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投稿小説短編集
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[001] 緋色の人間と黒色の獅子
By アメリカ兎
2012-06-18 15:53:22
 蒼魔曰く、その人間が人類最強である事は疑いようのない事実らしい。
 蒼魔曰く、その人間がセカイ最速である事は疑いようもなく事実らしい。

 高瀬レオは、ホーウェン・ロックバルトがどういう人間かよく知らなかった。人類最強と言われてもピンと来なかったし、ファミリィにはそりゃもう比べ物にならない人間ばかりだからだ。

 さて……。

 人類最強と言われているのなら、それなりの理由があるはず。だが何故世界最強ではないのか、レオは首を傾げた。
 ホーウェンは無能だ、悪い意味ではなく。能力を何一つ持っていないのに、どうして最強だと言われているのか。だからこそ最強と言われている所以なのかもしれないが、だとしても何かしっくりこない。
 なので、一日相手してみることにした。正直な話、暇だったのである。暇だったのだが、後になってそれを物凄く後悔した。

 右手に剣を持ち、左手に銃を持つ。一風変わった戦闘スタイルだ。ナイフとハンドガンならまだしも、ホーウェンが持っているのは西洋剣とライフル。しかもそれでライフルを至近距離からぶっ放すのだから相手はたまったものではない。

「なぁ、ホーウェン。なんで人類最強なんて呼ばれてるんだ? どう考えても世界最強だと思うんだが」
 もちろん、この世界の中ではだ。マスターに至っては最強以前の問題なので省略。
 するとホーウェンは不思議そうな表情を見せた。何を言っているのか疑うような節で。

「なぜ私が世界最強だと?」
「いや、だって普通に考えれば──」
「レオ。この世界には様々な人間がいる。誰もが同じ思想、同じ夢、同じ目標を持っていれば争いは起こらず平和な世界になるだろう。私はこの世界の、人類を守る職務に誇りを持っている。おこがましいかもしれないが、私は世界の為に戦えるほど崇高な人間ではないのだよ。
 だから私は、人類最強と呼ばれることに抵抗はないが……世界最強と言われるのだけは耐えられない」
 そう言って、組んだ手に顎を乗せた。

「世界には様々な命がある。動物だろうと植物だろうと様々だ。それらを出し抜いて最強とは、一介の人間である私にはとてもじゃないが名乗れるものではない」
 人間相手になら最強と名乗れるのだろうかちょっと気になったレオは、自分を指さしながら尋ねる。

「じゃあ、セカイ最速の人間である俺と戦っても勝てるのか」
「さすがに無理だ。マスターから聞いた話は私の理解の範疇を超えていて、とてもじゃないが私は君を人間扱いしていない」
「……………え、俺どんな扱いされてるの」
「そうだな……」
 ホーウェンは軽く悩んで、それから。

「……人間以外、か?」
 レオは泣きそうになった。

「光の速度で走る人間を私は人間とは思えない、同時に別世界からの住人と言われてもどうも納得いかなくてな。すまない」
「じゃあマスターはどうなんだ!? あれどう考えても人間じゃないだろ!?」
 死んでも生き返る。その上あの馬鹿みたいな身体能力だ。蒼魔と呼ばれているだけはあるあれと長い付き合いならば分かるはずである。

「いや、マスターは人間だが……」
「どういう基準なんだ……!?」
「ん、まぁ確かに驚異的な身体能力ではあるが──倒せないほどではない」
 レオは自分がここ最近耳鼻科の世話になっていない事を思い出して、それから帰ったら耳かきしてもらおうと予定を建てた。

「……え、は?」
 自分が引きつった表情をしてるのが頬骨で良く分かる。

「つまりだな、レオ。私が勝てない相手、というのは人類が勝てない相手という事になる。君は別世界だからまだしも、マスターは常にこの世界で生きている。そんな相手に私が勝てないと言ったら、絶望以外の何でもないだろう?」
「えーと、つまりホーウェンは……」

 人間相手になら、負ける事が無い。
 そしてマスターは人間で。
 だから負けない、と。

「いやいやいやその道理はおかしくね? なんかおかしくね? 俺の思考がおかしいのか分からないけどなんかおかしくね?」
「何も変な所はないと思うのだが」
「え、じゃあなんか、こう……負けそうになった相手とか」
「試作型の多脚戦車を四機相手にした時はさすがに死ぬかと思ったが」
「人間相手でお願いします」
「居ないが?」

 レオは、今すぐにでも家に帰りたいと思った。生憎な事にここは取り調べ室という密閉空間である。なにをしたかと言うと公務執行妨害だ。
 回れ右させて首筋に当て身、気絶したレオを幽閉。以上の流れで現在に至る。

「ああ、すまない。訂正しよう」
(よかったー、俺の前にいる人がやっぱ人間で──)
「電磁強化外骨格スーツを装着した戦争犯罪者に生身で挑んだ時はさすがに死を覚悟したが」
 果たしてホーウェンを人間扱いしていいのかレオはその場で本気で考えた。念のため詳細を尋ねると、レールガンと電磁ナイフを装備して超電磁表面装甲で戦車の主砲に耐えたらしい。

「どうやって勝ったんだ!?」
「相手は人間だ。気絶させたのだが」
「どうやって!?」
「特殊弾頭をありったけ首に叩き込んだ。その所為で右肩が脱臼したがな」
「それだけで済んだのか……」

 絶対に愛車はこの世界に持ってこない事を決意した。レオは知らないが、ホーウェン専用機はマスターの旧オルトロス並の性能を持つ二輪駆動装甲車である。



〜あとがき。なまがき〜
何となくだべらせてみた!
うん、なんかこう、ホーウェンさんいい加減主人公やってください!って感じになりましたね!
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