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投稿小説短編集
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[001] わんわん?パニック!4
By アメリカ兎
2013-12-21 10:15:09
 ハーベルグ宅。いつものようにマスターの家に集まったメンバーがテーブルを囲んでいた。
 レオ。毎度のように入り浸りながら何をしに来たのかと聞かれれば、しろろがリョウカと仲良しなので二人のくんずほぐれつきゃっきゃうふふな姿を見て和みに来ている。
 ファルド。たまたま休暇を取っていたなのはと共に来た――というのは名目であり、実際はレオに半ば誘拐されてきた。どことなく不機嫌そうなのは休みだからだろうか。
 透羽。レオ、以下略。

「マスター、飲み物くれ」
「ほらよ、お湯」
「だったら水よこせ!」
「俺はコーヒーで」
「じゃあ僕は緑茶」
「統一しろよ毎回ながら!」
「でも用意するんだな……」
 それぞれの目の前に置かれた飲み物が用意される。


 ドキッ☆男だらけのわんわん★パニック!!


 まるで隔離された施設のように、四人は連れの女性達とは離れてテーブルを囲んでいた。なお、その様子は隣の女性陣に筒抜けである。まずは用意されたそれぞれの飲み物を一口。

「誰が得するんだこの状況。男しかいねぇ」
 レオが開口一番、愚痴を漏らした。なら帰れよとはマスターの思いであり、ならばなぜ俺を連れてきたのかとファルドは横から一瞥する。透羽はお茶を冷ましている。

「ならなぜ俺を呼んだ?」
「だったら帰れよお前」
「ふー、ふー……」
「このメンツ、透羽でしか癒されねぇ!!! 助けてしろろ!」
 隣の女性陣に助けを求めても声は届かない。リョウカとしろろが並び、なのはと幽香が優雅に用意されたお茶を飲んでいた。

「しろろは遠目からでも可愛いな」
「お前単純でいいよな」
「マスター、お前が難解すぎるんだよ。頭どうなってるんだ」
「脳みそ詰まってるぞ」
「てめぇ!」
 当たり前の反論が飛んできて思わずファルドが声を荒げる。隣の女性陣ではキャッキャウフフと楽しげな会話をしているというのに野郎どもの集まりは華もなにもなく、強いて挙げればドロドロとした雰囲気のようなものすら漂う。そんな状態に気づいていても透羽はのほほんとしていた。

「違うんです犬のおまわりさん。俺はただ笑うしろろが見たくてここに来ただけなんです」
「署(時空管理局隔離収容施設・特務隊仕様)までご同行願ってもいいんだぞ」
「本当にごめんなさい」
「レオさんが土下座を……」
 特務次元航行隊、機動武装隊の隊長であるファルドが使えばそこはもはや隔離施設という名の封印である。次元犯罪者にとってトラウマではなく精神に異常が起きるレベルだ。

「誰が犬のおまわりさんだ」
「忠犬ハチ公」
「それ、透羽じゃないか?」
「え、僕?」
 三人が透羽の顔を見て、どこか納得したように「あー……」と声を漏らしている。事態が飲み込めていない透羽だけが首を傾げていた。

「柴犬だな」
「秋田犬」
「……何の話?」
「いや、透羽に似合いそうな犬種の話」
「犬だけじゃなくて僕は基本的に動物好きだけど」
「透羽は本当に俺達の良心だな……」
 地獄に仏でも見つけたかのようにレオは呟く。


 ――隣の女性陣。

「透羽さんが柴犬……」
「似合いそうよね」
 なのはの呟きに幽香が何故かドヤ顔で頷いた。

「この間なんて、どこぞの妖怪に首輪つけられてたし」
(透羽さんの性癖ってそういう……)
 あらぬ誤解を招くようだが、実際は無意識な妖怪に無理やり付けられたのだが。

「首輪……」
「首輪……」
「そこのワンちゃん二人はなんでちょっと期待してるのかしら?」
 頬を赤らめてなぜそれぞれのご主人様(語弊一名)を見ているのか。マスターとレオが頭を抱えて顔を逸らしていた。

「ファルドさんに、首輪……」
「あら、いいんじゃないかしら。なんなら手ほどきするけれど」
「なんのですか!?」
「彼氏の調教だけど」
「透羽さん、調教とかしてませんよね……」
「する必要があるとでも?」

 ――妖怪怖い! しろろとリョウカとなのはの思考が真ゲッターばりにシンクロした。一方の幽香は嗜虐的な笑みを浮かべて指の骨を鳴らしている。それは調教ではなく整骨ではなかろうか。無論、折る方で。
 バキゴキと華奢な指からは想像できない音が鳴っている。そんな手で透羽はナニカサレタのだろうかと思うと、ああして生きているのが不思議でならなかった。
 男性陣も何か共通の話題でも見つけたのか、今は盛り上がっている。見ると、テーブルの上にはダイスと分厚いルールブックが載っていた。

「おいマスターてめぇ! 今のはさすがに理不尽すぎ――」
「市民レオ。どうやら幸福が足りてないようですね」
「ZAPZAPZAP、レオ!」
「あ、しま――!」
「お前、ミッション始まる前に四回死んでるってすげぇな」
「鬼畜シナリオ過ぎて幸福です」
 どうやら即興TRPGをしているようだ。



〜あとがき〜
 ( ゚ー゚)わんわんしろよ? 夜のベッドでな! ん? にゃんにゃん? おう、書いてやろうか(ふんぞり)
 テーブルトークロールプレイングとか面白そうですよね。市民、幸福は義務ですよ。幸福ですか? 幸福ですね? おや市民、幸福が足りてないようですね。

pc
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[002] By アメリカ兎
2013-12-21 21:32:44
 ――そのテーブルは、もはや殺伐としていた。互いの顔色を伺い、本心を隠し持つ仮面を被り、その手には鋭い凶器。そう。狂気こそが場を支配していた。如何に正気で狂っていられるかを肩を組みながら彼らは一つの困難を前にして団結しながらも決裂している。
 ここはディストピア。仲間の命は盾。己を守る盾なのだ。
 ここはパラノイア。狂った支配を至福と受理する幸福な市民の完璧な生活が約束された世界。

「市民、幸福ですか? 幸福は市民の義務です。改めて聞きます。幸福ですか?」
 その言葉に頷く人物はそこにはいなかった。まるで互いに互いの喉元へ刃物を突きつけているかのような状態で沈黙が返される。

「おや? 市民、幸福が足りてないようですね。幸福役の投与が必要でしょうか?」
「いいえ、UV(ウルトラヴァイオレット)様。私は完璧に幸福であります」
「市民レオは幸福なようですね。それでこそ完璧な市民です。あなたはどうですか、市民ファルド」
「イエス、UV様。これ以上ない至福を味わえる。私はなんと幸福な市民なのでしょう」
「では市民透羽。あなたは幸福ですか?」
「幸福は市民の義務です。それができないものは反逆者です。僕は幸福を噛み締めています」
「よろしい。それではあなた達トラブルシューティングの働きに活躍します」
 UV、この場におけるすべての支配者の名は――マスター。手元のルールブック、そしてシナリオ通りに話を始める。本来であれば四人以上の人数が必要であるが、集められたのが今はこの三人だった。特別にマスターが調整した三人用のシナリオで進められるTRPG。
 これより、完璧で幸福な市民三名の任務が始まる。



「おはようございます市民。今日も完璧で幸福な朝を迎えることができました」
「ああ、このような朝日が拝めるとは私はなんて幸福な市民なのでしょう」
「三人が起きて集合します。その時、スピーカーから音声が流れます」
『市民レオ、ファルド、透羽の三名はこれより大至急ブリーフィングルームへ集合してください。場所は――』
「近くを通りがかったトラックがエンジン音をたてて走り去りました」
 即座に思い知らされる鬼畜さに何度殺意を芽生えさせたか。それぞれが顔を見合わせる。

「現在の時刻は?」
「そうだな……七時半ということにしておこう」
「いきなり場所も知らされず行け、だもんな……」
「しかし市民、安心しなさい。このアルファ・コンプレックスのインフラは完璧です。なんと無人のタクシーが路肩に並んでいます。場所を指定するだけで目的地まで一直線です。今まで一件も事故の報告などは『挙がっていません』。完璧なのです、人口が二割ほど減ったとしても関係はありません」
「俺は、最速で、最短で、一直線に! 目的地に向かってカットビングする! 速さはパワー! ヘイ、タクシー!」
「馬鹿レオ、お前それに乗って――!」
「UV様。先ほど、トラックが走っていたということは、ここは人目の多い場所ですか?」
「そうなるな」
「僕たちはこれから仕事に行くんですよね」
「具体的にはトラブルシューティングだな。それでは市民レオは無人タクシーに乗りますか?」
「ああ乗るぜ、もちろん乗る」
 その発言にマスターがダイスを転がした。

「チッ……。無事に乗り込むことができました。タクシーに乗り込むと、運転席のある場所に巨大なコンピューターが置かれています。音声認識システム搭載の高性能AIが乗車した市民レオに語りかけます」
『ご乗車ありがとうございます。目的地をどうぞ』
「ありがとう完璧なタクシーよ。ブリーフィングルームまで“最速で”頼む」
 コロコロ。

『了解しました』
「その言葉を発した瞬間、市民レオを乗せたタクシーは青白い光に飲まれて爆発しました」
「グワーッ!?」
「言わんこっちゃねぇ……」
 市民レオ―1。無人タクシーの完璧な爆発により死亡。

「完璧なはずのタクシーが爆発するなんて、これもコミー(反逆者)の陰謀に違いない」
「ではUV様。普段から僕たちが使っているブリーフィングルームと場所は同じですか?」
「あなたのセキュリティ・クリアランスにその情報は公開されておりません」
「お決まりかぁ……」
 ここで、手詰まりかと思う。遅刻は言うまでもなく反逆罪で処刑対象である。
 しかし、アドレナリンをこれまでにないほど分泌させて左右の脳に過労を与えてでもここで無駄死には避けるべきだ。市民ファルドが思考する。

(ここは人通りが多い。イメージしろ。向かうべきブリーフィングルームはどこだ。トラブルシューターならば使う場所は限られるはずだ。時間の指定もされていなかった。そうなると集合時間は八時のはず。しかし、俺達が聞いていなかっただけで他の人物は聞いていた可能性がある。完璧で幸福な市民であるならば!)
「UV様、我々の階級は?」
「レッドです」
「近くにインフラレッド、又はブラックの市民は歩いていますか?」
「まぁ、歩いてるな。人の通りが多い場所だから。そうこうしているうちに市民レオの新しいクローンが送られてきました。次のクローンはうまくやってくれるでしょう」
「前の俺はコミーの陰謀で爆発するような間抜けな反逆者だったが、今回は完璧だ」
「では近くにいる……ブラックの市民を捕まえて聞き出すとするか」
 コロコロ。

「よし」
「よし!?」
「いーや、なに。出目がよかったぞ。ではスピーカー近くで座り込んでいたブラックの市民がどこかへ去ろうとしているのを見つけた」
「もちろん、呼び止める」
「ブラックの市民は足を止める。見るからに気弱そうな市民だ」
『なんでしょうか、レッド様が私めになにか御用で?』
「マスター。俺はここで耳打ちをする」
「いいぞ?」
 ファルドが深く息を吸い、吐き出す。ここから先は運と自前の口八丁で乗り切らなければならない。NPC=マスターであるそのディストピアを生き抜いていくにはそれしか手段がないのだ。

「君は完璧に幸福な市民であるな?」
『はい、私は毎日コンピュータ様によって完璧で幸福な毎日を送れています』
「では君は先ほどのスピーカの発言を一言一句聞き漏らさなかったな」
『それはもちろんです。もしやレッド様ともあろうお方が聞き逃したとでも?』
「まさかそんなことはない。完璧で幸福な市民が聞き逃すはずがないだろう。だが、幸福なことに君は私に偉大なるコンピュータ様の発言を繰り返す権利が与えられたのだ」
「チッ、うまくかわしやがる」
「おい漏れてるぞ! 心の声!?」
『それはなんとありがたいことでしょう。呼び出された市民三名のブリーフィングルームは』
「するとその時、近くで騒ぎが起きました」
「お前、おまえぇえええええ!! ブリーフィング前に全滅させる気だな!?」
「何言ってんだ。ちゃんとシナリオ通りだぞ? それに人通りの多い場所だしな、完璧で幸福な市民と言えど誰が反逆者なのかもわからない。街中で突然爆発起きようが、ミュータントが暴れようが、それは全てコミーの仕業なのです」
「くそ本職がぁ!!!!!」
「お前マジで死ねマスター! 今だけは心の底から!」

 結局。破滅的なダイス運と各所に散りばめられたコミーの陰謀に巻き込まれたファルドのクローンが真っ先になくなり、次いでレオと透羽がどうにかブリーフィングルームに到着するも遅刻による反逆罪で処刑され、誰もいなくなった。
 結局、第一の目標であるブリーフィングですらたどり着けないシナリオに挑戦すること四回。一度も成功していない。

 市民レオの死因。
 一人目。無人タクシーの爆発。
 二人目。道路を渡ろうとしたが注意散漫により死亡。
 三人目。ドアノブが爆発。
 四人目。インターホンを押して爆発。
 五人目。SSMの疑いにより処刑。
 六人目。遅刻による反逆罪で処刑。

 市民ファルドの死因。
 一人目。騒動を起こしたミュータントとの戦闘で死亡。
 二人目。コミーの疑いにより市民レオ・透羽によって処刑。
 三人目。ミュータント能力を発動して失敗、処刑。
 四人目。セキュリティ・クリアランス違反。
 五人目。階段が爆発。
 六人目。ペンが爆発。

 市民透羽の死因。
 一人目。ミュータントとの戦闘で死亡。
 二人目。無人タクシーの爆発。
 三人目。階段が爆発。
 四人目。エレベータが爆発。
 五人目。通りすがりのブルーに渡されたボタンを押して蒸発。
 六人目。遅刻による反逆罪で処刑。

 なお、ここまでで要した時間にしておよそ六時間である。リョウカ達の隣ではこんな不毛な争いが繰り広げられていた。



 〜あとがき? ねぇよ、んなもん〜
 あるんだなぁこれが。ぶっちゃけレオのセリフが書きたかっただけかもしれない。あとはGMマスターの鬼畜外道っぷり。
 殺伐! 怖い! おや市民? 幸福が足りてないようですね? いけません。幸福薬の投与が必要なようです。
pc
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