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兄 う…うわぁあ!! 男達は恐怖する。たった1人の,唯の子どもである筈の彼に恐怖する。 感情のない瞳。 ……それは無理のないことだ。彼はその時,綺羅のことだけを考えていた。その瞳の色に,綺羅は察することはあっても男達が気付ける筈もない。 綺羅を想い,綺羅の浅はかな行動を咎め,その手を取る前にすることがある。視界に入る邪魔なモノを排除しなくては,と。 他者に対する興味は,ない。生きていようと,なかろうと,彼にとっては“モノ”に等しい。己と,血を分けた存在である,妹以外は。 男達の認識する子どもという存在が,する筈のない表情に,恐怖する。 相手はたった1人の子どもだ。それと,何の力もない小娘。なのに,何故こんなにも恐ろしい? その鬱陶しく血と死のニオイが籠る部屋を,支配するのは恐怖。 各々に怯えていた。その中でぽっかりと,違う空気を孕むのは,血の滴る刀を無言で握り直す,黒髪の,彼。 1人,確信していた。 こんな雑魚に,負けはしない。 唯,妹が気掛かりなだけだ。 足手まといだと思ったことはない。アイツが何をするか,どう思っているかなんて,いつだって手に取るように分かる。全ては己の腕の中。けれど,今は。怯えて瞳を震わせて,正常な思考や行動は取れないだろうと,安易に予測がつく。 仕方がない。 ぐいっ。 近寄り,手を引き,抱き締めた。利き腕とは反対の手で,後頭部を撫でる。……背に回した手は刀を持ったままで若干煩わしかったが,今此処で武器を手放す程,呑気ではない。 腕の中で,細く名を呼ぶのが聞こえた。 もう1度言う。逃げろ。いいな? 耳許で低く囁くように告げると,綺羅は胸に押し付けていた顔を上げ,必死な瞳を向けた。 ……。 視線が絡まる。 見詰める,同じ色の瞳。 お互いの姿を目に焼けつけるかのように,短いけれど,熱い。 綺羅は,唇を噛むと,無言で頷く。 緩めた腕から綺羅は抜け出し,一瞬の躊躇いを残して,走り去った。 我にかえり追い縋ろうとした男を,難なく斬り捨てる。本当に手応えのない。 こんな輩でも,追い詰められて,あんな状態の妹を庇っていては,多勢に無勢,相手にするのは流石に難しかっただろう。 これでいい。 深く,溜め息を吐いた。 アイツに触れていいのは兄である俺だけだ…。 なのに,どうしてくれる? 怯えていた。慰めてやらないと。めそめそ泣き出して,面倒なことになる。 本当は手を放したくなかった。けれど,今放さなければ,永遠の別離を突き付けられただろう,不本意にも,こんな雑魚供のせいで。 幼くて,愚かな妹。俺を信じろと,言っているし,理解している筈だ。何を不安がる必要がある?この俺を,馬鹿にしているのか?見くびるなよ……俗物にどうにかされるような,安っぽい魂を,信念を,持った覚えはない。……躾直す必要がありそうだな。 さあ,どうしてくれる? どう償ってくれる? 簡単だ。答えは,1つだな……? 場違いな程に麗しく,紛れもない狂々しさを滲ませて,静かに,微笑んだ。
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