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W & W 001 俺は、運命というものを信じない。しかし、宿命なら信じる。 矛盾しているのではないか、って? そうだな、そうかもしれない。 あえて言うならば、基本的に自分の人生の行先は自分で決めるものだが、しかし、人生において、いくつかは避けられないことがある。そういうことだろう。 俺は自分の人生で、それを痛く実感した。そう、例えば。 ж 「……うーん、多分、これじゃあうちの高飛車なお嬢様が納得しないかと」 という、相手の期待を容赦なくぶった切る俺の発言に、その場が凍りついた。 「こ、これでも、ですか?」担当者の男性は、多分通ると思っていたのだろう、焦るというか間違いであってくれ、というように再度確認してくる。 「うーん、そうですね、いつもの感じでいくとこの二倍ぐらいじゃないと……」言いながら可哀想になってきた。 相手が絶句する。上司に殺されます、て感じだ。生憎だがそれはお互い様である。 「ダメですね。これで通しちゃうと俺が殺されます。……あ、比喩ですよ?」まぁ本気で殺される、とも何度か思ったが。 相手が黙りこくってしまった。 持ち帰って検討させていただきます、ってわけにもいかないのだろう。多分既に限界の金額を提示しているのだ。 チムの奴もどうせ金なんていくらでも持ってんだからもっと割引してやりゃあいいのに。……まぁ確かに、需要と供給のバランスで考えれば、供給側がごく少数という意味で釣り合った額ではあるのかもしれないが……。 まぁしかし流石にこのまま黙りこくってても仕方がないので、 「……まぁ、俺が掛け合ってみましょう。そちらもできる限り上限額を上げられるようよろしくお願いします」 多少救われたか、て感じに相手は頷いた。言葉も出ない、か。 《何をチンタラしてる》 はいはい……、お呼び出しだ。 《今終わって帰るところだよ》 《遅いな》 《無茶言うな、俺家出てまだ30分だぞ。むしろこんなスピーディーな商談聞いたことねぇよ》 《うっさい! 早く帰ってこい》 と、そこで通信が切れた。 今日も変わらず横柄なようです。うちのお嬢様ことチムさんは。 買い物してから帰るかとも思ったが……そうもしてられなそうだな。早急に帰らないと殺される。 メールが届いた。 『from.直哉 sb.高橋から転送』クラスメイトの直哉である。 『高橋がお前のメアド持ってないってから、差し支えなければメアド連絡してやって。 以下送られてきたメール。 -------------------------------------------------------- 今度の土曜日にこの間の文化祭の打ち上げやりたいと思ってるので、出欠確認とりたいと思います。 俺に直接メールするか、誰か伝えでもいいので連絡下さい。 打ち上げの場所は――』 ……うーん。 『不参加。伝えといて。』と直哉に返信。家に向かって猛スピードで走行中なので端的な文章しか書けない。 こんな簡単にクラスのお楽しみ会を欠席するなんて、俺の高校生活はもう早速死んでるのかもな。 あと2年半ぐらいあるが、やっていけるのだろうか? 《遅い!》 《あと2分20秒で到着するからー》 《5秒前に着かなきゃ殺す》 《限界を超えろと……? んな無茶な》 ……無理そうである。 「ハァ、ゼェ……ただいまー!」 「遅かったな、下僕」と、玄関で待ち受けていた少女が言う。 「下僕言うな」といつもの儀礼的な挨拶をし……そして 「で、何で俺を執拗に帰らせようとした?」と問う。 黙られる。 「どうした?」 「理由はない」 「はぁ?」 「下僕を呼び戻すのに理由など必要あろうか」 ふざけんなよ、と言うのが無意味なことはもう充分分かっているので 「あーはいはい」と答える。 それに、呼び戻された理由は言われずとも分かった。 「冷蔵庫空っぽだから、俺このまま買い物行くけど?」 「同行してやろう」 「そりゃあどうも」 俺は、普通の高校生、になる予定だった。4年前からほんの1か月前まで。 それをコイツにかき乱された。チムこと、元大魔女ウッチェス・メイリアリーに。 しかしそれを招いたのも結局は俺であり…… ……だから人は、宿命には抗えないのだ。
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