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ありがとうございました
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廃 ⇔ 狂
By 【千切れた記号】





先生!!



普通科

出席番号 24番

須田■子女史が

眼を掻き過ぎて

山羊に成つてゐます!



彼女は山羊なので

最早言葉を発せない為、

是より私

普通科

出席番号 24番

手塚■紀が

彼女の気持を

些か誇張気味に

代弁 致します!



私が思ふに彼女は

こう考へてゐます!



『今日もまた

空が青ひ亊に絶望し、

幾重もの輪廻に敬礼。』



詰まり彼女は

商業科

出席番号 31番

高瀬■実女史に因る

私(須田■子≒手塚■紀)への

【性的虐待】が厭で

絞首刑にシテ

殺りたいと

考へてゐるやうです!



山羊に成つて仕舞つた

彼女の気持を

尊重し 是より

商業科

出席番号 31番

高瀬■実女史を

処刑しに參ります!












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By 管理人
「藤吉は頭がおかしい」

旧校舎の一番端。校庭からも新校舎からも最も離れた場所にある図書館には、昼休みを謳歌する生徒たちの声もとどいてこない。静寂が支配するその部屋は他の世界から断絶された異世界のようだ。すべての生き物が死滅して取り残された世界。
静寂の中聞こえる音は、古ぼけたエアコンが風を送る音と、藤吉がパラパラとページをめくる音だけだ。

黒い表紙のやたらぶ厚そうな本。何の本を読んでいるのだろうか?
ここからでは確認しようもなさそうだ。
気になるならもっと近くに寄ってみればいいのだろう。そもそもそれ以前に「何読んでるの?」と尋ねるほうが自然だろう。
しかし彼女を包み込む人を寄せ付けないオーラが僕を躊躇させる。実際彼女は教室でも一人でいることが多く、あまり社交的とは言えない。当然クラス替えをしたばかりの僕達はまだ一度も口を聞いたことがない
だからと言ってこのまままわれ右して出ていくのもなんだか不自然な気がする。一応同じクラスなんだし。
困って周りを見渡す。図書館の中には藤吉以外見当たらないようだ。
何となく旧校舎の探索をしていただけで特に図書館に用事があるわけでもない。
どうしようかなー。
とそんな風に悩んでいたら

「…矢野君…」

いきなり名前を呼ばれてびっくりする。
気づけば藤吉は本を閉じてこちらを見ている。
その時僕は初めて違和感に気づいた。
それが何に対する違和感なのかわからない。
はじめて彼女の声を聞いたせいかもしれない。
この図書館に漂う一種異様な空気のせいかもしれない。


「…矢野君…」

もう一度彼女が僕の名前を読んだ。
さっきまでまるで僕の存在を無視し虚ろに本だけを見つめていた瞳がまっすぐに僕をとらえる。

正直ぞっとする。

違和感の正体がわかった。明らかに彼女の瞳は正気の人間のそれには見えない。瞳の奥底には隠しようもない狂気が揺らめいてる。小さい頃昔話で読んだ恐くて仕方無かった怪物。想像上の産物であるそれは、たしかこんな眼をしてなかっただろうか。

「…佐野君…知ってる?」

藤吉はじっと僕を見つめたままたまゆっくりと口を動かす。
何か言おうと思うのにうまく言葉が出ない。呼吸がどんどん苦しくなっていく。自分自身の心拍数が高鳴っていくのがわかる。
これ以上は危険だ。頭の奥にエマージェンシーコールが響く。なのに視線をそらすことができない。彼女の瞳の奥にある狂気が僕を逃がすことを許さない。魔女の瞳。


「ねぇ、佐野君、この世界は偽物なんだよ」

彼女は唄うようにつぶやく。
僕に話しかけてるというより、彼女の前にある空気に話しかけるように。

「だからね、全部偽物なの」

そういって藤吉はいたずらっぽく笑う。
邪気のない笑い。それが余計に僕の背筋をチリチリと震わせる。

「なにそれ?あ、なんかの小説の話とか?」

なんとか震える声を隠して、僕は答える。

彼女は何も答えない。

そうして再び静寂が空間を支配する。
静寂に支配されたその部屋は他の世界から断絶された異世界のようで。
すべての生き物が死滅して取り残された世界で、僕らは長いこと見つめあっていた。


放課後。ぐったりと机の上にうつぶせになった僕の頭の上を、クラスメイト達の声が通り過ぎていく。部活の準備をする奴、帰ってからの遊びの計画を立てる生奴、教室に残って雑談をする奴。この騒がしい教室があの静寂が支配する図書館と同じ学校内だとはにわかに信じられない、こちらの世界は少し騒音が多すぎる。今の僕にはそう感じる。だけどきっとあの異様な空間と比べたらこっちのほうが全然まともなんだろう。

伏せていた頭を少しだけ持ち上げると視界の端に藤吉が一人本を読んでる姿が見える。
授業からの解放感に浮かれる教室の中で彼女の周りだけなんだか空気が淀んでる気がした。図書館で藤吉が僕に言った言葉は一体何だったんだろう。

重い頭をさらに持ち上げて椅子の背もたれを支点に後ろ側にそりかえる。逆さになった視界に入る雑談をしている数人の男子生徒、その中に探していた相手を見つける。

「かわはらー。ちょっといい?」

僕が話しかけると

「何やってんのおまえ?」

河原は逆さの僕を見て、笑いながら答えた

「ちょっと聞きたいことがあるんだけど?」

「ん?なによ?」

「っていうか、この姿勢はきついんで、出来れば近くに来てくれると助かる」


「なんだそりゃ」

苦笑しながら河原は僕の前の席に腰を掛ける。

「で?」

「河原って確か藤吉とかと同じ中学だったよな」

「ん」
河原は軽くうなずく

「中学時代の藤吉ってどんな風だった?」


僕の質問に河原は
一瞬怪訝な顔をしてそれからしばし考え
合点がいったという感じに、にやにやと口元を緩める。


「なに?矢野ってそうなの?」

俄然興味を示しだした河原が身を乗り出してくる


「<そう>ってなに?」


「またまたわかってるくせに」

そう言って僕の肩を小突く

「や、わかんない」

僕は答える

「素直になれば俺も協力してやらないこともないかもよ」

言いながら僕の肩をぽんと叩く

「お前の想像してるようなそういうんじゃないよ」


予想はしててこととは言え
河原の直情的な思考にあきれながら答える


「じゃあなによ?」

「だから僕は藤吉がどんな奴なのか興味があるだけだって」

「ほら、だからそういうことだろ」

河原は勝ち誇ったように笑う
河原のいう「そういうこと」
と僕が「興味がある」というのは微妙に違う気がするのだけど…
だけどそれがどう違うのかと説明しろと言われれば
僕にはその違いをうまく説明することができない。

それとも河原が言うように
僕の藤吉に対する興味というのは「そういうこと」なのだろうか?
ううむ

「まぁ、照れるな、照れるな。しかし藤吉かー。藤吉ねー」

いいながら少し困ったような顔見せる

「今はまぁましになってるけど中学時代のあいつはひどかったぜ」

「ひどい?」

「まぁひとことで言ってしまえばだな」

そこで少し言葉を区切る

「藤吉は頭がおかしい」

「頭がおかしい?」

「実際うちの中学じゃ結構な有名人だったよ。なんかよく一人でブツブツ独り言いってたり、何の脈絡もなく話しかけて来たと思ったらわけわかんないこと言いだしたり、学校になんか気持ち悪い写真ばっかり載った本を持ってきてて問題になったこともあったし…」

言いながら藤吉のほうに視線を送る。
はたから見る分にはごく普通の地味な女子生徒という感じだ。
だけどたぶん普通ではないのだ。
図書館で見た彼女の瞳に浮かぶ狂気を思い出して背筋が冷たくなるのを感じる

「まぁ、俺だったらあいつはパスだなぁ。矢野には悪いけど」

「別に悪くないけどな…」

「藤吉は俺のものだ!お前なんかに渡さない!とかそういうの?」

なんかいちいち否定するのもめんどくさくなったので、河原の言わせたいよう言わせとく

僕自身がクラス内のゴシップなど興味ないので、自分の事が誰にどのようにうわさされようとあまり気にもならないし、河原はこんな感じのお調子者のバカだけど、こういう話を面白半分に広めまわるような馬鹿でもない。たぶん。

「まぁ俺も直接しゃべったことはないし、噂でしか藤吉の事は知らなかったんだけどな」


「おーいまだおわんねー?」

後ろのほうで河原を待っていった木根と堤が声をかける。


「ま、がんばって」
言いながら僕の肩を叩く。
何をどう頑張ればいいのかよくわからないがめんどくさいので適当に僕がうなずくと、
なぜだか河原は満足そうにほほ笑む。なんかしらんがムカつく笑みだ。まぁ我慢。
河原はいったん僕に背を向けて待っていた友人たちのほうへ向かいかけ、それから何かを思いだしたように振り返りまた僕のほうへもどってくる

「これもまあ噂なんだけどさ…」

河原は言うべきか言わないべきか迷ってるという感じで柄にもなく声を落とす

「中学時代は藤吉いじめられてたたらしいよ」

まぁそんだけ風変りならそういうこともあるだろうと妙に納得してしまう。学校というやつは異物は問答無用で排除しようとする案外シビアな社会だ。僕のいた中学でもうんざりするほど同じような事例は目にしてきたから彼女がどのように排斥されたのかが実際見たかのようにリアルに想像できる。

「んでさ、中心になっていじめてたのがうちのクラスの井上あたりのグループらしいんだよね」

井上っていうと、あの井上真紀のことだろうか?
クラスでもわりと目立つポジションにいる美しい女の子だ。
別段仲の良いわけでもないけど、明るく社交的でいじめとか陰湿なことをするようには見えないけども。女の子って恐ろしい。

藤吉は相変わらず一人黙々と本に没頭している。なんとなしに眺めてると、こちらの視線にきずいたのか藤吉が振り向く、急に視線を外すのも不自然中がしてひらひらと手を振ってみたのだけど、あえなく無視されて、何事もなかったかのようにまた本の世界に戻って行ってしまう。

変な女。

あの図書館での一件は一体何だったのだろう?
あまりのつれない態度に幻覚や幻聴の類かと自分自身を疑ってしまう。

何となく視線を感じて、振り返ると、井上と何人かの女の子がこっちを見てる。
何となく嫌な感じ。
なんかよくわからないけど知らんうちにめんどくさい事に巻き込まれてる。
そんなような気がする。








それから何かが変わるということもなく、僕と藤吉の距離は近づくことも遠のくこともなかった。結局あの図書室での一件が何だったのかわからずじまいでひどく気にはなるのだけど、それで別段困ることがあるわけでもなく、だからまぁこのまま時間がたてば忘れてしまうのかな?とも思う。そもそもあれって実際あったことなのだろうか?何の変化もなく繰り返される日常に、そんな考えさえ浮かんでくる
だけどもう一方であれは確かに起こったことで、決しておざなりにしてはいけない大切な出来事だというわけのわからない確信が自分の中にあって、どうにも気持ちが悪い。


藤吉本人に直接なんだったのか聞くのが一番早いんだよな。

わかってるんだけど実行できないまま今日も授業が終わる。

まぁ、別にどうしても聞かなきゃいけないってわけでもないしな。
誰にとでもなく言い訳をして、鞄に道具を積める。何となく視線を向けると藤吉の机はもう無人でもう帰ってしまったらしい。
なんなんだろうなぁこの気持ち悪さは、気がつけばいつも藤吉のことを考えていて、これではまったく河原の勘違いをバカバカしいと笑えない。

階段を下りて、廊下を曲がったところで、思わず足を止めた
靴箱の前に藤吉がいた。
藤吉は靴箱の前でしゃがんだりせのびをしたり挙動不審な動きを繰り返してる。一瞬コミカルな動きに頬が緩むが、藤吉の泣きだしそうな切羽詰まった表情にはっとする

「藤吉さん?」
僕が声をかけると、ビクリと背を震わせ
ひどく驚いた表情で藤吉は振り向いた

「なんか慌ててたみたいだけどどうかしたの?」

僕が尋ねると

「別に」

そう言って泣き出しそうな顔のまま藤吉は平静を装う。
僕は彼女の眼を覗き込む。あの日あの図書館で見た彼女の瞳の中にあった狂気はかけらも見つけることが出来ない。
彼女の靴箱に近づき扉を開く、中には「バカ」だの「死ね」だの「ブス」だのありふれた悪口が油性ペンで書きなぐられた藤吉の靴が片っぽだけ残されていた。

「なにこれ?」

僕が藤吉に尋ねると

「さぁ?」

彼女はさも何でもないことのように演技を続ける。だけどそれが彼女にとってどうでもいい事ではないことなのはわかりきっている。痛々しい虚勢だ。

「誰がやったのか心当たりとかある?」

「別にいいよ、どうでも」
藤吉はどうにかして僕から視線をそらそうとして不自然に脊を向ける

下らなさ過ぎてあきれてしまう。高校生にもなってこんな程度の低いいじめをすること自体に呆れかえる。だけどそれ以上に藤吉の反応に失望し頭にきてる自分がいる。


「どうでもよくはないんじゃね?」
意識しない自分の声の意地悪さに我ながら少し驚く。僕はいったい何にいらついているのだろうか?

少しだけ藤吉は沈黙し

「言ったでしょ?この世界は贋物だって」
それから背中を向けたまま僕に告げる
あの図書館で聞いたあの時の声色、現実感の薄いうつろな響き。
だけどもう僕に魔法は掛からない。今さらどんなに繕って見せようとネタのばれた手品みたいなものだ。

僕は無理やり藤吉を振り返らせその瞳を見つめる、狂気は、怪しい光は、魔女の瞳はそこに見だせない。そこにあったのは逃げ場を求めてさまようだけの臆病そうな瞳だけだ。

「そんなこと、これっぽっち信じていないくせに」

彼女の耳元で僕はつぶやく。

彼女は真っ赤になって僕の手を振り払い、校舎の扉をあけそのまま校庭にかけていく。
結局上履きのままかけていく彼女がひどく滑稽に思えた。

くだらない。と思う。
同時にこんなもんだよな。とも思う。
もっと面白い展開を期待していたけど実際そうそう特別なことなんてあるわけもなく
、ありがちで陳腐なストーリー。

彼女は頭がおかしいわけではない。
彼女はひどいウソつきだ。ただ本当にそれだけだ。
自分自身すら騙して、頭のおかしなふりをして、ちっぽけな自尊心を守っているにすぎない。
自分は人と違うから、そうやって壁を作って、自ら一人でいることを選んで一体どうなるっていううんだ、彼女が現実をごまかし続ける限り、現状は何も変わりやしないのだろう。彼女がちっぽけなプライドを守るために狂人の振りをするのは、僕にはひどく稚拙で馬鹿らしい行為に思える。そんな痛痛しい欺瞞をだれが肯定し理解するっていうのだろうか、
















だけど
だけど
だけど

僕なら
僕だけは
彼女を理解しわかってあげられるんじゃないか?
彼女の助けになれるんじゃないだろうか?










そんなことを考える僕のほうが彼女より何倍も。何倍も痛々しい。
そんなのはわかりきっているのだけど。


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