えてくれたし。私がお父さんやお義母さんの事思い出して悲しくなってるとき、励ましてくれたでしょ?言葉は悪いけど、でもナタルの優しさにいつも私助けられてたんだよ」
「別にはげましてなんかねーっつの」
スノーの方を見ないでナタルが答える
「でも嬉しかったんだもん。最後ぐらい仲良くしたいんだもん。嫌わないでよ。バカ」
言いながらスノーの瞳からボロボロと涙がこぼれ出す。
「わっ。ばか。泣くなよ。ず、ずるいだろ」
「嫌いって言うな」
「言ってないよ」
「いってたじゃん」
「あ、あれはなんつーか。だって。そーゆーのじゃなくて。お前が出ていくとかゆーから…、って、べ、別に寂しくって言ってんじゃないからな、ただやっと楽できると思ってたのに色々教えた苦労がもったいないってそれだけだからな。」
「うん。でもね…」
私は寂しい
スノーは悲しげに星達を見上げ、ナタルは俯いて地面をみつめた。
月明りに照らされたスノーの頬に一筋の滴が流れる。深くかぶった帽子のつばに遮られナタルの表情はわからない。
「ねぇ。お城に行ってもまた皆に会いに来ても良いよね?」
「……」
ナタルは一瞬だけスノーを見上げる
スノーの澄んだ瞳にナタルの瞳が映りこむ、悲しみに滲む冷たい瞳。
「それはだめだ。」
そう言ったナタルの声は氷よりも冷たく夜の闇に溶け込んで。そして消えた。
「人間の世界に戻れば森はもうお前を受け入れない。あるいは受け入れたとしてもだ、どちらにせよお前は俺達とは違うんだよ。」
「もう皆には会えない?」
「ここは元々人間のいて良い場所じゃない。お前はあの王子と幸せになるんだろ?だったらお前はお前の居場所で幸せになれ。兄貴達はお前が幸せになる事を心から望んでるよ。たとえもう二度と会えなくなったとしてもだ」
「ナタルは?…ナタルももう二度と会えなくなっても平気?」
俺は…
ナタルはゆっくり立ち上がるとポケットから何かを握り締めそっとスノーの手のひらに乗せる。
白く華奢な手の上で緑色の宝石が淡く輝きを放つ
「これは?」
美しい光りに目をほそめながらスノーがたずねる。
「兄貴の話じゃ森の守り石らしい。最近じゃもう見つからなくなった力持つ宝石で、持ち主に幸運を導く。」
ナタルは深く深くキュッキュッと帽子をかぶり直す
「それ。やる」
「えっ。でも…」
言いかけるスノーをナタルの言葉が遮る
「俺には必要ないから。やる。いーから。もってけ。そのかわり一個約束しろ」
「約束?」
「今までの不幸も全部帳消しになるくらい、そんぐらい幸せになれ。絶対。約束しろ」
そう言うとナタルはスノーに背を向けて2、3歩はなれる
「ナタル…」
「もう行け。兄貴達が心配する。」
「でも…」
「もうやるもんはねーよ、行け」
ナタルは近寄ろうとするスノーに冷たく言い放つ、しばらく迷ってから、スノーの足音はゆっくりとナタルから遠ざかって行った。
ナタルは大きく溜め息を付いて、それから溜め息を振り払うみたいにブンブンと大きく頭を振った。
しばらく手のひらに残る緑色の光の残視をみつめ、それから月明りの薄暗い闇の中でもう一度大きく帽子をかぶり直した。
不意にナタルの後ろからがさがさと茂みの揺れる音がする
「ナタル。ありがとう。私約束する。幸せになる。絶対。」
遠くから振り返り泣きながらスノーが叫ぶ
ナタルはスノーに応えるようにうしろむきのまま手を挙げてヒラヒラと振って見せた。
その後白雪姫は王子様と結婚し幸せに暮らしました。
白雪姫は小人達に会うために何度か森に出かけましたが小人達の住む森は見つからず、二度と白雪姫と小人達が再会する事はありませんでした。
(おしまい)
【追記】
白雪姫が死んだあと彼女が死ぬまで大事に身に着けていた宝石は白雪姫の娘に受け継がれ、娘が死ぬとそのまた娘に引き継がれていった。そうして持つものを幸せに導くその宝石はやがて王家に伝わる宝となる。
くらい闇の中どこか悲しげな淡い緑の光を放つ宝石。
その宝石の名は
『ナタルの約束』
という。
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