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<HR color=#FFCCFF size=2>2 シンのことは嫌いじゃない,と思う。でも,好きかと聞かれると言葉につまる。自分が彼にそんな感情を抱くことすら烏滸がましい気がして。この感情はそんな単純なものじゃない。 僕は彼の全てを奪った。僕は彼の心の傷。どう接していいのかすらも分からない。壊れ物を扱うように接して,あの鋭利な視線に突き刺され,何も言えなくなってしまう。深紅の瞳の前では取り繕うことすら出来なくて,泣きたい気分になってくる。 違う。 泣きたいのは僕じゃない。泣いていいのは僕じゃない。 だって彼は,いつだってその純粋過ぎた心に涙を流してる。 戦争中の彼はどこかおかしかった。そう,アスランを始めとするミネルバの彼の仲間達は口にしていた。 僕はその頃の彼を知らない。いや,実際にはMS越しに何度も刃を交えていたのだけど。生身の彼に会ったのは,もう遠い昔のような気がして。 でも,彼がおかしかったというなら僕のせいだ。彼を戦場に呼んでしまったのが,他ならぬあの時の僕達──僕なんだから。 慰霊碑の前で,泣きそうな顔をしていたシン。 戦場で,いつもやり場のない怒りを持て余していたシン。 僕の知らない──知ることの出来なかったステラという少女。守りたくて,守れなくて,絶望,怒り,嘆いて。 僕は知らなかった。見えていなかった。どうしようもないくらい,僕はシンを苛んで,それでも僕は誰かを守りたかった。 僕もシンも,只守りたかった筈なのに。シンは守りたかったものを守れなかった。僕の存在がそうさせた。 僕は只,自分の信じるものの為に。間違っていたとは思わない。でも,正しかったとも思えない。 何て矛盾だらけなんだろう。 僕は結局,どうしたかったんだろう。 平和な世界を夢見ていた。でも僕のしてきたことは矛盾の塊……。 「キラさん」 不意に呼び掛けられてハッとする。 意識が現実に戻った途端,目の前に深紅の瞳があった。 あまりに真っ直ぐな瞳に,思わず視線をそらせてしまって。それにシンが目を細めたような気がしたけれど,気のせいだと自分に言い聞かせる。 「シン君。いつからいたの?」 「ずっといましたけど。でもキラさん,また何か考え込んでるみたいだったから」 『また』。 そうなのだ。 シンと対していると,つい思いに耽ってしまい,それを度々目にする彼にとって,キラは「いつもぼーっと何か考えてる人」という人物像らしかった。 さっきも多分,何処かにシンの気配を感じてあんなに考え込んでしまったのかもしれない。 「ごめんね。何の用事だったの?」 微笑んで,そう問う。シン自身が僕に用事があるとは思えなかった。今の僕達はそんな間柄ではないから。 でも,出来るならば。友人とまではいかなくても,それに近似した関係になりたい……細やか(ささやか)な願望があったのも,確かだった。 「ああ。胸のでかい,ほらあのマ……マユ……じゃない,そう,マリューって人が呼んでましたよ」 そしてやっぱり告げられた内容は予測していたもので。 シンに近付くのは怖い(ちょっと違うけれど,ぴったりくる言葉が思い付かない)。 でも,もっとシンに近付きたいという気持ちも大きくて(勿論シンがそれをいとうなら,すぐにでも身を引こう)。 やっぱり僕は,矛盾の塊。 シンに礼を言って,マリューさんと会う為彼に別れを告げた。 独りになったシンがどんな顔をしていたかなんて,僕は知る由もなかった。
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