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ゆーっくり執筆中。 魔女と過ごした3日間 ああ、本当に、これは良くない。 僕は小さくため息をつき、頬を撫でる1月の冷たい風を感じながら、そっと目を閉じた。 この世に生きるほとんどの人が、ちっぽけな存在だ。 地球というある惑星の、莫大な歴史の流れの、ほんの一瞬に投げ込まれた一粒の砂、いや、もっと小さい。そんな中にあって、それでも自分の存在だけは何とか保っていようと、人はみな頑張る。無意識に、一人でに。 僕だってそういう中の一粒であり……、いや、頑張れてはいないかもしれない。 人と人とのつながりというのを、僕は信じていない。 人は生まれるときも死ぬときも一人であり、自分を本当に理解しているのは自分だけだ。もちろん、誰かを理解することもできない。 生きるための手段として形成された集団の中にあって、人は人と接触することはあっても、溶け合ってしまうことはない。自分は自分であり、相手は相手なのだ。誰かを理解しようなんて傲慢なことで、誰かに理解されようなんて図々しい。 ……なんて、そんなことを言う僕は、きっと、嫉妬しているだけなのだろう。 誰かと本当のつながりを持っている、そう勘違いしている人達が、羨ましくて仕方がない。そういうことだ。 僕はそんな風には思えない。そんな相手はいない。だから、羨ましい。 人は僕を理解できないし、僕も誰かを理解することなんてできない。つながりなんて気のせいだ。 僕は、人を信じることができない。 「はあ、病んでるな、僕」 前方に点滅する信号が見えたけれど、そうやって、何かに挑むような気も起きず、僕はゆっくりと赤信号に停車した。 結局、次に目の前が青になるまで車は一台も前を通ることはなかった。 夕闇に包まれた道はどこかひっそりとしていて、歩道は誰も歩いておらず、僕はブレーキをゆるくかけながら坂を下っていった。 都会の空に星は数えるほどにしか見えず、それでもそんなもの普段意識しない僕は、それだけでも少し感傷に浸れてしまったりする。 こうしていると、この世には自分しかいないんじゃないか、そう思えてくる。 「知らない人ばかりで街ができてるとしたら、この世界はとてつもなくでかい孤独の塊だ」 歌の一節を小声で口ずさむ。スガシカオの歌詞は好きだけど、それで同じ気持ちを持つ人がいる、なんて思ったら、それはやっぱり勘違いなんだと思う。 人はどこまでいっても一人だ。 ∝ 夜、眠りにつくときが、心安まる一時だという人がいる。 僕もその点は大いに共感できるが、次目が覚めたときにはすぐ次の日が始まると思うと、少し憂鬱になる。多分それを思う人もいるだろうけど。 単純に、僕は対人恐怖症なのかもしれない。人間不信で、だから人と話すときには自然と常に警戒してないとならない。それがこの先何十年も、死ぬまで続くのかと思うと、時々ぞっとする。 疲れるんだよ、本当に。 僕はこのまま疲弊して、いずれは壊れてしまうのかもしれない。あるいは、既に、もう。 部屋の照明を落とし、目をつむる。 だから、時々思う。 このまま目が覚めなくてもいいんじゃないかって。 でも、実際そんなわけにはいかなくて、だから僕は代わりに、自分にこう言い聞かせる。 おやすみ。明日は今日より少しはマシになってるかもしれないって。 ∝ 窓から差し込む日差しに、僕は顔をしかめるようにして目を開けた。 数秒間まどろんで、それから意識がしっかりしだす。 さあ、今日もまた一日、始まったぞ。 大丈夫だ、朝の内は、まだ、寝ている内に少し補給した元気が持ってくれるし、暗闇に感じる感傷もない。そうでなければ、やってられない。 今日は木曜日だ。 とりあえず起き上がって時計を見る――6時半だった。 喉が渇いた。1月、流石に乾燥している。残念ながら僕の部屋に加湿器のような代物はない。 何か飲み物を、と階段を下る。寒い、ただでさえ歩くのが億劫だというのに。 リビングならもう家族が起きていて、多分誰かいるだろう。飲み物もある。 そう思ってドアを開けてみて、その期待、というよりかむしろ疑いようのなかったはずの光景は裏切られた。 寒い……誰もいない? そんな馬鹿な、と思いつつとりあえずファンヒーターを付け、それから家の中を見回る。 誰もいない、出掛けたのか? こんな時間に? しかも全員で? いや、僕を除いて、だが。 自慢じゃないが我が家は誰もが朝が弱いし、そして家を出るのも遅い。いや、それでも必要とあれば早起きはするだろうけど、それにしてもこれは不自然だ。 というか、今さらながらに違和感に気付く。本当に、今更ながらの話だけど……それは確かに違和感という表現がぴったりという感覚で、まぁありていに言えば 「ここは……どこだ?」思わず、口に出してみる。 いや、ここは僕の家であることには違いない。違いないのだが、違う、何かが。何かが決定的に違うのだ。 そうか、分かった。これは夢だ。 夢で表現された世界なら、違和感があってしかるべきだ。 そう、夢が覚めた、という夢。無いものでもない。ただ……それにしては……、意識がはっきりとしすぎている。 段々と状況の奇怪さが身に伝わってくるにつれ、それは吐き気を伴うような恐怖として襲ってきた。 夢なら早く醒めてくれ。 襲い来る得体の知れない恐怖から逃れるようにして、僕は玄関から飛び出した。裸足に寝巻という出立ちだ。 我が家は、大通りに面している。いつも、この時間帯なら、土日だろうと車や人が行き交っている、が、 静かだった。 人がいない。 こんなに不気味な光景が、あるのだろうか。 不意に大きな風が通り、木々を揺らす。 サーッという音だけが、空間に響く。 「ここは一体、どこなんだ?」 応える声はなく、ただひたすらに擦れ逢う葉の音がしただけだった。 ∝ たてつけの悪い戸は、反抗するようにガラガラと音を立てながら開いた。 案の定そこには誰もいない。 僕は何となく教壇に上り、そこから教室を見渡す。 そこは案外、思っていたより広く、期待したよりかは小さかった。 醒めない夢を覚ますこと、それをとりあえず諦めて、本来今この時間にあるべきように、僕は学生服を着て登校したわけだけど、それも何だか馬鹿らしいことである。 でも目覚めるのが嫌だなんだと言いながら、その義務も無い中でこうやってしっかり学校に来ている僕はきっと、本当に人と話したくないだけなのかもしれない。そう思うと、何だかむしろ笑えてしまう。 窓際の自分の席に座って、外を眺める。 いないのは人だけじゃない。動物もだ。 この世界には本当に、僕以外誰もいないのかもしれない。 この世界を孤独と呼ぶべきか。現実の世界でだって本当は人に心を許してない僕にとっては、皮肉なことに、どちらも違いないような気がした。 「空、青いな」机に突っ伏して、小さく呟く。 しばらくそんな風に呆けていたが、不意にちょっとしたことを思い付く。 屋上、行ってみるか。 マンガやアニメで昼休みに主人公たちが屋上で弁当を食べたりする、そういうシーンがよくある、けど、 実際屋上って解放されてなくね? という衝撃の事実。 というのはよくある話。 まぁ、どうでもいいことだけど、この際屋上での昼寝でもさせてもらって、そんなささやかな夢を叶えてみるのかもいか、と思った。昼寝から覚めてみれば現実で屋上で寝てた、なんてフィクションによくありそうな話だ。 職員室から鍵まで拝借してきて――もちろん人はいなかったので無断借用――そして屋上の入口まで来た、が、鍵はかかってなかった。 無用心だな。 まぁ用心する必要もなさそうな世界だけど。 ノブをひねって扉を開くと、冬の冷たい風が頬を撫で、そして無限に広がる空が見えた。 ああ、この空間は、この空は、僕だけのものだ。 「待って」 風の音……? 「それ以上、こっちに来ないで」 ではないようだ。 見るとそちらには、柵を乗り越えて今にも落下しそうな危ない位置に、 一人の少女がいた。 ……人が、いた? 「……こんにちは?」人間との予想外の遭遇に、早くも脳の処理能力が追いつかなくなった僕は、そんな味気ないセリフを吐いた。 「それ以上近付いたら、私、飛び降りるから」 ……これはいわゆる、飛び降り自殺というやつなのだろうか? だとすると、俺の役割はさしずめ説得といったところだろうか? いや、僕には荷が重いよ、それは。
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