[
通常モード]
[
URL送信]
メッセージの編集
お名前
メールアドレス
※変更する場合のみ入力して下さい
ホームページ
本文
谷中町物語 000 「そんなこと言ったら、その役目は僕が担うしかないじゃないか」 「いや、待てよ!」 「大丈夫。別に嫌なわけじゃない、ちょっと淋しいな、なんてぐらいの話だ」 「誰かが、やらなきゃダメなのか? だったら俺が――」 「いや、僕だ。これは、僕の役目だ」 そう言い切る奴に、俺は何も言い返すことができなかった。 「そんな顔するなよ、また、どこかの世界で会おう」 「その、どこかの世界、では俺は、俺達は、お前のことを知らないんだろ」 「さぁ、どうだろうね。世界というのは気まぐれだ、何が起こるかは分からない」 「そうやってお前はまた、はぐらかすようなことを」 「ははは、悪いな。腐ろうが神になろうが、癖は抜けないよ」 「約束だ」 「ん?」 「今度お前が俺達と会ったら、その時は――」 「約束はできない」 「最後まで言わせろ」 「僕だって覚えてられるか定かじゃないんだ、何とも言えないよ」 「それでもいいから、黙って聞け」 俺は息を吸った。埃っぽさを纏った空気だった。 「俺達とお前がまた会ったら、その時は、また仲間になろう」 俺の言葉に驚いたのか、それとも納得がいったのか、奴はふっと笑い、 「分かったよ」と言った。 001 夏の暑さは、何年経験しようが慣れられるものじゃない。 節電、という貼り紙がなされたクーラーはコンセントが抜かれ、リモコンのピッピッという音にはうんともすんとも言わない。頑固者のようだ。 仕方なく目の前の扇風機の風圧を上げて、そして今にも溶けだしそうなガリガリ君をかじる。梨味だ。このマンガが読むの何回目だっけ、と急にさっきまで自分のしていた行動が馬鹿らしくなり、全てを投げ出すかのようにソファーにぐでー、と寝そべる。 不意に、玄関口の方で鍵の開く音がした。 「孝祐ーいるかー?」とそちらの方から声がする。 「あーいるよー、おじさん」寝っ転がったまま声のした方に返す。しばらくして、 「また人ん家勝手に上がってくつろぎやがって」と言いながら、啓二叔父さんはリビングに入ってきた。 「お邪魔させてもらってます」 「今更気にするかよ」と言い放つ。 「じゃあ言うなよ……」まあ確かに、叔父さんの家は小学生の頃から利用させてもらっているが。 「ほれ、ガリガリ君いるか、って食ってんじゃねーか」叔父さんは左手の小さなコンビニ袋からぶどう味を取り出した。 「あーいるいるいるー食う食うー」 「食い気だけはあるんだな、いやガリガリ君だけども」 「面白くねぇよっ」と、ぶどう味を掠め取る。 ため息混じりに叔父さんは袋からもう一本取り出し、俺も食うか、と呟く。 「孝祐よ、お前さぁ」 「何?」さっきテーブルに投げ捨てたマンガを再び読みはじめる俺。 「毎日毎日、学校終わって俺んち来てるけど、他にすることねぇんか?」 「……」無い、と答えてもしょうがないか。 「昔はそりゃあ裕人とか雫とか、アイツらとつるんで――」 「大輝もだ」一人だけ言わないと何か意味深になるだろ。 「いやまぁ……そう、それで、わーきゃーやってた頃はまあいいと思う」 「わーきゃーって……」叫び声だろそれは……。 「けど今は、違うだろ? アイツらだって今頃部活とか何かやってるんだろ?」 裕人は違うけどな、というのは揚げ足ばっか取ってるようなので黙っておいた。 「それが今の有意義な時間の過ごし方ってもんなんじゃないのか? お前は、どうなんだ、こうして毎日ぐーたらしてて」 その言い方だと一日中怠けてるみたいだけど、学校終わった後だからな、ぐーたらしてるのは。 「ここらで一度、考え直してみたらどうだ? 何でもいいんだ、やることは。ああ、ここで時間潰すのは無しだぞ。この感じだとお前多分、夏休み入ったら毎日一日中こんな感じになるだろ」 確かにそれは否めないが……。 「高2の夏なんて一度きりだぜ? コイツは俺からの宿題だ、夏休み入るまでに決めろ、お前は夏、何をするか。決めてこなきゃ夏休みの間うちは出禁にすっからな」 「マジっすか……」 「マジだ」叔父さんの顔はマジだった。 ふぅ、と溜め息をつく。 「……そういうの」 「ん?」 「叔父さんには言われたくないけどね」 「……何だと、失礼だなてめぇ」言葉遣いほど、叔父さんはマジギレしてない。 「それに……」これは、自分に言われたくないことだが 「そんなことは、分かってるから」 「今日はもう帰るよ」 「そうか、気つけてな、あと宿題忘れんなよ」 「はいはい」 笹原孝祐、16歳。高校2年生の夏、彼女も居ず、全くもって情けない話ではあるが。もちろん、その危うさには気付いている。その上でこのていたらくなのだから、なおもって情けない。真面目に考えたほうがいいのかもな、叔父さんの宿題。 一昨年の、そのまた一昨年の夏ぐらいまでは、こんなんじゃなかった気がするんだがなあ。過去に浸っても仕方ないか。 「あれ、早恵ちゃん」叔父さんの家から我が家へ帰宅する最中、前方から赤いランドセルの小学生が見えた。 「コウ兄、こんばんは」 「こんばんは」早恵ちゃんがランドセル以外に大きな買物袋を持っているのが見えた。 「買い物、晩御飯の?」 「うん」 「親がダメだと子がしっかりするって本当なんだな」 「人の親に対して失礼じゃないですか、それ」まぁそうかもしれないですケド、と呟く。お前は新妻エイジか。 「お父さんによろしく言っといて、って言ってもほんの十数分前まで会ってたんだけどね」 「またぐーたらしてたんですか?」 「親子揃って同じ言い方しないで」これでわーきゃーとかいう表現を使われたら卒倒しそうだ、っていや、それは極端な冗談だけど。 「まぁいいや、じゃあ頑張ってね」 「はい、コウ兄も」何をだよ、ってのは多分お互いに思った、けど言わない。 藤原家、啓二叔父さんと早恵ちゃんの家から徒歩25分って所に我が家はある。毎日放課後にあの家に寄って、そして1時間ぐらい時間を潰してから帰るってのが日課である。たまに晩飯を一緒させてもらうこともしばしばだ。 すぐ左側の車道をバスが通過する。日はようやく傾きだした頃、だろうか。 我が家と藤原家は路線バスの運行路上にある、といっても過言ではないのだが、俺は徒歩派である。何故バスを使わないのかというと、それはバス代をケチったのと、あとはバスの本数の心許なさだろう。ちなみに自転車はトラウマと階段があるので使わない。 意識せずに足元の小石を蹴った、それは当初思ったより大きく飛び、ゆるやかな放物線を描いて車道に転がった。車は、ほとんど通らない。歩みを止めることなく、危険地帯にほうり出された小石を眺めていた。そんなときふと、反対側の歩道が目に入る。 人が、倒れていた。 そう認識するまでに3秒かかり、体が動くまで5秒かかった。言うまでもなく車は走っておらず、俺は躊いなく車線を横切り、反対側の歩道まで歩いていった。夕方に酔い潰れている呑んだくれ、という珍種を想像したが、どうやらそれは違ったようだ。 倒れていたのは、俺と同じくらいだろうか、少女だった。服装は、制服などではなく、麦わら帽子にワンピースだった。いや、某人気マンガを連想させる組み合わせ、流石です。じゃなくて、 「元気、じゃなくて、大丈夫ですかー?」言っておくが別に猪木好きじゃないからな。 返事がない。ただのしかばね……だったら困るな。 その時、わずかにピクリと手が動いた。見間違いではないと思う、ちゃんと生きてる。しかし参ったな、こういう場合どうするんだったか。 見たところ外傷はなさそうだ。この町の119番は正直当てにならない、ということを俺は3年前身をもって知ったが、そんな話は今どうでもいい。 「おい、大丈夫か!?」今度はしっかりと、それこそ猪木ばりに元気な声で耳元に問い掛けた。 「う……」反応があった。 「大丈夫か!?」再度問いかける。 「……す」 「す?」何だ“す”って? それとも最初のと合わせてうっすか? 随分男らしい挨拶だな。 「すいた……」 「空いた……?」どこがだ? 駐車場か、レストランか、ていうか今伝えることなのかそれ? 「お腹すいた」 「……」 理解した。 「早恵ちゃん、今日晩御飯そっちで頂いてもいいかな?」 「……いいですけど、今日の今日で凄いメンタルですね」 くっ、小学生が言う皮肉にしては毒が強すぎるよ! 「う、うん……あとそれと、もう一人連れていきたいというか、むしろそっちがメインというか……」 「お客さんですか? それは……あ、お父さんに替わります」 「あ、はい」正直、今日の今日で気まずいのだが。 「おう、どうした孝祐。やること決まったか?」 「いや、残念ながらそうじゃなくて、晩飯、今日いい?」 「うちでか? いや、いいけど、何でそう急に」 「俺もよくわかんないんだけど……あと、もう一人、えっと連れていってもいい?」 「誰だ、裕人か?」そうだったら普通に言う。 「いや違うよ」 「……まさか、女か?」 「いや、うん、そうだけど、別にそういう意味じゃないから、合ってるけど多分違う意味にとらえられてるよね」という言葉がむしろフリっぽいので逆効果だった。 「そうかそうか、女か、お前も隅におけねぇな。よし来い、早恵と絶品料理作って待ってるから」 「はい……もう何でもいいです、ありがとうございます」否定しても事態が悪化しそうなので早めに適当に認めておく。 そして、通話を切る。 「……で、あんた、歩けるか……?」 「……無理」多少喋れるようにはなったものの、ぐったりしていた。どうやら空腹で倒れてたらしい、そんなのこの国でアリかよ、って感じだけど。 「悪いな、俺ん家帰ってもすぐ出せるものなさそうだし、かといって田舎町だけコンビニもここらに無いから、ちょっと歩くが俺の叔父さん家まで行くぞ」 と腕を引っ張ってみるがまるで動かない。死んでるんじゃないのか? 「おぶって」 「は?」 「……」 ……黙るなよ。 「……おぶさりてぇ」 「うわっ、怖ぇ!」こんなところでまさか妖怪と出くわすとは! 「はぁ、しょうがねぇな」って俺は何をしているんだか。 さっき出会ったばかりの見知らぬ少女を背負い、そして俺は道を引き返していった。 しかしこう文句ばかり並べてはいるが、かつての日々を思い出させるような、そんな非日常を漂わせた今の状況に、少なからず俺は心躍っていた。 002 「あんたよく食うな……」 「お腹空いてたんだもん」と冷凍食品のシュウマイを頬張りながら言う。 「そんで、名前は? 歳は? 家は? 何があったんだよ?」 うーん、と考えるような動作をして 「啓二さん、これもう一個貰っていい?」 「おう、いいよいいよ」 「あ、これもいい?」 「いいよー、どんどん食ってー」 「美味しー♪」 「……俺の質問は!?」 という感じのやり取りが何度か繰り返されてる。 てか食い気ヤバイなコイツ、どんだけ空腹だったんだよ。俺のガリガリ君好きもこれには顔負けだな……って言うほど俺、実はガリガリ君好きでもないんだけど。 「千里」 「ん?」質問に答えてもらえない俺は多分拗ねた感じで返事をしたと思う。 「大辻千里……名前だよ。歳は、君と同じ」ティッシュで口を拭きながら言う。 「何で俺の歳知ってる前提なんだよ」 「16でしょ? 知ってるよ」 「何で知ってんだよ!?」急に寒気がした。 「でもーうーん、それ以外は……女の秘密? 一宿一飯させてもらうのに申し訳ないけど」 「何で泊まる気でいるんだよ!」 コイツ侮れないぞ、発言の節々に爆弾しかけてやがる。 「はぁ……お腹いっぱい、ごちそうさま」と丁寧に手を合わせて言う。 「お粗末様でした」と藤原親子は声を揃えて応じる。 やっとか……。つーか本物の大食いっていう人間を初めて生で見た気がする。いや、本当に空腹な人間の食事、だろうか。 「それじゃあ、俺らはお邪魔なようだから、お暇するよ」 「おいちょっと待て」と早急に呼び止める。 「……何だ?」 「何だ? じゃねぇよ!」 藤原親子に揃って解せぬ、という顔をされる。数時間前の前言撤回、この親子やっぱり似てやがる、嫌な感じっていうか面倒臭い絡み方が! 「こっちの会話聞いてなかったわけじゃないよな?」 「何か話してましたか?」早恵ちゃんがとぼけた顔で聞き返す。 「聞いてないのかよ!」 はぁ……と溜め息をつくと、流石に弄ぶのも可哀相だと思われたのか、そう思われる自分が一番不憫な気がするが、叔父さんは少し表情を正した。 「千里ちゃん、だっけ? 君は、この町の人間じゃないよな」と叔父さんは言う。 「うん」今更だけど敬語使わねぇなコイツ。 「家族は?」 「言えないよ」 「……誰かと一緒に来たわけじゃないのか」 「うーん、今は1人」今は、ってことはその前は誰かと一緒だったのか。 叔父さんはふと、何か考え込むように黙ってしまったので 「今晩はどうするつもりだったんだ? ここらに泊まれる場所なんてあったか……?」と質問を俺が引き継ぐ。 「考えてなかった」 ……計画性無さ過ぎだろ、どんなその日暮らしだよ。 俺が質問をやめたことで会話が途切れる。 しばらく沈黙が続いたあと、千里と名乗った少女は突然立ち上がった。 「……お願いします。明日には出て行くので、一晩だけでいいので泊めさせて下さい」そう、90度に綺麗なお辞儀をした。 俺はふうっと溜め息をつき、静かに立ち上がる。 「いや、突然、てか今さら畏まるなよ……。身の上は、話せないんだよな……」念のため、いや何の念だか分からないけど、もう一度確認する。そして、 「まぁそれでも、別に一晩や二晩くらい、問題無いよな?」と叔父さんの方を向く。 叔父さんは何か考えているのか、答えなかった。 「ここがダメってんならうちに泊めるけど」 「……それは保護者として見過ごせないな」と叔父さんが答える。 「そんな台詞を叔父さんから聞くと思わなかったけど」 「……分かった分かった、いいよ。……ただ、お前も今晩はうちに泊まっていけ」 不意の言葉だったが、尤もな言葉だったので頷いた。明日は土曜だし。 それ以後は、なぜかパーティーもどき、騒がしい夜だった。 さきのさっきまでシリアスムードだったのがどうしてこうも簡単に切り替えられるのか、というのはしかし俺も例外ではなかったので人のことは言えない感じだったが。 とにかく色々喋って、飲み食いして、ちなみに千里はその後まだ食った、ゲームをして、小学生と高校生2人とおっさん(と言うが実際はまだ二十代である)という組み合わせでこんな盛り上がれるものなのか、という感じに騒いだ。 そして全員最後は気を失うようにリビングに雑魚寝することになった。 § 我が家笹原家の母、笹原華恵は、俺が小学校3年生の夏に死んだ。 両親は共働きで、俺と、7歳年上の姉は、死語かもしれないがいわゆる鍵っ子、というやつだった。それでも母は夕方頃には帰宅し、疲れているところ一つ見せず家の一切の家事をこなす、そういう人だった。 死因は事故だったという。というのも、それは仕事中のことで、会社の工場の視察だったか何だかに行った際に、運悪くその場で人的ミスが起き、石油化学を扱っていたというその工場は爆発、それに巻き込まれたということだった。 不運という言葉で片付けるにはあまりにも、むしろ母は最初から死ぬ運命だったかのような、そんな風に思わざるを得ない事故だ、と子供ながらに俺は、その事故に疑問を持った。 そして考えたのは、その事故は、誰かがうちの母を殺そうと策謀したもので、それを知った母はその事故で死んだふりをして身を隠した、なんてそんな突拍子もないことばかりだったけれど。確かに、といえば確かに母の仕事は詳細が不明なところがあり、大手スーパーの本社社員という肩書きの割には不自然だった気は今でもする。 でもそれは、結局は母親の死が受け入れられなかっただけの話なのだろう。 この世にはもしかしたらそんな壮大な悪がいるのかもしれないけど、それはこことは違うどこか離れたところの話だ。俺の母親は、事故で死んだのだ。 § 喉が渇いた……。 不快な感触を味わいながら、俺はふと目を覚ました。カーテンの隙間から見えた空は、薄い藍色をしていた。時刻は、明朝といったところだろうか? ガタッという音がリビングの方からした。そちらを見ると、ちょうど千里が片手にコップ、片手に天然水を持ってリビングに来るところだった。彼女は俺が起きているのに気付くと、少し驚いたような素振りをしてから 「おはよう、早いね」と言った。 「お前ほどじゃないよ」気持ちわりーとぼやきながら上体を起こした。 そういえばこの相手のことを何と呼んでいたのか、お前、という言葉がどうも違和感があったが、というかそもそもよく考えたら昨日会ったばかりの相手なんだよな……。 「俺にも水、いいか?」 「あ、うん、ちょっと待って」と千里は水を持ってキッチンの方に戻った。 叔父さんは少し離れた床に、早恵ちゃんはソファーの上に、二人ともまだ眠っている。壁にかけられた電波時計を見ると、時刻は4時10分を指していた。 しばらくして戻ってきた千里は、水の注がれた別のコップを一緒に持っていた。はい、とそれを渡され、俺は軽く礼を言って一気に飲み干した。気持ち悪さはそれでだいぶ薄まった気がした。 「……あんなに騒いだのは、久しぶりだったよ」 「私も、久しぶりに、楽しかった」 静かに二人とも笑う。何がおかしいのか、いや、けど、その空間は心地が良かった。 「俺、今一人暮らしでさ……、昨日話したっけ? 母さんは子供の頃死んじまって、親父は一年のほとんどを出張で家にいない、で、姉ちゃんはちょうど一年ぐらい前、結婚して嫁にいった……そんな感じでさ」何となく、俺は話し出す。千里は静かに頷いた。 「まぁそれでも、何年か前までは友達と一緒に、その時もここだったな。よく集まって騒いでたよ、今じゃあ皆付き合い悪くてめっきりだけどな」 「楽しそうだね」 「ん? ああ、楽しかった。母さんが死んで、それから俺が何とかやってこれたのは、そこでだらし無く寝てるおっさんと姉ちゃんと、仲間達のお陰だよ。……なあ?」 「なに?」 「千里は、どうだった? ちょっとお前の話も聞かせてくれよ」 「……そうだね」 そう頷く千里の姿が、段々ピントが合わなくなってきた。喉の渇きが潤ったことで、また、睡魔が襲ってきたようだ。 「私も、仲間と、お世話になった人がいたから、やってこれたかな」 「そうか……」 「お世話になった人は、もういないんだ。だけど、いつか何かで恩返しできればいいな、と思って……けど、私にはできることは無いのかもしれない」 「……どういう、ことだ?」ヤバイ、急に、本当に眠くなってきた。 「私は、結局周りを不幸にするだけだから」 「……そんなことは、無いだろ……俺は昨日、久しぶりに、楽しかったぜ。叔父さんも、早恵ちゃんも、きっと、そうだ。それは、千里が、いたから……」 段々と思考が回らなくなり、口調も覚束なくなる。 「……孝祐は、優しいね」千里が微笑む。俺の名前を呼ばれたのは、初めてだっただろうか、不思議な感覚がした。 「やっぱり君のお母さんに、そっくりだ」そう、彼女は言った。 ……母さん……? どういうことだ? 何が、何だか、言葉を発そうとしたがその時既に、俺の意識は肉体から離れようとしていた。 「だから、ゴメン。孝祐を巻き込むわけにはいかないね」そう言って、千里は立ち上がる。 「……どこ、へ……?」遠ざかり行く意識の中、何とか声を発するが、 「ありがとう」千里はそう言い、微笑んだ。どこかで見たことがあるような、深い寂しさの漂う笑みだった。 彼女はその礼を最後に、そして部屋を出て行った。 玄関の扉が閉じられる音がどこかでして、そして、俺の意識はどこかへ遠退いていった。 001も多少書き直した。 眠いなか書いてるから何か文章ってか話の展開がおかしい気がするんだけど、大丈夫かこれ?
画像
設定パスワード
編集する
削除する
無料HPエムペ!